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八百万の精霊使い  作者: 好風
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三章 戦う理由 3

 クラスは五つのパーティーに分かれていた。

 最初のパーティー実習と言うこともあり、編成は仲の良い者同士が集っている。多いところで六人、少ないところで四人の平均五人パーティになる。

 五人で均等に分割しないのは、仲の悪い者同士を無理に組ませるのを避けたためだ。

 実習が進めば、いずれは反目し合う相手とのパーティーを組むこともあるのだが、始まったばかりの実習で、人数重視のあまり不協和音を刻むパーティー編成は避け、少人数でも良いから連携の取れる息の合った仲間同士を重視した結果となった。

 ちなみにフィルのパーティには、フィル、モノク、ピア、ラティの四人だ。

「先生、私は?」

「ファイか。お前は――」

「先生、私達ファイさんと組みたいです」

「あっ、うちも組みたい」

「それだったら俺達のパーティーに是非」

 いくつものパーティーが名乗りを上げていく。

「そうは言うが、隔絶領域への立ち入り許可を持った神楽女を参加させると、バランスがな」

 腕を組み渋い顔をするネガ。もっとも、顔の上半分は仮面に隠れて解らない。

「それなんですけど、先生。私、雷の精霊が砕けているので精霊憑依は出来ません」

「ああ、そうだったな」

 重要なことを失念していたネガだ。

「なんだ、精霊憑依が見られないなら、俺達はいいです」

「うちも……」

 パーティーの大半は、精霊憑依を間近で見てみたかったのだ。

「精霊憑依できないと、強さ的にはどれくらいになるんだ?」

「Cぐらいだと思います」

 Cランクとは二人組による危険領域への立ち入り許可が許されるランクだった。

 ちなみに雷の精霊憑依が可能な状態ならばランクAとなる。

「CだとDパーティーの二人から三人分ってところか。それくらいならバランスはさほど崩れないとして……希望のパーティーはあるか?」

「それなら……」

 ちらちらと横目でフィルを窺う。

 深々と溜息をつくネガ。

「じゃあ、フィル達と一緒で良いな。ただ、あんましお前が前面に出るなよ。あくまで見習い共の訓練なんだから、基本お前はアドバイス程度で参加してくれ」

「了解です」

 パタパタと軽やかな足取りで、ファイはフィル達のパーティーへと合流した。

「今回の授業内容を説明するから注目」

 生徒の注意を集め、その内容を語りだす。

「今日の実習はこの先にあるフィーギ山で行う」

 そこはピラミッド型の遺跡で作られた山であり、周辺の森を含めた領域が危険領域として指定されていた。

 遺跡内部への入り口は山頂に存在し、遺跡の外側になる山自体には大した妖魔はおらず、Dランクを得たばかりの見習いパーティーには最適な場所だ。

 また、内部は内部で山頂の入り口から最下層に向けて妖魔の強さも増してくるので、自分の実力を測るのにも適した遺跡でもあった。

「お前らには山頂の入り口までを目指して貰う――が、入り口に着いたからとはいっても内部には入るなよ。内部に入られたら、何かあった時に救助が難しくなるからな」

 木々は茂っているが、地表にいる分にはフォローしやすいのだ。

「あと、登頂が無理だと思ったらすぐに下山しろ。決して無茶だけはするなよ。状況判断もまた探求者には必要な資質なんだからな」

 注意点を幾つか告げると、ネガは各パーティリーダーに危険ポイントをまとめてある簡単な地図を渡していった。


「そう言えば、みんなはどんな精霊を使役してるの? 一応、戦力の確認をしておきたいんだけど」

 真ん中を歩くファイが訊ねてきた。戦い慣れしている彼女にしてみれば、把握しておきたい情報だ。

 ちなみに隊列は、先頭はモノクとピアで、最後尾がフィルとラティになる。

「私は光属性の閃光と蛍火。雷属性の静電気」

「静電気を持ってるの?」

「ラティの静電気は、ファイに憧れて契約したのよね」

「あっ、ピアさん! ばらさないでください!!」

 憧れの存在に少しでも近付きたくて契約したものだった。

「ただ、私には雷属性とは相性が良くなくて、静電気の精霊が限界だったんですよ」

「そうなんだ。でも、静電気の精霊も有用な精霊だよ」

「有用なんですか?」

 訝しげに問う。

「静電気の精霊を使役していると、冬場のバチッってのが防げるからね」

 そう言う使い方もあるんだと、感心するラティだった。

「他には契約したばかりなんですけど、地属性蛍石です」

 それは先日の探求で地属性の精霊がいたら便利かなと思い、新たに契約を交わした精霊だった。

「蛍石……こりゃまた変わった精霊と契約してるんだね」

 鉱物系の精霊は種類が多く、下位属性ともなれば珍しいことこの上ない。それでも、あくまで契約している人が珍しいだけで、精霊そのものはそれら鉱物がある場所に行けば普通に存在していた。

「地属性で契約出来たのが蛍石だけだったんです」

 いくつか試した結果であった。

「俺は音属性の吸音、静寂、反響に爆音――あと、木霊もいたんだけど、あれは先日の龍の咆吼で砕けたままだ」

 指折り数えていくのは音属性の精霊ばかりだ。

「モノクは音との相性が良い割に音痴なのよね。カラオケ行ったら地獄よ」

「悪かったな! でも、楽器は弾けるぞ」

 渋い顔で叫ぶ。彼自身、そのことは嫌と言うほど痛感していた。

「戦闘に使える精霊はいるの?」

「一応、爆音の精霊魔法でソニックブームが出せるけど……」

「すっごく煩いのよね」

 ずけずけと横槍入れてくるのはピア。

「まぁ、あたしもモノクのことを笑えないんだけどね」

 自虐的に笑い、肩を竦める。

「笑えないって?」

「あたしは風属性の突風と熱属性の微熱。他にも何体かいるけど、微妙なのばかりなのよね」

 共に騒がしい攻撃しか使えない双子だった。

「フィル君は何の精霊を?」

「俺は……」

 期待して訊ねてくるファイから目を反らしては教える。

「時の精霊の未来一体のみだよ」

「時の精霊!?」

 一際大きく驚くファイ。精霊省所属の彼女にしてみても、時の精霊を目の当たりにしたことはなかった。

「それって三大遍在種の一つじゃない!」

 三大遍在種とは、時、空間、無を司る精霊のことであり、どこにでも遍在するが誰とも契約が成されたことのない三種の精霊を表す言葉だった。

「そんなの、どうやって契約したの?」

「どうって、古代遺跡にあった精霊石に宿っていたのと契約したんだよ」

 ルーモニの古代遺跡での出来事を詳しく説明する。

「契約が済んだ後にデジちゃんが弄った古代魔導具の誤作動で、隔絶領域にいたファイのとこに飛ばされたんだよ」

「それでね」

 今更ながらに真相を聞いて納得するファイだ。

「でも、あそこは危険領域なんだよ」

「え? 危険領域には小型の龍すらいないはずでは?」

 ファイの言葉に驚くラティ。龍がいるのは隔離領域からで、隔離領域にいるのは小型の種族のみだ。

「えぇっと、あの近くに封印領域の遺跡があってね。その周辺でワンダリングモンスターが出たって話が来て、調査に借り出されたの」

 機密事項に含まれている内容もあってか、ファイは簡単に説明する。

「まさか、大型の龍種が二匹もいるとは思わなくてね。双角水龍はなんとか倒したんだけど、連戦は無理。逃げる間もなく一角炎雷龍に返り討ち」

 相性問題がなければもう少し善戦できたかもって笑って言われれば、ただただ唖然とするしかない。

 まさか、大型の龍が二匹もいたなんて思ってもいなかったのだ。

「雷姫の二つ名は伊達じゃないってことか」

 モノクがそう呟けば、誰もが同感だった。

「そう言えば、ファイさんは憑依精霊がいないって言ってましたけど、契約しないんですか?」

「雷の高位精霊ってなかなか地上にいないからね」

 答えつつ見上げる空は雲一つ無い晴天だ。

 基本、雷属性の精霊は雷雲と共に現れるのだが、ここまでの快晴だと新たに契約のしようがない。

 地上にも静電気の精霊を始め、幾つかの雷属性はいるのだが、憑依精霊にするには心許なかった。

 高位の精霊でなければ、戦いには使えない。

 そんな、雷の精霊を失ったことも、ファイが学院に転入してきた要因の一つであった。

 戦う力を持たない神楽女は邪魔なだけなのだ。

「雷の精霊がいなくて、どうやって戦うんだ?」

「一応、幾つかの精霊とは契約はしてるよ」

 右手に、稲妻の精霊を召還しては雷槍を作り出す。

 見習いのフィル達にしてみれば、それだけでも十二分に強いと思えるのだが、ファイは納得していなかった。

「攻撃手段はその雷槍だけ?」

「他の攻撃手段となると、風属性の疾風かな」

「へー、風属性も持ってるんだ。てっきり、憑依使いは一系統の精霊しか契約してないと思ってた」

 素直な感想だ。

「憑依使いって言っても、複数持ってるのが普通だよ」

 微苦笑を浮かべ、話を続ける。

「岩老のお爺ちゃんは王立大学の学長だから、数百体の精霊と契約してるはずだし、炎帝は軍属の人だから、一通りの精霊は使役してるんじゃないかな?」

「氷姫は? あの人は氷以外の精霊を使役してるのが想像つかないんだけど」

「氷姫は……」

 問われ、考えあぐね、

「私の知る限りでは氷の精霊以外使ってなかった」

 出た答えはそれだった。

「氷姫はイメージ通りなんだ。ホッとしたかも」

 胸を撫で下ろすモノクを不思議そうに見つめるファイ。

「モノクってば、氷姫の方がタイプなのよ」

「氷姫の方が、雷姫よりも美人だとか言ってましたね」

 本人前にして先日の軽口を告げられれば、内心汗だらだらなモノクだ。

「あ、あくまでそれは俺の趣味であってな。別段、ファイが美人じゃないとか言ってるんじゃなくて、どっちかって言うとファイは可愛い方だろ? な、な、フィルもそう思うだろ?」

 しどろもどろに弁解していたかと思えば、突然話題をフィルへと振ってきた。

「ちょっと、モノク。俺に――」

 言いかけた言葉を飲み込むフィル。自分を見つめる、真摯な輝きを秘めた双眸がそこにあったのだ。

「フィル君はどう思ってるのかな?」

「どうって……」

 言葉に窮していると、追い打ちをかけるように生暖かい視線がピアとラティの二人からも注がれてきた。

「ファイさんとは何年かぶりの再会なんですよね?」

「そうそう。見違えたとか、可愛くなったとか、何かないの?」

 迫られ、助けを求めるようにモノクを見やれば、事の元凶である彼は素知らぬ顔でそっぽを向いていた。

 何かを期待するようなファイの視線に曝され、深々と息を吐くフィル。

「……可愛くなったと思う」

 ポツリと呟けば、黄色い声で華やぐ女子達だった。

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