第11話 帝国アイギス
帝国アイギス・中央東。
城を囲むように大きな屋敷は点在し、その中のひとつがライトニング家だった。建物も庭も何から何まで広い。
「こんな所に住めるだなんて……」
ルシアを連れて、外へ向かっていた。
国の事を知ったり、これからの事を練ろうと思ったからだ。
「皇帝陛下がお認めになった三大騎士ですからね。その家柄も、名声も、権力も国中に轟いています」
腰まで伸びる銀髪が風に揺れている。思わず見惚れそうになり、俺は前を向く。
「……そ、そうだな。いつかその三大騎士を超えられるといいな」
なんて冗談のつもりだったが「ええ、いつか超えましょう」とルシアは、まるで確信があるかのように頷いた。
「いつか、ね」
門を出て、久しぶりに大通りの方へ出た。
三大騎士や騎士団などの固まっている地区を抜ければ、すぐに露店や冒険者で溢れている光景が目に入る。お祭りのような活気があっていいねぇ。
「こっちは騒がしいです」
「ルシアは、こういう雑踏が苦手なのかい?」
「ええ、ちょっとだけ」
はぐれないようルシアには、俺の袖を摘まんで貰う事にした。これが逆効果だったのか、分からないけど周囲から注目を浴びた。
「……なんかジロジロ見られてる」
「レイジさんは有名人ですから」
「俺が? どうして?」
「この前、カイルさんを倒されましたから」
……いや、どちらかと言えば、みんなルシアを見ている。彼女は、枢機卿だし、そもそもの容姿が一般人を超えている。
豪華な礼服も必ずといって視界に入るし、嫌でも目立つ。
「おいおい、ルシア様だろ」「そうだよな、あのド派手な礼服」「枢機卿!? わぁ、ちっさくて可愛いなぁ」「あの銀髪のお嬢ちゃんが?」「初めて見たぞ、あんなお人形みたいな子」「男の方は誰だ?」「さあ? 連れ去り?」「やばくね?」
――っておい、後半は俺が疑われてるじゃないか。まずいな、このままだとマジでそう認識されかねん。
ので、俺はルシアの手を取る事に――う。
「……? レイジさん?」
「……その」
迷っていると、群衆の中から男が現れた。
コイツは……。
「おい、レイジ! この前はカイルをよくもやってくれたな!」
「あんた、ジョンか」
カイルの悪友、ジョンだ。
茶髪の感じの悪いヤツ。
「ああ、お前のせいで俺たちはどん底だよ。カイルは寝込んだまま起きやがらねえ。分隊長からは待機命令を下された。俺たちはしばらく動けねえし、下手すりゃクビだ。お前のせいだぞ!」
いきなり剣を抜き、構えるジョン。横暴な。
「知るかよ。そもそものきっかけは、カイルから難癖付けてきたんだぞ。それで決闘が決まったんだ。文句を言われる覚えはねえよ」
「ンだとぉ! ……っ、ルシア様」
ジョンが俺の背後にいるルシアの存在に気づき、顔を青くした。
「……」
「なぜお前がこの方を連れ歩いている!」
「騎士団は追い出されちまったからな。二人でこれからどう動くべきか考えようと思っていたところだ。そこにアンタが現れた。それだけの話だ」
そう言い放つと、ジョンがキレた。
「っざけんな!! その方はケラウノス騎士団の名医だぞ。お前なんかが近寄っていい存在ではない! 今すぐ返して貰おうか」
剣が向けられて、俺はルシアを守る姿勢に入った。この子だけは守る。けれど、ルシアが前へ出た。
「やめてください。レイジさんは、わたしの大切なパートナーです。彼を傷つけるなら許しませんよ」
「バカな。そんなクソガキのどこが良いんだ! 最早、ただの雑兵ですらない庶民だぞ! そんなヤツ、誰も必要としないし、むしろゴミですよ、ゴミ! 雑兵すらも相応しくない。あの廃棄物と一緒ですよ、そいつ!」
むちゃくちゃ言われ、さすがの俺も怒りが込み上げてきた。そこまで言うか!?
「最低ですね……彼の事、何も知らないクセに。……もういいです、行きましょ、レイジさん」
「え……あ!?」
自然と手を繋がれ、俺は引っ張られた。
「まて! 逃げるのかレイジ!」
いや、逃げたくて逃げているわけではない。ルシアが引っ張るから! ……ああ、もう人混みに入ったから見失ったよ。
まあいいか、おかげで戦わずに済んだ。
それに手も繋げた。
そっか、俺を引っ張ってくれるのか……嬉しいな。




