24話「葵と蘭」
翌日…
ガラララ…
葵は自転車に乗り約束の地へと向かった
この日の夢は日の出かと思ったら東條の禿げ頭だったというものだった
二度と千穂や瑠璃、鈴は夢の中でも、現実でも目撃することはなかった
ジィィ…
たまたま出会ったのは左近だ
「よう葵! すっかり元気そうだな」
「左近?」
「お前すっかり普通の兄ちゃんになっちまったな」
「ハハッ 俺は元々そういう人間なんだ」
「軍人の時の姿はつくりものにすぎないぜ」
「だよな、愛国心はあっても常時あれは疲れる」
「まったくこの先日本はどうなるんだ? アメ公の州にならないことを祈ろうぜ」
「ああ」
「ところでお前、実家には帰らないのか?」
「空襲で家焼けちまって家族もみんな死んでしまったしこの辺で農家でも
やろうかと思ったんだ」
「そうなんか ハハハ」
「ところで葵、昨日お前の事探してる女の子いたぞ」
「えっ?」
「滅茶苦茶かわいかったぜ何者だあいつは?」
「さあ? 俺は知らないけど」
「とりあえず今度あったら挨拶ぐらいしとけよ」
「はいはい」
「じゃあ俺は用があるからまたな葵」
「おう左近、もし日本がまた元気になったら酒でも飲みに行こうぜ」
「ああ」
カアア…
(今日も暑いな…)
(よし、そろそろ約束した場所だな)
約束の場所へ行ったらすでに蘭がいた
「あっ 葵兄さんおはようございます」
「蘭、待ったか?」
「いえ 今きました」
「そうか」
・
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「…本当に奇遇だな」
「そうですね、あんな夢を二人同時に見るなんて」
「しかもその時、二人とも重傷でした」
「本当だぜ、今でも理解できない、特攻したつもりが海に不時着して生存したなんてな」
「えっ? 特攻…ですか?」
「まあ…な」
「大変でしたね」
「まあ、もう昔の事だし」
「あと蘭…俺さ、なんか違和感感じるんだよ、お前に敬語で話されると」
「えっ?」
「ほらお前、夢の中じゃ親友のように話していただろ」
「そうですね…じゃあこれから普通に話してもいいですか?」
「俺としてはそのほうがいい、もうあの夢のせいで慣れてしまった」
「わかった、よろしくね葵さん」
「よろしくな蘭」
「…そういえば私と葵さんって夢の中でいろいろしたよね」
「あんまり思い出したくないな、ったくあの夢のせいで蘭は本当に変態かと
思っちまったぜ」
「私も葵さんは実は同い年の女の子だと思っちゃった」
「俺は今25歳だけどな」
「10歳近く差がありますね」
「まあ、それが現実だ あの夢がおかしすぎるんだ」
「そうだよね」
「でも基本的な性格は…かわってなかったよね」
「つまり本性がわかったということか」
「そうだね」
「じゃあ蘭は変態なんだな」
「ひどいよぉ! 確かにちょっと変態かもしれないけどあそこまで過度じゃないよ!」
「自分で変態って…まあ人間は全員変態だ」
「連合国の人間だろうとドイツの奴らだろうと俺ら日本人も人間は変態だ
性欲があって普通だ、生物だし」
「そうだよね…」
「だから…」
「ん?」
「その…私…」
「好きです…葵さんの事が」
「本当か?」
「はい」
(なんだと?…じゃあ両思いか…)
葵は当初蘭のことなど近所の親しい子供としか見ていなかったが
彼女が成長すると同時にだんだん意中の相手となった
最後に会ったのは昭和20年の冬、面会したときだ、その時には今よりはほんの少しだけ
幼い匂いがしたものの16歳となった彼女からは子供とも大人ともにつかない雰囲気が
正直あんまりお姉さんが好きじゃない葵にとって好みのタイプだった
「葵さんは…どう…?」
「お…俺も蘭の事が好きだった」
「だから、家族や蘭、愛する者を守る為決して帰る事の出来ない作戦に同意し突っ込んだ」
「死ねなかったけど…」
「もしかして…あの夢って…」
「どこかで会いたいという気持ちから生まれたものなのかもね」
「さあ? 俺はしらないけど…まあ最後以外楽しかったな」
「はい!」
「蘭、お前両親を失ったんだろ?」
「えっ? はい」
「俺もお袋と妹を失い父と姉と俺との三人生活だ、きっと親父も俺に早く自立してほしいと
思っているはずだ」
「だから…」
「日本の復興の為に二人で働きに行こう、そして二人で幸せな人生を築こうぜ」
「…葵さん…つまり…」
「うまくは言えないが、駆け落ちってことか?」
「それと身内がほとんど全滅してしまって大変だろ?
寂しくないようにずっとそばにいてやる」
「ありがと…」
蘭はうれしさのあまりに涙が出たという
結局あの夢なによ?
好きなもの同士が同時に重傷負ってたまたま共鳴したんじゃね?
よくわからん、まあめでたしめでたしだね
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