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第7話 美少女は嫉妬する

「楽しみだね」

「うん! ミーサちゃん近くで見れるといいな、近くまで来てくれると嬉しい」

「運よくこんないい席だしな」

「ほんとに!」


 俺たちはチケットで指定された席に座って話していた。抽選だったから席の指定ができたわけではないが、俺たちは前から三列目、花道のすぐ隣の席になっていた。しかも、会場で席が離れるだろうと思っていたにもかかわらず、まさかの隣の席。疫病が……ゲフンゲフン、幸運の女神が俺に微笑んでいるのかもしれない。


「あ、俺ちょっとお手洗い行ってくるわ」

「じゃあ私も行くー」


 何気ない話をしながら一旦出ると、看板の指示に従って進む。

 しかし……。


「ここ……どこだ?」

「なんか薄暗いし……」


 なぜかお手洗いではなく、薄暗い廊下に俺たちはいた。絶対に客が入る場所ではない。さっきまで聞こえていたファンのざわめきも聞こえなくなっていた。


「もしかして……」

「「迷子になった!?」」


 話しながら歩いていたせいか、気づくのが遅かったらしい。完全にどこかわからなくなっていた。

 てかハモるってどっかのアニメかよ……ってそんなこと言ってる場合でもない!


「やばいな、開演までそんなに時間ないぞ……」

「スタッフさんとかいないかな……?」

「どうだろ……」

「ワッドーユードーヒア?(what do you do here?)」

「「えっ!?」」


 急に後ろから声をかけられて二人揃ってびくりとする。しかも英語……?

 恐る恐る振り返ると……


「「ミーサちゃん!?」」


 銀髪ツインテールの女の子……推しのミーサちゃんが険しい顔で俺たちの方を見ていた。


 そこで俺は間違いに気づく。


 こんな客が入っちゃダメそうな場所で出くわした上に、ちゃん付けで呼ぶ……絶対マナー知らずなファンが押しかけてきたと思われる!

 実際、彼女は不愉快そうな表情を浮かべていた。


 俺は誤解を解こうと慌てて口を開く。


「ウィ、ウィー ミストゥーク ザ ロード。ウィー ワナ ゴー トゥー ア トイレット(We mistook the rood. We want to go to a toilet.)」


 道を間違えた。トイレに行きたい。と辿々しく伝える。

 俺英語は苦手なんだよ、無理すぎる……!

 もっと色々言い方があるはずだが、英語の偏差値40の俺はこれくらいしか思いつかない。

 しかし、俺が言いたいことが伝わったのか、ミーサちゃんはホッと息を吐くと表情を緩めた。


「なんだ、道を間違えたのね。案内してあげるわ」


 出てきたのは滑らかな日本語。俺は唖然としてしまった。

 てか日本語できるなら最初から使ってくれよぉぉぉぉぉぉお!

 内心で叫ぶ。しかし、それよりも気にしなければいけないことがあったのを俺はすっかり聞き逃していた。


「あ、案内、して、く、下さるんですか……? ら、ライブ前では……」

「ああ、それなら大丈夫よ、すぐそこだしね」


 そう、美亜が気づいたが、推しのミーサちゃんが直々に道を案内してくれるという異常事態が起こっていた。


「で、でもスタッフさんとか……」

「呼んでくる方が時間かかるわ。こっちよ」


 ミーサちゃんは俺の意見をバッサリ切り捨てるとスタスタと歩き始める。

 俺らはぎこちない動作でミーサちゃんについていった。


「はい、あとはそこ右に曲がればトイレよ、もうこっちに入らないようにね」

「は、はい、気をつけます! 案内してくださってありがとうございました!」

「ライブ応援してます!」

「ありがとう」


 ミーサちゃんはちらっと笑顔を見せると、さっと去っていった。


「やっぱりミーサちゃんは可愛いな……」

「……」

「うん?」


 思わず呟くと、美亜がなぜかジト目で睨んできた。なんか変なこと言ったっけ?


「……鼻の下伸ばしすぎ」

「はっ……?」


 その一言に唖然としているうちに、美亜はお手洗いに入ってしまった。


「鼻なんて伸ばしてないんだけどな……」


 俺の呟きは誰にも届かなかった。




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