3 恐怖の担任
「ミヅルバさん。少々よろしいですか?」
「は、はい……」
翌日。朝のホームルーム後。
皆が教室を出て行く中で、担任であるアウトフッド先生に呼び出された。
「じゃ、私は先に行ってるね」
「あ、うん」
肩を軽く叩いたリリは、軽快な足取りで教室を後にした。
一方で、私の足は軽快のけの字もない。
足に鈍器でもついているかのようにのろのろと教壇へ向かう。
「あの、何でしょうか……?」
「何でしょうか、ではありません」
いつの間にか、先生と私以外誰もいない静寂な教室。
そんな中で飛ぶ、鋭い眼光に肩は飛び上がり、思わず一歩下がる。
年中無休でキリっと吊り上がる真っ黒な目。それを縁取る黒ぶちの眼鏡に、頭のてっぺんに乗るのはキッチと固定されたお団子。
体だけでなく、腕、足首までの全てを包む緑色のワンピースを纏い、アウトフッド先生は私を見下ろした。
「来週社会科見学があるのはご存じですね?」
「あ、はい。ほ、北部防衛基地に行くんですよね?」
「そうです。申し訳ないんですが、その日、貴方の定期健診と被ってしまいました」
「は、はぁ……」
「言っている意味、分かりますよね?」
眼鏡をカチャリと上げ、高圧的にものを言う先生。
きっと社会科見学は不参加で、と言いたいのだろう。
「はい。定期健診なら仕方ないです」
自覚はなかったが、吐き出したその声色は明るかった。
思い返す去年の社会科見学。それは決して、良い思い出でもなんでもないものだった。
トイレに閉じ込められ、集合時刻を過ぎたことをアウトフッド先生に怒られることも、購買で買った
お菓子を窓の外に頬り投げることもない。そう思うだけで、未来が少し明るくなった気がする。
「ではその予定でお願いします。次は魔法実践の授業でしたよね?」
「あ、はい」
「今日は先週から急病で休んでいたヒュー先生の代わりとなる先生が来る日です。早く行きなさい。貴方
のことは、話してあるので」
「は、はいっ! ありがとう、ございます……!」
自分が呼び出したのに、しっしと手を払う先生。きっと先生も、魔法が使えない私をよく思っていないのだろう。
その素振りに、またビクリと肩を上げながら急いで教室を後にする。
「はぁ……。何か原因がわかるといいのだけど……」
アウトフッドの漏らした一言に、気づかずに。