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八百万の精霊使い  作者: 好風
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三章 戦う理由 2

「ネガ先生は、そんなのにわざわざ精霊を宿らせてるのか?」

「今、デジさんはネガ先生の精霊のうちって言いましたよね? ネガ先生は一〇八体以外にも精霊をお持ちなんですか? 確か前には一〇八体しかいないようなことを言ってましたけど」

「パパの精霊は沢山いるですの。でも、今はみんなお留守にしてるですの」

「お留守ってどう言うことだ?」

 モノクが眉を顰める。いまいち、デジの言っていることが理解出来ないでいた。

「それはあれじゃないの? ネガ先生は放浪契約をしてるってことでしょ」

「ああ、そうか。そっちなら留守ってのも頷けるな」

 精霊との契約には、大別すれば二種類ある。

 専従契約と放浪契約だ。

 精霊が一人の精霊使いとしか契約しないことを専従契約と言い、それとは別に、自由に誰とでも契約でき、尚かつ複数の精霊使いとも同時契約ができる契約形態を放浪契約と言った。

 前者の利点は四六時中契約精霊が近くにいることであり、瞬発的にいつでも精霊魔法の使用が可能なことだ。

 それに対して後者は、精霊は自由気ままに世界を彷徨い続け、近くにはいない。いざ精霊魔法を使おうとするならば、精霊召還をしてから魔法を使うことになり、タイムラグが生じてしまう。

 また、他の精霊使いによって使役中もしくは精霊の意志に反しての召還の場合、応じることがなかったりもした。

 そんなデメリットばかりの契約にも利点は存在する。

 基本的に精霊との契約には相性がものを言う。相克関係にいる精霊を契約する場合、先に契約した精霊が嫌がったり契約しようとした新たな精霊が拒絶したりと、上手く契約が果たせないのが普通なのだが、放浪契約の場合それが無い。

 相性の悪い精霊は同時に使役しなければ済むだけなのだ。

 それ故、膨大な精霊と契約する高位の精霊使いは、専従と放浪の契約を使い分けるのが常だ。

「でも、それなら一〇八体の精霊とは専従契約をしておけばいいだけじゃないかな?」

 精霊石を使ってまで精霊を縛る行為に、釈然としない点が残る。

「もしかして、ネガ先生って放浪者なのかも」

 ファイの発した聞き慣れない単語に、みなが眉を顰める。

「その放浪者って何?」

「放浪者って放浪契約しかできない精霊使いのことだよ、フィル君」

 簡単に説明する。

「ごく稀に、そう言う人がいるって、精霊省で聞いたことがあるの。何でも、私みたいな憑依使いよりも珍しいって話」

「確かにそんなヤツがいるなら珍しいけど、放浪契約だけじゃ精霊使いとしては三流以下じゃないか」

 そう口にはしてみるも、自分の言葉が突き刺さるフィル。時の精霊との契約こそ出来たが、精霊符でのスタイルが主である彼にしてみれば、三流どころの話じゃないことを痛感していた。

「でも、その代わり契約できる精霊数が凄いって話だよ」

「どう凄いんですか?」

 かつて聞かされた話を思いだしながら語る。

「一説には、放浪者はどんな精霊とも相性が抜群で、既に専従契約済みの精霊とも契約できるとか何とか」

「マジ!?」

 俄に信じられない話だ。

 それほどまでに精霊と精霊使いの繋がりは強い。もしそんなことをしたら、最初の契約が断絶されるだけなのだ。

「その気になればこの世の全ての精霊とも契約可能じゃないかって室長さんが言っていた。あっ、室長ってのは精霊省での私の上司の人で、精霊学の教授でもあるの」

 脱線しかけた話を戻すファイ。

「それで、その室長さん曰く、精神の時代末期には実際にそんな精霊使いがいたらしく、精霊に愛されし者って言われてたんだって」

 皆の視線がフィルへと注がれる。

「何だよ、みんなして俺を見たりして」

 友人達から見つめられしりぞき気味のフィル。ファイとデジの二人は解っていないのか、不思議そうにしている。

「いや、放浪者ってさ、まるで八百万の精霊使いだなって思ったんだよ」

 代表して答えるモノクにピアもラティも同意見だった。

「八百万の精霊使いって?」

「フィルさんが書いてる小説に出てくるんですよ」

「フィル君、小説書いてるの?」

「コンテストに応募しようと思って書いてたんだよ。もう止めたけどな」

 契約精霊を得た今、フィルはその訓練に忙しく執筆している暇は取れそうになかった。

「それと、八百万は無茶苦茶沢山で、全てって意味じゃないぞ」

「でも、神代の時代では神様全部を引っくるめてそう言ってたんでしょ」

 そう言われてしまえば、返す言葉がなかった。

「でも、それでネガ先生がその放浪者だと決めつけるのは早計ですね」

「確かにそうよね……あっ、デジちゃん。デジちゃんはネガ先生の契約精霊がどれくらいいるか解る?」

「パパの精霊は沢山ですの」

 当を得ない数だった。

「まぁ、この話は後でネガ先生に訊ねてみればいいとして……みんなは、ネガ先生の素顔はどんな感じだと思うんだ?」

 モノクの興味は仮面よりもその下の素顔に向いていた。

「話を聞く分には、わざわざ顔を隠すために身に付けてるようではないですし、普通の顔じゃないんですか? それに、デジさんも普通ですし」

「そうよ! もしネガ先生の素顔がへんてこだったら、こんなに愛らしいデジちゃんが生まれてくるはず無いじゃない!! 美形とまでもいかなくても、普通の顔はしてるはずよ」

 ピアの指摘は熱かった。

「みんな、パパの素顔が知りたかったんですの?」

「そうなんだけど……デジちゃんは見たことあるんだよね?」

「素顔でしたら、昔は仮面を付けてなかったですの。でも、学院に来てからは外したことが無いですの」

 その話は意外だった。

 てっきり、家族の前では素顔でいると思っていたのだ。

「先生、ここに来てからは家族の前でも外してないんだ」

 そうなってくると、何か隠したい要素でもあるのかと訝る。

「それだったら、外して素顔を見せてくださいって頼んだら?」

「それが出来る相手とも思えないんだよな……ネガ先生って」

 ファイの案をやんわりと否定する。

「写真とかはどうです? 仮面を付けていない写真なら普通にあると思いますし」

「それもそうね。デジちゃんの小さい頃の写真が見たいとか言って、アルバムを借りだせばいいし」

 ピアがラティに賛同するのだが、

「お前が頼むと、不審なことに使うと思われて嫌がりそうだな」

 突っ込むモノクがいた。

「写真ですの?」

 話を聞いていたデジが小首を傾げる。

「アルバムは全てお家の方に置いてあるですの。こっちには持ってきてないですの」

 ラティの案は根本から崩されるのだった。

「お前ら、人の娘まで巻き込んで、何くだらないことを詮索してるんだ」

 突然の声に顔を上げれば、件のネガがいた。

「ネガ先生、くだらないんだったら、素顔を見せてくださいよ」

 これ幸いとモノクが頼む。

「それは無理だ」

「無理って?」

「こいつは古代魔導具の一つで、一度装着したら簡単に外せないんだよ。時間が来ればいずれ外れるようになってるんだがな」

 自分でもどうにも出来ないネガだった。

 幸い、心理迷彩機能が働いているし、精霊を宿すのに丁度良かったので、そのまま放置しているのだと言う。

 どこまで本当なのか解らず、どこか煙に巻かれている気分がする生徒達だった。

「それよりデジ。そろそろ昼休みが終わるからポジの所に戻ってなさい」

「はいですの。じゃあ、またですの」

 椅子から飛び降りると、学食の隣にある購買部へと駆けていった。

 デジが去ったこともあり、テーブルの上の食器を片付けだす一同。

「そうそう、お前ら。午後からの授業が変更になったから、教室に戻ったら伝えておいてくれ」

「変更って、何になるんです?」

 片付けつつ聞き返す。

「ウチのクラス全員のランク昇格が確定したからな。午後からはパーティーでの実践演習だ。クラスのヤツらには装備一式持って西門に集合するように伝えておいてくれ」

 それだけ告げると、ネガは食堂から立ち去っていった。

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