第31話 救世主
騎士団の門前には、メイドの姿があった。
「ラティ、迎えに来てくれたのか」
「ええ、主様のお帰りが遅かったので心配になり、ケラノウス騎士団ではないかと思い、迎えに参りました」
「そうか、遅くなってすまない。ルシアはまだ戻ってないよね」
「戻られていませんね。教会の用事と聞き及んでおりますが」
納得し、俺は頷く。
「じゃあ、二人で少し歩こうか」
「いいのですか」
「いいよ、たまにはね」
微笑むラティの手を引いて、俺はメイドと共に黄昏の街を歩いた。茜色に染まる風景は、どこか淋しくも思える。けれど、ラティがいるからそれ程ではない。
「主様、どこへ?」
「露店だよ。でも、その前に休憩もしたいから、湖のベンチかな」
◆
騎士団から十分ほど歩き、到着。
緋色に輝く湖を目の前にする。
「綺麗だな」
「僅かな時間しかこの風景は見られませんからね、ちょっと貴重な時間です。……ところで、レイジ様はどこのご出身なのですか?」
「俺は『ミトス』っていう村の出身さ。帝国からかなり離れた辺境の村。南南東に奥地にある小さな集落さ。そこから来たんだけどね、親父の背中を追いかけて……。でも、親父は三年前に蒸発しちまった」
「そうでしたか……とんだご無礼をお許しください」
「いや、構わないさ。ラティに俺の生い立ちとか、どうして帝国に来たとか理由を話していなかったしね」
昨晩寝る前にルシアには話していた。けれど、まだラティには話していなかった。そういう暇もなかったし、今まで色々ありすぎたのだ。
「そうでしたか、ミトスの。主様の強さの秘密が何となく理解出来たかもしれません」
「うん? そうかな。俺はゴミ製造スキルしかなかった男だ。帝国に来て変われたのもルシアのお陰だし、彼女と出逢わなければ俺はずっとゴミだった」
そうだ。
思えば、ルシアの存在は大きかった。いや、大きいなんてスケールで測れるものでもない。それこそ宇宙規模だ。無限大だ。
だからこそ、ルシアを大切にしたい。
「ルシア様は、聖女であり枢機卿でもありますからね。奇跡の力を持つお方なのですよ。けれど、主様に対しては何か特別な感情を抱かれているようですね。でなければ、スキルの覚醒を促す行為なんてしないはず」
「そう言われると、ルシアは大恩人というか……救世主だな。俺は彼女にもっと感謝しなきゃならないな」
これでも毎日感謝の嵐。
それでも足りなさそうだ。
困ったな。
「偉そうな事を言うようで申し訳ないのですが、言葉より行動だと思いますよ、主様」
「そうだな。その通りだ」
ならば尚の事、クリスタルを売却してお金を作らなきゃ。そして、ルシアに沢山のお礼をしていきたい。お金を形に変え、贈る。
これが俺に出来る精一杯だ。
話を終え、俺とラティは露店街へ向かった。
「やあ、ブレア」
「首を長くして待っておいったぞい、レイジ」
砕けた笑みを向けるブレアは、まるで子犬のように尻尾を振っていたように――視えた。こう期待されると、こそばゆいな。
「注文の品だ。ほい」
ドサッと袋をテーブルに置く。
その重量感にブレアは瞳を輝かせる。
「これは凄い数じゃな。いったい、いくつ製造したんじゃ?」
「いろんなモンスターの収集品を使ったからな~、種類はかなりあるよ。スライム、オーク、ゴブリン、コボルト、ドラゴンやら千差万別。経験値も様々だよ。アイテム名がクリスタルに印されているから、種類は把握しやすいはず」
「素晴らしい。今回の売り上げは、かなり期待できそうじゃのう! あくまで予想じゃが、100万はくだらんじゃろうな」
「ひゃ、ひゃくまん……」
俺より先にラティが驚く。
そうだな、そんな大金普通は手に入らないし、持ったこともない。そこまでの金額ともなると、アイテムとか装備品もかなり充実するな。
「ブレア、頼むよ」
「任せるがいいぞ。全部売り切ってみせるのじゃ~」
自信たっぷりだな。
うん、商人としての腕は確かのようだし、期待はしていいだろう。クリスタルを全て預け、あとは頼んだ。
数日後が楽しみだな。