第36話 傭兵団・バルムンク
「分かったよ。ところで、君の名前は?」
「申し遅れました。私の名はリートゥスです」
美しい緑髪の少女は背を向けた。
ついて来いって事らしい。
「行こうか、ルシア。傭兵団に挨拶くらいはしておかないとな。一応お世話になっているし」
「そうですよね、分かりました。では、手を」
積極的に手を繋いでくれるルシア。俺は、それが嬉しかった。これほど優しくされたのは初めてだし、俺も彼女を優しくしてあげたいって思った。
◆
バルムンクに到着。
大きな魔女の屋敷のような、魔力を感じる雰囲気だった。傭兵団って言うくらいだから、もっと騎士団のイメージがあったのだけど、あっさり崩れ去った。
「なんて建物だよ。異彩を放ちすぎだろう」
「バルムンクは初めて訪れましたが……失礼ながら、こんな幽霊屋敷だったのですね」
ルシアはそう感じたらしい。
「ええ、これはリーダー・シグルズ様の趣味ですから」
眼鏡をクイッと上げ、リートゥスは建物内へ。俺達もついていく。
会議室のような場所に入って、そこにシグルズは居た。薄ピンクのワイシャツも気になったが、何よりも隻眼に目がいく。眼帯もピンクだ。片方の正常の瞳もピンク。髪の毛も桃色。
「ようこそ、バルムンクへ。レイジくん、君の噂はかねがね……多方面で活躍しているようだね。決闘をしたり、騎士団の悪事を暴いたり、露店で何やら商売を始めたりなどアクティブな少年だ。そこが気に入ったんだがね」
中性的な顔立ちすぎて、男か女か分からない。判別がつかなかった。
「あの、俺はバルムンクのメンバーって事でいいんですかね」
「そうとも。レイジくん、キミは正式なメンバーだよ。リートゥス、紅茶を頼む」
分かりましたと短い返事をして、リートゥスは会議室を去った。俺とルシアは椅子に座るよう促され、着席。
「俺はこれからどうすればいいんですか」
「キミは、ライトニング家の傭兵だろう。ならば、そのままでもいい。上を目指したいのなら、今回のトライデントに参加するも良しだがね……いや、もうしているのか。
とにかく、リジェクトなる組織がこの帝国アイギス内部で跋扈している。彼らはまだ壊滅には至っていないのだよ。それに――」
「それに?」
鷹の眼のような鋭い目つきでルシアを見つめるシグルズ。まるで敵と断定しているかのようだった。
「ハドロン教会はどう動くのかな」
「わたし達はレイジさんのサポートをします。彼こそ三大騎士に相応しく、いずれは皇剣になる方なのです」
「皇剣か。それはつまり、王の座を奪うという事だ。三大騎士になれば、その資格が得られる。だが、真っ当の騎士は、まず皇帝陛下の座を狙わないし……恐れ多すぎる。何故なら、陛下は『雷帝・ボルテックス』の異名を持つからだ。
陛下の力は強大だぞ。並大抵の人間ならば一撃で消し炭だろう」
マジかよ。
皇帝陛下ってそんな強いのか。この国に来てから一ヶ月ちょっと、帝国の知識は殆ど皆無だったからなあ。
「そうかもしれません。でも、レイジさんは奇跡を起こしてくれます。今はトライデントに勝利する、それが第一歩でしょう」
「なるほど。ルシア様は、そのレイジくんを心の底から信頼しているらしいな。それは愛かな」
「……ッ」
そう突っ込まれ、ルシアは顔を赤くして俯く。図星だったらしい。てか、そう想われると俺も顔が熱い……。
「分かりました。ルシア様のお気持ちは心に留めておきましょう。さて、レイジくん……おっと、その前に紅茶だ」
姿勢の良いリートゥスが紅茶を運んで置いてくれる。なんて良い香り。
「……美味い」
「そうだろ、そうだろう。これはヌワラエリアという紅茶だよ。あるお店にしか売ってない高級茶葉さ。ぜひお求めになってくれ――いや、それはいいな。
とにかく、レイジくん……キミは傭兵として頑張ってくれ。私も応援しているよ。トライデントで困った事があれば、いつでも相談してくれ。ここは傭兵団。様々な人種の傭兵がいる。必要とあらば何人、何百人でも貸し出そう。その分のお金は掛かるけどね」
「ありがとうございます。とにかく、俺は積極的にトライデントに参加して、リジェクトを壊滅させようと思います。それがお世話になっているライトニング家への恩返しですから」
「元雑兵とは思えない素晴らしい志だ。また是非このバルムンクへ来てくれ」
「分かりました、また来ます。それと、お茶美味しかったです」
席を立つ。ルシアも同じく。
◆◇◆◇◆
レイジが傭兵団・バルムンクを去って数分後。
「――レイジくん、彼が経験値を製造できる男か」
「ええ、そうですよ、シグルズ様」
「彼を傭兵団に置いておけば、レベルアップし放題というわけだ。今後、彼は要人として丁重に扱うのだ。良いな、リートゥス」
「はい、お任せを……」
会議室で二人きり。
裸に剥いたリートゥスを抱きかかえるシグルズは、不敵な笑みを浮かべる。それから、シグルズは彼女を隅々まで堪能した。