第53話 ムジョルニア家
ムジョルニア家。
西に位置する三大騎士のひとつで、当主である『サラ・ムジョルニア』の構える屋敷が見えてきた。
「でかいなぁ……」
「ええ、わたしは外観だけなら遠くから拝見した事がありますが、近くで見るとこんなに迫力があって広いのですね~」
二人して驚く。
門で待ちぼうけになっていると。
モンスターの『ヘルズケルベロス』が猛スピードで向かって来て、檻で激突。元気よく、威嚇してきた。
「きゃ!?」
ルシアがその犬に驚き、俺は擁護する。
「番犬モンスターか、珍しいな」
「――おや、レイジとルシア様ではないか。予定通り来てくれたのだな」
ケルベロスを手なずける桃色の少女・サラは、面白おかしそうに笑った。こっちは笑えねえってーの。
「まあな。エドウィンから色々学んで来いってさ。なにより、経験値製造の手助けをしてくれるんだろう?」
「そうともそうとも。わざわざ、御足労戴いたからにはムジョルニア家へ歓迎しよう。……改めて、あたしはサラ・ムジョルニア。七代目当主だ。レイジ・ハークネス、そして、ルシア様……よろしく」
ケルベロスの横で、サラはドレススカートの裾を摘まみ、俺達を改めて歓迎してくれた。
あのバカデカ番犬はともかく、ここまで丁寧(?)にされては無碍にはできない。
◆
屋敷は、ライトニング家の三倍でかかった。代々伝わっているだけあり、これは凄い。超広い庭は、距離がかなりあった。
「――で、まさかケルベロスに乗っていくとはな!」
「お気に召さないかな?」
「いやそうじゃなくて、こんな風に移動するとは思わなかったんだよ。いろいろと常識外れすぎてね」
「ムジョルニア家は普通の貴族とは違うのだよ。そこらにいる貴族とは一緒にしないで欲しいね」
「分かったよ」
ムジョルニアの屋敷に入って、更にその規模に驚く。まだこれ以上に驚く必要があったとはなぁ。部屋の数いくつあるんだよ。
「「わぁ……」」
俺もルシアも愕然となるしかなかった。
なんか凄そうな絵画とかフルプレートアーマーの像とか、壺とかキラキラ光る装飾品やらやら……やたら豪華だった。
「レッドカーペットもどこまで続いているんだか……先が見えない。階段多すぎ」
「好きな部屋を使うと良い」
「サラもエドウィンと同じ事を言うんだな」
「有り余っているのでね。部屋の選定後、さっそく経験値製造へ参ろうではないか。我がムジョルニアの精鋭が補助する」
と、サラはニヤっと自信有り気に笑う。
なんだかガチで頼れそうで心強いな。
せっかくだから見晴らしの良い三階にした。
「ここ、景色綺麗ですね!」
「そうだな、って、ルシア……俺と一緒の部屋にするの?」
「……ダメ、ですか」
しょぼんとされて、俺は慌てる。
「ダ、ダメじゃないけど……いいのか。ほら、プライバシーとかさ……」
「関係ないです。わたし、別にもう何を見られても恥ずかしくないですから……何でしたら、今ここで下着姿になっても問題ないです」
「ちょ、それは……」
マジで脱ぎかけたので止めた。
「どうしたの、ルシア。また淋しくなったのかい」
「……はい。だって、最近、パルちゃんのレイジを見る目が恋する乙女のそれでしたので……焦ってしまいました」
またも肩を落とすルシアさん。
そう落ち込まれると、俺も弱い。
「俺は皆が好きだよ。でも、一番はルシアだ」
「本当に?」
「うん、本当」
「本当の本当に?」
「うん、本当の本当に」
見つめ合っていれば、ルシアは納得してくれた。
「……では、一緒の部屋でいいですよね?」
「わ、分かった。努力しよう」
「嬉しいっ!」
そう腕に縋りつかれては、もう断れもしなかった。まあいいか、ルシアがこんなベタベタしてくれるのは俺も正直嬉しかった。
「さて、クリスタル製造も頑張らなきゃな。レベルカンストも見えて来たし」
「そういえば、レイジさん……いつの間にかレベル90を超えたようですね。本当にいつの間にそんな上げたのです?」
「良い質問だ。実はね、あれから更に製造しまくって廃棄場の殆どを注ぎ込んだんだよ。そうしていたら、もうレベル90になっていた」
「また夜遅くまで居たんですね」
俺の腕がぎゅっと握られる。
まるでお仕置きといわんばかりの……いや、どちらかというとご褒美になっているけどね。いろいろと感触がっ……。
「けど、レベル90からが経験値テーブルが異常でね。ここからはさすがに破棄場だけじゃもう無理になっていた。でも、今回のムジョルニアの助力があったからさ、これがチャンスだって思ったんだよ」
「なるほど、これが追い上げになるのかもしれませんね」
「そうだな、レベルカンスト……99にして、俺は本物のルシアの騎士になるよ。……いや、傭兵かな。それとも、雑兵か」
ルシアは首を横に振る。
「いいえ、レイジさんは『皇剣』になるんです。わたしが支えます。皆が離れても、わたしだけは絶対に離れません。だって……わたしは、レイジさんが大好きだから……。愛しているんです」
「ああ、俺もだ。俺も気持ちは一緒だよ」