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8 東洋人

「はぁ⁉ 何それ! アイツまさかそういう性癖が⁉」


十分後の食堂。私はリリの正面、ジュリンの斜め前の席に座った。


サンドウィッチとスープに手をかける前に、何で呼び出されたのか心配して訳を聞くリリ。


私はその気圧に押され、スプーンを手放した。


「いや、そうじゃないと思うよ……? 私の身体を調べてくれてるだけだと思うよ……?」


「だからってゲボを取る⁉ そーいうのって普通唾液でしょ⁉ キモイ! 無理! アウトフッドに報告す

る!」


「え⁉」


 まだトレーの中には食材が残っているのに、立ち上がろうとするリリ。


「リリリリ荒ぶり過ぎじゃん! ちょっとは落ち着くじゃん!」


ジュリンはその腰に抱き着き、リリを止めようとした。


作戦は成功し、リリは止まった。


しかしそれは身体に限ったこと。怒りや鼻息は、永遠に進み続けている。


「落ち着いてられるかぁー! ミル!」


「ひゃいっ!」


「次灰谷に呼び出されたらあたしもついてくから!」


「え、えええ?」


確かにリリやジュリンがいてくれたら……。と思ったが、本当に来て欲しかった訳ではない。


灰谷先生からすればいい迷惑だろうし、何より二人の時間を奪ってしまう。


「リリリリやり過ぎじゃん……」


ジュリンも同じことは思ったようだ。


サッと腰から手を放し、引いて見せた。


「何よ。ジュリはミルが心配じゃないの?」


「灰谷が悪者だと決まった訳じゃないじゃん」


「決まってるわよ! アイツ、東洋人だし!」


「それ、偏見じゃん」


「うっ……。そっ、それはジュリの言う通りね……」


ジュリンの一言に、納得したリリは失速し、席についた。


ホッと胸を撫でおろす。これで突撃! 魔法実践室! のコーナーが行われることはなさそうだ。


ようやく私も昼食に手を付ける。うん。今日もふわふわのパンだ。


「でもさー、学園側も頭おかしいじゃん。東洋人を教師にするなんて」


「ジュリにしては珍しい否定的意見ね」


「ジュリ的には反対じゃないじゃん。ハイタニ先生があの(・・)事件(・・)に関与している訳じゃない。

だからジュリ的にはわりかしどーでもいいじゃん。でもそれはジュリだけの意見じゃん。他の生徒が同じ

とは限らないじゃん」


ジュリンは珍しく、真面目な顔をした。しかし、その通りだと思った。


ブリアスト国の魔法使いは、東洋人が嫌いだ。


その理由を作ったのは十年前の『アルデス崩壊事件』。


国の端にある小さな村、アルデス。自然豊かな平和な村は、とある魔法使いたちの襲撃により、数時間で

跡形もなく消えさった。


ブリアスト国の魔法戦士が到着するころには、村人も、家も、店も、何もかもが跡形もなく、そこには焼

け果てた土地しかなかったらしい。


犯人は捕まってはいるが、全員という訳でがない。


確保された犯人は一向に口を割らず、唯一手に入れた情報は、犯人は全員東洋人だということだけらし

い。


故に、ブリアスト国は東洋人を嫌っているのだ。


「アルデスに親戚がいた生徒は、東洋人を殺したい程憎んでるって小耳に挟んだじゃん。ジュリ的には、

東洋人全員を恨むのは可愛くないけど、気持ちは分からなくもないじゃん」


「灰谷は東洋からのスパイだって噂が早速立ち上がってるしね」


「何それ! 根拠はあるじゃん⁉」


「まさか。下らねぇ噂よ」


「はぁ……。そーいうのもチョー可愛くないっ!」


「で、ミルはどう思うの?」


「へ⁉」


話を聞いていなかったわけではないが、皆に追いつくため昼食に集中していたため、驚いた。


今スープを飲んでいたら、喉に詰まらせていただろう。


「そういえばミルとこういう話したことなかったなって。ミルはどう思うの? アルデス崩壊事件と、東

洋人について」


「う、うーん……」


 勿論そのことについて、考えなかったことはない。


その事件は孤児院にいた頃から有名な話だったし、授業でも何度も取り上げられている。


「私は、どうでもいい、かな」


「うおっ! ミルミル案外冷たいね」


「あ、いや! そういう意味じゃないの。勿論、許せないって気持ちがない訳じゃないの。でも私はアル

デスに知り合いがいたわけでもないし、何処か遠いおとぎ話みたいに捉えちゃってるんだ」


「それは分からなくもないわね。ブリアストに限ったことではないけれど、魔法国際連盟発足以降、戦争

のような国同士の争いは減ってきているもの」


「だから十年前って言われても、千年くらい前のような気がしちゃうんだ」


「千年って、第一次魔法世界大戦じゃん」


「うん。そのくらい遠くて、無関係だと思っちゃってる。だからどうでもいいってことなんだ。あ、勿論

事件を肯定するわけではないよ? 家族を失うのはとっても悲しいって聞いてるから」


でも、だからこそどうでもいいのかもしれない。


家族のいない私は、それがある喜びも、失う悲しみも知らない。


……こんなことを思うのは不謹慎かもしれないけど、村が全滅したのはよかったんじゃないかな。


だって家族を失って、一人だけ生き残るのはとっても悲しいことなんでしょう?


なら、一人だけが生き残るよりは、よっぽどマシな結果なんじゃないかな。




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