6 ともだち
「くぅ……! 悔しいじゃん! またリリリリに負けたじゃん!」
「あのさ、ジュリ。いっつも思うけどそのあだ名長くない? 呼びにくくないの?」
「『リ』がいっぱいあって可愛いじゃん!」
「……あんたがいいなら、別にいいんだけど」
リリとジュリンが並んで廊下を歩く中、私は自らその一歩後ろを歩いた。
存在感を消すように、すれ違う魔法使いたちと視線を合わせないように。
細心の注意を払いながら、次の授業が行われる教室に向かった。
「はぁ……。やっぱりリリリリが一番かぁ」
しょぼしょぼと歩くジュリンが気にしているのは、恐らく先程のテストのことだろう。
先生は成績に入れないと言っていたけど、そんなことジュリンには関係ないらしい。
勝てばうれしい、負ければ悔しい。
ジュリンが形成する感情は、実にシンプルなものだから。
「二番も十分優秀だわ。私の次に、だけど」
「うわっ。その言い方ムカつくじゃーん!」
そう言い捨てたジュリンはくるりと回り、私の肩をがっしりと掴んだ。
「ミルミルもムカつくじゃん?」
「え、えっと……。私は……」
「ミル、こんなバカの言葉を聞き必要はないわ。さっさと移動しましょう」
「え? わっ……!」
右手をリリに捕まれ、身体は前方に流される。
それでもジュリンは私の肩から手を離さず、ついてくる。
最終的に右手首をリリに捕まれ、肩はジュリンに巻かれながら歩くことになった。
歩きにくいこと、この上ない。
一体、何がどうしてこうなったのか。その理由は当事者である私でもよく理解できなかった。
「でもでも! もーーっとムカつくのがあと少しでニコニコに抜かれそうだったことじゃん!」
ぷくぅっと、魚のように頬を膨らませるジュリン。
ニコニコ……恐らくニコラスさんのことだろう。
「それはとてつもなくムカつくわね。あたしもアイツに抜かれるくらいなら腹切って死ぬわ」
「そこまではしないけど、ジュリンもアイツにだけは負けたくないじゃん! 虐めとか可愛くないじゃん! 許せないじゃん!」
「ジュ、ジュリン……。ちょ、い、痛い……」
感情が高ぶっているせいか、ジュリンの肩を掴む力がどんどんと強くなっている。
魔法は使ってないようだが、凄い力だ……! このままでは脱臼してしまう……!
「可愛いかどうかはよくわかんないけど、許せないってのは同感ね。法さえなければ、私の魔法でぶっ殺してたわ」
「こ、ころ……⁉」
とても十時台休み時間の廊下で出るとは思えない物騒な言葉にぎょっとする。
右側に顔を向けると、本当に人を殺めた経験がありそうな顔つきがあった。
これは冗談ではない、本気だ。
こんなにも法に感謝したのは初めてかもしれない。
リリが人殺しなんて、絶対嫌だもん。
「あはは! さっすがリリリリじゃん! チョー物騒だけど!」
「ミルもミルよ! もう少ししゃんとしなさい! 虐められたら虐め返すくらいの気でいなさい!」
「え、ええぇ? む、無理だよ……!」
「何でよ!」
「だ、だってニコラスさんたちが言ってること、間違ってないもん……。私は、魔法使えない屑だもん……」
「だぁぁぁぁ!」
「⁉」
突如雄たけびを上げたリリに、ジュリンも私も硬直した。
私たちだけじゃない。同じ廊下にいた生徒たちも、何だあいつ、という冷ややかな目を投げている。
唖然とする私に、リリは手を放して、キッと私の方を見た。
「もし仮に、ミルが魔法使えない屑だとしても、その屑を見下して、自分の方が偉いと自惚れて、虐めをするソイツらの方が屑よ! 屑だ
と思うなら無視すればいいじゃない! 構う必要ないじゃない! あたしは、他人を下に見る魔法使いが大っ嫌いなの!」
ビシッと指を指しながら力説するリリ。
私は、本当に運がいい。こんなにもかっこいい友達がいるんだもん。
「あ、ありがとう。リリ」
「な、何よ。なんかお礼が必要な分だったかしら?」
「虐めは辛いけど、リリとジュリンっていうカッコいい友達がいて、私は幸せだなぁって思ったの」
確固とした意思を持ち、誰に流されることもなく、自分を貫く二人は本当にかっこいい。
私とは正反対だ。
いつか私も、こんな風になりたい。
二人に迷惑ばっかりかける自分を変えたい。
でも、どうすればいい……?
「……アンタよくそんな恥ずかしい言葉、平気で言えるわね」
「え……?」
心の底からの本心を伝えたのだが、リリは少し引いたような顔をし、ジュリンは室温十度だというのに、手で顔を仰ぎながら小さく笑っ
ていた。
「わ、私変なこと言った……? ほ、本心からの言葉なんだけど……」
「だから! そういうところだっつーの! とにかく行くよ! 授業遅れる!」
それだけを言い捨てたリリは、すぐに私から顔を逸らして走り出した。
「え? えええ?」
「うーん……。ジュリンもリリリリに同感じゃん! ミルミル! 全力前進じゃーん!」
「へっ⁉」
今度はジュリンに手を引っ張られ、あるがままに走り出す。
そのスピードはリリの時と桁違いで、目が回りそうになった。