第5話 メイド騎士
寝る間も惜しんで足腰を強くしていた。
騎士団の敷地は広く、隅なら目立たなかった。
「今日は満月か」
雑兵として入団して約一週間半。
これまでで肉体と精神を自分なりに強化し、マシな体形になったと感じた。――でも、これでも足りない。あとはレベルと実戦経験を積んでいかねば。
「メイドだけど、騎士で一番頼りになるラティヌスに相手して貰えると嬉しいかな」
「呼びました~?」
「うわぁっ! ラティ……いつの間にいたんだよ」
「ずっと見ていましたよ、レイジさん。こんな夜遅くまで素振りとは感服です。そんな貴方に依頼品の完成をお知らせいたします」
「マジ!? 仕事早いな」
驚きだ。
執事服完成したんだ。
差し出される服。それを受け取って広げて見ると、本物だった。触り心地の良い高品質。これほど完璧に仕上げて貰えるとは、さすが裁縫のプロ。
「どうですか」
「スゴイよ。ありがとう、ラティ」
「いえいえ、普段のお礼です。それで、聞き違いでなければ、わたくしにがどうとか聞こえましたが」
「あー…、その剣の稽古を付けて欲しいなって……ごめん。欲張りだよな。夜も遅いし、また早朝にでも」
「問題ありません。では、ほんの少しですけど」
ラティは少し離れ、一礼した。
どうやら相手をしてくれるらしい。
「と言っても、俺……剣を持っていないんだ。生憎、この枝しかなくてね」
「そうでしたか。それではお貸しします。わたくしは、二刀流なので」
「に、二刀流だったの!」
ラティは普段から腰に、二本の剣を差している。勝手に予備と勘違いしていたけど、そういう意味があったとはな。
「二刀流といっても、かなり特殊なモノですけれどね。こちらをお貸しします」
「うわぁ、重……ッ!」
ズシッと手に重圧が掛かった。
とんでもない重さだ。
これを軽々と携えているラティは、凄いな。
「どれ」
鞘から抜くと、銀色の刃ではなく――桃色の刃が姿を現した。……な、なんだこの色。凄い鮮やかなピンクだ。
「それはカタナ。『桜花』というのです」
「桜花……綺麗だ」
これを常備しているとか、ラティのヤツ凄いな。確か、彼女のレベルは『35』とかだったか。かなり高いとは聞いていた。
対して俺は『1』だ。
鍛えてはいたけど、戦った事はなかった。
「では、いきますよ」
もう一本を抜き、構えるラティ。その手には漆黒のフランベルジュ。刃が波を打っていて、揺らいでいるように見える。
「すご……」
つまりラティは、刀とフランベルジュの異質な二刀流らしい。とんでもないメイド騎士だった。
――それから夜通し剣を交え、稽古を付けてもらった。
「も、もうギブアップ……」
息ひとつ乱さず、疲れも見せないラティは刀を回収して背を向けた。
「レイジさんの根性には驚かされました。時間を忘れて打ち込んでいれば、夜明けになってしまいました。これほど熱中したのは子供の頃以来かもしれません。では」
静かに去っていく。
メイドなのに凄いなぁ……。
これほど力に差があるとは。
でも、少し強くなれた気がする。
回避の方法も学んだ。
後は経験値を製造さえ出来れば……。
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