1 魔法が使えない少女
空、海、川、幸せを運ぶ鳥……昔から青が好きだった。
だから、という訳かは分からないが赤は嫌い。
特に炎と血。あれを見ると、頭がちぎれそうになる。お腹が強い拒否反応を示す。
その理由を、私はまだ知らずにいた。
この世界では十歳を迎えた子供は魔法学園初等科に入学することが義務付けられている。
正しく魔力を使い、正しい魔法使いになるために、魔法を学ぶ施設。それが魔法学校、
チャイリッヅ魔法学園。北欧地方に位置するブリアスト王国中心にある五百年の歴史を誇る国内最高峰の完全寮生魔法学校。
そんな学園に一人だけ、魔法の使えない魔法使いがいた。
「フ、フレイム!」
杖を向け、呪文を唱える。そうすれば赤ん坊でも魔法が発動する。
魔法は、誰でも使える優れた文明だった。
「……………」
しかし、何も起こらない。
火が出ることもなければ、杖が光ることすらもない。
しかしそれは今に始まったことではない。こうなることは、呪文を唱える瞬間から分かっていた。
「……はぁ。やはりだめですか」
「す、すみません……」
魔法は誰にでも使える。その『誰にでも』は、私を除いてだけど。
魔力増強型のお高い杖を使っても、杖の先は相変わらず茶色くて、木目までハッキリと見える。
「では次の人」
「はぁーい!」
逃げるようにその場を去り、自席につく。
やはり、発動しない魔法。つまり今回のテストも零点確定。
はぁ……。私、本当に進級できるのかな……?
不安で胸が圧迫される。熱魔法が効いているのに、足は震え続けている。
進級どころの、騒ぎではない。
魔法が使えない魔法使いなんて、この世界でどう生きていけばいいのだろう。
料理するには火が必要。火を起こすには魔法が必要。
生きていくには水が必要。飲み水を得るには魔法が必要。
魔力はあるのに、魔法が使えない。
それは、この世界でミツルバ・ミルールを評価するには十分すぎる情報だった。