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第9話 君の笑顔が見たいんだ

「話って何?」


 朝待ち合わせした広場のベンチに俺たちは座っていた。すっかり日が暮れて辺りは暗い。今は夏休み。彼女は今日はホテルに泊まって明日帰るらしい。高校生の過ごし方じゃない気がするが、もう今更か。


 俺はそんなどうでもいい思考を振り払い、口を開いた。


「今日は来てくれてありがとう。めっちゃ楽しかった」

「そんな……私のせいでライブ楽しめなかっただろうし……」

「いや、美亜が隣にいてくれてよかった思ってる。確かにライブはあんまり集中できなかったけど、それはまた今度行けばいいしね。それよりも、一緒に過ごせた時間がすごく楽しかった」

「それならよかったのだけど……。私も響夜くんと過ごせてとっても楽しかったよ」


 美亜は少し申し訳なそうな表情をしていた。自分の態度のせいでライブを楽しめなかった自覚があるのだろう。

 だが、俺はそんな表情が見たいわけじゃない。


「俺はさ、なんで美亜がそんなに積極的なのかわかんないんだ。美亜は綺麗で可愛くて、それこそなんの取り柄もない俺よりもっと美亜にあった人がいるんじゃないか、って思うしね」

「そんなことな……」

「あるよ」


 美亜の言葉を遮るように言う。思いの外強い口調になってしまって美亜が体をビクッとさせた。


 ーー取り乱すつもりはなかったんだけどな。


 俺は苦笑する。俺なんかに美亜は勿体無い。そもそもこんな、《《リアルでうまくいっていない》》人間が誰かに好意を向けられるなど恐れ多いのだ。それが美少女ならなおさら、俺なんかじゃ不釣り合いだと思う。


 だが、俺は望んでしまった。


 ()()()()()()()()()


 そう望んでしまったんだ。


 俺は一つ息を吐くと、美亜に微笑んだ。


「俺なんかじゃ君に釣り合わないと思う。でも、俺さ、今日一日美亜と過ごして本当に楽しかったんだ。自由奔放で、男慣れしてないのに無茶して真っ赤になってて、推しとはいえアイドルに嫉妬しちゃう美亜が隣にいると俺まで笑顔になれた」

「は、恥ずかしい……」


 美亜は顔を真っ赤にさせる。そんなうぶな反応も愛おしい。


「だからさ、これから先も君の隣にいさせて欲しい」

「えっ……」

「これが恋なのか、俺にはまだわからない。もしかしたら、そそっかしい妹の世話を焼く兄のような気持ちなのかもしれないけど、君の隣にいたいこの気持ちは本当なんだ」


 こんなの無責任かもしれない。それでも、俺は彼女に笑顔でいてほしいのだ。

 美亜が、俺の言葉に少し寂しげな表情を浮かべた、そんな気がした。が。


「うん! 私の隣にいて欲しいな」


 ニコッと笑みを浮かべる姿を見るところ、勘違いだったのだろう。彼女の姿にホッとする。


「ああ、いるよ。これからも仲良くして欲しい」

「もちろん!」


 あんまり嬉しそうに笑う彼女に、俺はちょっといたずら心がわく。うん、もう今日一日だけで立派なドSになった気がして複雑だが……。すっと耳元に口を寄せて囁く。


「やっと見せてくれたね。やっぱり、美亜は笑顔の方がいい」

「っ!!」


 途端にうなじや耳まで真っ赤になった彼女の姿にニヤッとする。


「恥ずかしがってる美亜も可愛いよ」


 あ、プルプルしてる。やりすぎたか?

 そう思った次の瞬間。


「……響夜くんのバカぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ちょっ、美亜!?」


 美亜が叫んで不意に走り出す。俺は慌てて追いかけようとするが、その拍子に足をもつれさせて転びそうになった。

 なんとか踏ん張ったその時。


「響夜くん!」

「え?」


 美亜が少し離れたところで立ち止まって、俺の方を見ていた。その強く輝く瞳に引き込まれる。


「私、絶対に今日の言葉後悔させてみせるから!」 

「だから!」

「覚悟しといてね!!」


 そう言うとくるりと背中を向けて、広場から出て行く。あまりに突然なことに呆然とする。

 そして我に返った時。


「どういうことだよっっっっっっ!?」


 俺は美亜を追いかけながら、悲鳴にも似た叫び声をあげてしまったのだった。




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