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第2話 知らなかったんだが!?

「で、さっきの話。ひびきくん、彼女ができたの?」

「だからできてないって」

「ふーん」


 教室にて。ニヤニヤしながら見てくる奏季の目から逃れるようにあたりを見回す。

 夏休み明けの教室はどこか浮かれた雰囲気が漂っていて、みんな休みの間の話に花を咲かせているようだ。


「そういえば、今日数学のテストだよねー」

「はっ!?」


 突然の奏季の言葉に硬直する。数学のテスト、だと……? 俺はそんなこと聞いて……な、いぞ……?

 不意に蘇る記憶。


『夏休み明け1日目に数学の復習テストあるからなー。範囲はこの夏休み前までの全範囲だ。あ、間違えるなよ? 高校生になってから今まで、ではなく、お前らが生まれてから今まで、だからな』


「はっ……?」


 蘇った記憶とともに漏れる声。ギギギ、と首を回して奏季を見る。


「あ、やっぱり忘れてたんだね」

「奏季てめぇ……!」


 ニコニコしている様子から察するに俺が忘れていることに気がついていたようだ。HR《ホームルーム》が始まろうとしている今言うとは意地悪に他ならない。


「やばいじゃねーか」


 絶望している俺の様子に奏季はいよいよ笑みを深めた。


「ふっ、今回こそ勝たせてもらうよ」

「勝たせてもらうって勝負してるつもりなかったんだが」

「……無意識に刺さること言うよね響くんって」


 奏季が笑顔を消して頬を膨らませる。クッソ、可愛いなっ! 明らかに女の子にしか見えないんだが。目に毒だチクショウ!


 そんなことを考えていると、チャイムがなる。あ、やべ、教科書見る時間なかった。


「よーし、お前ら座れー。全員いるよなー、いるなー、大丈夫だなー」


 赤いジャージを着た、熱血な見た目に反して気だるげな雰囲気を出す20代半ばの男が教室に入ってきた。担任の都築つづき先生だ。


 体育教師かと思うだろ? 思うよな? 


 だが、まさかの数学教師なのだ。絶対何かの間違いだと担任になって半年経った今でも俺は思っている。

 だが、俺を絶望のどん底に落とした相手はこいつで間違いない。俺は恨みのこもった目で担任を睨む。


「お、なんだ、初果はつか。もしやお前、テストだって忘れてたな?」

「い、いえ、別に……」

「図星か。学年トップ陥落か?」


 気だるげな様子から一転、面白がる表情を浮かべる担任。性格悪っ。

 え、自業自得だって? 知らねー。


 俺は入学から今まで学年トップを維持してきた。で、二位は奏季だ。奏季は俺に対抗心を持っていたようで、俺が勉強していない様子に笑顔を浮かべていたのだが……。

 よし、こうなったら意地でも全部解いてやる。勉強してなくたってあんなん即興で解けるだろ、知識問題じゃあるまいし。


「お、なんだ? やる気出たのか? まぁ、遅いけどな」

「いいから早くテスト始めませんか?」

「おっ、ちょっと自習する時間与えようと思ったがいらないみたいだな」


 担任のまさかの言葉に、クラス中から『えー!』とブーイングが飛ぶ。俺の方を睨んでくるやつも結構多いが、知ったこっちゃない。今からちょっと勉強したところでなんも変わらないだろ。


「まぁまぁ、学年トップが勉強してないようだしいいだろ。よし、机の上のもの全部仕舞えー」


 テストが配られる。200点満点で、100問70分。


「よーし、始め!」


 俺は親のかたきかのようにテスト用紙を睨んで、勢いよくシャーペンを滑らせた。




 ***




「終わり! 筆記用具置いて後ろから回収してくれ」


「ふぅ」

「響くんどうだったー?」


 シャーペンを置いてホッと息をつくと、奏季がやり切った笑みを浮かべて話しかけてきた。この様子だと相当できたようだ。


「まー、ぼちぼち」

「ふふっ、今回は僕が勝ったかな〜」

「あー、負けたよ、今回は無理だ」


 白々しく悔しい表情を浮かべてみせると、奏季はテンションが上がっているのか表情を作ったことに気づかず、さらに笑みを深める。


 奏季、ライバルの言葉は疑わないとダメだよ。


 俺は心の中で呟いて採点が終わるのを今か今かと待ったのだった。





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