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第6話 日常(美亜視点)

「美亜ちゃん、朝よー、早く起きないと遅刻するわよ」

「んん、わかった……」


 私は眠い目をこすりながら時計を確認した。七時三十分。確かにあと三十分しかない、やばい、遅刻しちゃう。

 そう思って起きようとするが、体は言うことを聞いてくれない。


 ーー学校なんて行きたくない


 休んじゃおうか、頭の中で悪魔が囁く。


「ダメダメ、お母さん心配しちゃう」


 頭を振ると気だるい体を起こす。そういえば、響夜くんにおはよう、って言わなきゃ。そう考えると、だるいという感情から一転、朝から話せるということが嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。


「いつか、(ひびき)くんって呼べる日が来るといいな」


 懐かしい名前を呟く。きっとそう呼べる日が来るはずだと信じないと、今の私にはこの日常は耐えられなかった。


 せめて楽しく話したい、そう思って元気よくDMを打つ。


『おはようございます!』


 返って来るまでに準備しなきゃ。

 手早く制服に着替える。太もも半分くらいの短い赤いチェックのスカートは結構お気に入り。鏡を見て整えると、校章付きの真っ白なYシャツの袖を二回まくる。

 髪は軽くアイロンを通してストレートに。


 もう慣れたことで朝は20分で支度が終わる。朝食は食べないのが常だった。


 ピロンッ。


 スマホが通知を知らせる。


『おはよう、朝から元気だね』


 急いで確認すると思った通り響夜くんからの返信だった。


「響夜くんと話せるのが嬉しいんだもの」


 半ば無意識に笑みを浮かべて、返信する。


『朝から響夜くんと話せるのが嬉しいので!』

『そ、それなら良かった』


 ちょっと引いてるのかなぁ。でも、もうきっと今更だよね。


「あっ、時間がない」


 時計を見るとすでに家を出なければいけない時間だった。名残惜しいけど話を切り上げる。


『はい! それじゃあ、そろそろ行ってきますね。響夜くんもいってらっしゃい!』

『ありがとう。いってきます』


 まるで夫婦のような会話。

 DMじゃなくて実際にこういう会話をしたいな。

 そんなことを思いながら、キーホルダーも何もついていない鞄を持って家を出た。




 ***




「美亜ちゃんおはよ! ねぇねぇ、放課後遊びに行かね?」

「お断りします」

「えぇ〜、いいじゃん、行こうよ」


 はぁ、また始まった。学校の校門をくぐった途端声をかけてきた第二ボタンまで開けただらしない黒髪の男をさっと避ける。最近付きまとってくる一個上、三年生の先輩だ。


「へぇ、俺のことそんなに拒否するの君だけだよ。俄然興味が湧いてきた」


 自分のことをかっこいいと思ってるのか前髪をふさぁっと搔き上げる。


 ーーうわぁ、自意識過剰。


 内心で絶対半ば悲鳴のような声が上がるが、懸命に抑える。自分偉い。


「先輩。拒否られてる理由わかってますか?」

「俺に興味あるからでしょ?」


 えと? 私怒ってもいい?

 ……どこをどう取ったらそうなるわけ!?


 唇の端がピクッと動く。だが、必死に笑みを浮かべる。ここで怒ったりするわけにはいかない。


「ないです、意味わかんないです」

「え、嘘、本当に興味ないの?」

「ないです」

「あ、そう……」


 思わずといったように立ち尽くした先輩を一瞥して、足早に学校に向かう。


 こんな毎日。だが、これだって一日の始まりに過ぎないのだ。




 

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