第47話 ハークネス
シグルズの話はこうだった――。
「リジェクトは、君……レイジの父親が――」
「待って下さい、親父が!?」
「落ち着け、レイジ」
エドウィンに宥められ、俺は着席する。
「レイジ、君の父親であるアルギレウス・ハークネスの義父……つまり、君の義祖父に当たる人物がリジェクトの創設者だ」
「お、親父の義父が……」
「彼の名は、ソルバルト・T・ハークネス。
ハークネス家はかつて、三大騎士の一員だった。君の父親も活躍していたわけだ――だが、リジェクトを創設したソルバルトは、まずは皇帝の座まで上りつめる寸前だったアルギレウスを暗殺、次に妻も惨殺された。そしてリジェクトは現在、君を殺すために躍起になっている」
「――――――」
そんな……親父も母さんも……!
爺さんに殺されたっていうのかよ……。
「今の御三家がレイジくんに関心があるのは、過去の事もあったからだ。つまり、敵か味方か見極めていたんだね。それが期待以上の活躍を見せてくれた。
ルシア様だ。ルシア様が全てを変えたと言っても過言ではない」
――耳がキーンとなる。
――意識が遠のく。
俺は、俺は……。
「……レイジさん、わたしがいますから」
ルシアに手を握られ、俺はハッとなった。
「……ルシア」
「シグルズさん、レイジさんが辛そうです」
「……そうか、一度休憩にするかい」
選択を委ねられ、俺は答えた。
「続けて下さい……」
「分かった。さっきも言ったが、君の両親は殺されたのだ。その理由はただひとつ――絶対的な力となる『皇剣』だ。皇帝を倒すと得られる称号なんだよ。
現在の皇帝も、前の皇帝を倒して今の地位にいる。だから、皇帝は必然的に最強の力を持っているというわけだ」
「でも、どうして……親父を」
「詳しくは分からないが、息子に皇帝になられては困る事があったんじゃないかな。義理とはいえ、惨い顛末だよ」
詳しい事は本人に聞くしかないって事か。
「……分かった。話してくれてありがとう、シグルズさん。おかげで俺は親父の遺志を継げそうだ。俺はリジェクトを壊滅させて『皇剣』になる」
「いや、こちらこそ騙すような真似をしてすまなかったな。私としては、是非とも共にリジェクトを打倒したいと考えている。つまり、我々は協力関係になれると思うのだが」
悪い話はでない。
前回は親父が暗殺されているんだ、味方は多い方がいい。今後、ルシアにも危険が及ぶかもしれないし……そうだな。
「よろしくお願いします」
「良い返答だ。エドウィン、そちらの御三家も動き始めるのだな」
「そうだ。我々、ライトニング家、サンダーボルト家、ムジョルニア家もリジェクトを叩き潰す為に狩りを始める。奴らはやりすぎた……我がメイド達にも被害が及んだからな」
ギリッと歯ぎしりするエドウィンは、怒りに満ち満ちていた。そうだな、以前にノンがやられた。詳しく聞けば、他のメイドも喰われたり被害があったとか。
「傭兵が必要ならいつでも言ってくれ。……そうそう、レイジ、話の後ですまないが、ひとつだけ頼みがある」
「なんです?」
「経験値クリスタルを我々にも提供してはくれないだろうか。傭兵のメンバーは数百人といるのだが、レベリングを行っている暇のない者もいてね。時間が惜しい……そこで、部下の強化を図りたいのだよ。もちろん、報酬は如何様にも支払おう」
マジかよ。ここに来て商談か。
悪い話じゃない、金はあればあるだけいい。
「了承です。ただ、製造に時間が必要なので……そうですね、三日後とかどうです?」
「では、三日後で。こちらも相応の報酬を用意しておく。話は以上だが、他に聞きたいことはあるかな」
俺は首を横に振った。
もう驚くほどに情報を得た。
気持ちの整理もしたい……。
「帰ろう、レイジ、ルシア様」
エドウィンに肩に手を置かれ、俺は少し安心した。けれど、いつの間にか脱力して思うように足が動かなかった。でも、ルシアが手を握って引っ張ってくれた。
「……ルシア」
そうだな、帰ろう。
「リートゥス。皆様のお帰りだ、頼んだぞ」
「承りました」