第4話 聖女との約束
「――執事の服を作って欲しい、ですか?」
赤い瞳を瞬きしてメイド騎士ラティヌスは、キョトンとした顔で俺を見た。いきなりの頼みに、何事かと困惑してるようだ。
「頼む! キミの『裁縫スキル』はスゴイって評判だよ。騎士達の噂になっているし。だからお願い……給料は貰えてないし、あげられるものはないけど……でも、いつかお礼はする。必ず」
「仕方ないですね。レイジさんには一度、助けて戴いておりますし、いいですよ」
なんと、快く引き受けてくれた。
ちなみに、彼女はメイドも兼業している為、騎士たちの身の回りのお世話もしていた。そんな三日前、彼女、ラティヌスは大量の洗濯物を押し付けられていた。
雑兵であるからこそ、俺は手伝いやすい環境にあった。だから、手伝った。その因果がこうして実を結ぶとはな。
「どのくらい掛かりそう?」
「ん~、そうですね。採寸は既に完了しましたので、一日あれば終わるかと」
「え、いつの間に採寸を……」
「わたくし、『採寸スキル』を持っていますので、己の眼で見れば相手のサイズが分かるんです。あとは作るだけですね。では、少々お待ちを」
一礼して、ラティヌスは去った。
その間、俺は出来る事をしていく。
◆
ただ決闘の日を待つだけではダメだ。
自分の肉体を鍛えておこうと、俺は誰もいない庭に出て、ひとりで腕立てや、木の棒を剣に見立てて素振りをしまくった。
「経験値が製造できるかもって浮かれていたら負ける。レベルばかりに頼っちゃダメだ……ひたすら鍛えて鍛えて、鍛えまくる……。強くなって見返してやるんだ」
自発的に修行をしていると、足音がして「おうおう、やってるな少年」と背後から声がした。……この声は、誰だ?
「えっと……」
顔を上げて、俺はその人を見た。
そこには気怠そうな顔をした20代と思われる男がいた。なんだろう、この人。金の髪はボサボサだし、剣は――腰に携えていた。つまり、騎士か。
「すまんね、オレはマーカスだ。マーカス・キャメロンという騎士さ。お前さんが雑兵になった頃から噂は聞いているよ。カイルのヤツと決闘するんだって? それで鍛錬を?」
「そんな所です。勝つためには修行しかないですからね」
「なぜそんな頑張る必要がある」
「決闘で勝てば色んな道が開けそうな気がしているんですよ。ここで退いてしまったら、俺は……一生後悔する気がしているんです。今しかない……今が人生最大のチャンスなんです」
うんうんと頷くマーカスとかいう騎士。頭をボリボリ掻いて、腕を組むと遠くを見つめた。
「そうかい。じゃあ、これは独り言なんだが……カイルはあれでも『Lv.25』の『クレイモア』の使い手だ。侮ると首が飛ぶだろうな。そこでだ、ヤツはパワー重視故にスピードは大した事がない。よって、回避力さえあれば、とりあえず死なずには済む。いいか、回避力だぞ」
ま、まさか……俺にアドバイス?
「あの、どうして……」
「なぁに、ただの気まぐれっつーか。ラティヌスを良くしてくれて、ありがとな」
そう言ってマーカスはくるっと背を向けて、足早に去った。……え、ラティヌスの兄、かな。金髪とか雰囲気は似ていた。うん、今度聞いてみよう。
――それからも俺は、ひたすら肉体と精神を鍛え上げていった。
手も足も肉刺だらけ。
血が滲んでいた。
さすがに病室へ向かって、ルシアに治療をお願いしに行く。
「――こんにちは」
「あら、レイジさん。……あ、酷いケガ! 血塗れじゃありませんか!」
「今日、一日中トレーニングをしていてね、気づいたらこうなってた」
「こうなっていたって……無茶しすぎです! さすがのわたしも怒りますよ。もっと自分を大切にしなきゃダメです。めっ、です」
怒られたっぽいけど、ぜんぜん迫力がなかった。むしろ、ご褒美的な? それから、手を握られ、ヒールの回復魔法を受けた。傷が癒えていく。
「ルシアさん、ありがとう」
「ルシアでいいです」
「え」
「いいですね、これからわたしの事はルシアと。約束です」
指切りを迫られ、俺はドキドキしながらも応じた。……わぁ、女の子と指切りなんて……人生で初めてだ。
「よろしい。無茶はいけませんからね、約束ですよ」
「分かった。その、また来ていいかな」
「病室担当の身としては、出来れば来て欲しくありませんが……でも、構いませんよ。わたしは、貴方を応援しています。頑張って、レイジさん」
「診てくれてありがとう。また来る」
「はい。お待ちしております」
ルシアは、天使のような微笑みで見送りしてくれた。人生で初めて向けられる燦爛たる表情に俺の心は癒されて、もっと頑張ろうって気になれた。
よーし、深夜も特訓だ。
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