いまさら謝ってももう遅い! おねショタ好きの暴虐の王は全てをさらされ、五人の勇者は勝利に笑う。
かつて、暴虐の限りを尽くした王がいました。
美しい女と見れば有無を言わさず連れ帰り、この世の富という富を独占し、逆らう者はすべて牢屋送りにしました。民は奴隷のように王に仕え、毎日お腹をすかせて、怯えながら暮らすしかありませんでした。
そんな民を救おうと、五人の若者が立ち上がりました。
「暴虐の王を倒し、この世に平和を!」
たった五人で始まった反乱は、あっという間に数万の軍勢となり、王を倒せと王宮へ押し寄せました。
ですが、王は神の血を引く者。数万の軍勢といえど王を倒すことはできず、天より降り注ぐ雷であっという間に全滅させられてしまいました。
「ふはははははっ、勇者気取りの若者よ、お前たちなど敵ではないわ!」
五人の若者は捕らえられました。目の前で共に戦った人々が殺され、若者は血の涙を流しながら王への復讐を誓いました。
「おのれ悪の王め! 必ず天罰を下してやるぞ!」
「やれるものなら、やってみるがいい!」
王はゲラゲラと笑いながら、すべての反逆者を殺し、五人の若者を奴隷として、死ぬまでひどい目にあわせたのでした。
◇ ◇ ◇
百年、二百年、そして五百年の時が経ち、王はようやく死にました。
そして、国も滅びてしまいました。
荒野に残されたのは、百名にも満たぬ老人ばかり。
「安らかに……眠らせなどせぬぞ……」
残された老人は、王宮のように立派な王の墓を見上げながら復讐を誓い。
残る命のすべてをかけて、復讐を成したのでした。
◇ ◇ ◇
「ん?」
王が目を覚ましました。
安らかな眠りについたはずなのに、なぜ、と首を傾げながら起き上がります。
「目覚めたか、魔王め」
「ほう……?」
声がした方を振り向き、王はニヤリと笑います。
かつて反乱を起こし王に殺された、五人の若者が立っていたのです。
「なんと、我が奴隷ではないか。けっこうけっこう、主を迎えにきたか。その殊勝さ、褒めてつかわそう」
「偉そうにしているのも、今のうちだ!」
「今日こそお前に復讐する!」
取り囲み、口々に復讐を誓う若者たち。王は面白くてたまりません。
「死してなお復讐とはご苦労なことだ。だが、余はもう死んだ。この世の贅を味わい尽くし、愉快な人生であったぞ。さて、どう復讐するというのかね?」
王はゲラゲラと大笑いしました。
すると。
「「「「「ふっ」」」」」
五人の若者が一斉に笑いました。まるで哀れむような、バカにし切った顔です。
「……なんだその顔は、不敬であろう」
「うるせーよ、お前なんか尊敬するか」
「なんだと?」
上から見下すような若者の視線が気に入りません。王は罰を与えてやろうと立ち上がりましたが。
「おいおい、その前にあそこ見てみろよ」
「なに?」
王は、若者の一人が指差した方を見ました。
かつて黄金に輝いていた宮殿のような王の墓所。そこに、百人ほどの人がいて、何やら大声をあげていました。
「なんだあやつらは、余の墓を荒らしおって」
不機嫌そうな王に、若者がまたもや「「「「「ふっ」」」」」と笑います。
「考古学者だよ。あんたの墓を発掘してんの」
「あ、お前が死んでから、もう一万年くらい経ってるからね」
「お前の墓なんて、とっくに砂の下。あいつらが必死で掘り起こしたの」
「むしろ感謝しろっての」
「んで、たった今、世紀の大発見をしたところ」
そう言ってニヤニヤ笑う若者たち。
王はだんだん腹が立ってきました。
「そのニヤニヤした笑いをやめんか、不敬であろう!」
「あー、すいませーん」
「おのれっ!」
へらへらと笑われて、怒りに任せて若者を殴り飛ばそうとした王ですが。
「怒らないでくださいよー、『闇夜神の光神子』さまぁ」
胸ぐらをつかんだ若者にそう言われ、ピタリと動きを止めました。
「な、な、な……」
「あっれー、どうしましたー?」
「おやおやぁ? なんだか汗ダラダラ流してますけどぉ?」
「き、き、貴様、なぜ、なぜそれを……」
冷や汗をかき、青ざめる王様を見て。
ニタァ、と五人の若者が笑いました。
◇ ◇ ◇
「アキース博士、世紀の大発見ですよ!」
「これを解読できれば、古代史の解明が飛躍的に進みますね!」
「うむ、すばらしい。みな、ありがとう!」
暴虐の王、ボ=コボ=コニシ=テヤルゾ。
テヤルゾ王という名で数々のおとぎ話に登場する王様ですが、その存在は神話の中のものとされていました。
その墓所が、ついに発見されたのです。
しかも、大量の文書が収められた箱も見つかり、二重の大発見です。
「厳重に密閉されていて、保存状態も良好です」
「古代象形文字の一種でしょうか。未解読の文字ですが、きっと解読できますよ!」
「世界史が塗り替わるぞぉ!」
世紀の大発見に沸く発掘隊。もちろんリーダーであるアキース博士も、はしゃぎまわりたいほどの興奮です。
「いや、これからだ。これからだぞ、諸君! さあ、こいつを研究所へ運び、世界へ発表しようではないか!」
「おおーっ!」
◇ ◇ ◇
「えーと、なになに……『ボクは王様、あの子は姫巫女 〜 恋しちゃいけないお姉ちゃん』か」
「ふーん、『森のお姉さん 〜 誰もいない森の中、ボクは運命の出会いをした』」
「『婚約破棄から始まる真実の恋。お姉さま、ホントのボクを見てほしい』」
「『いまさら気づいてももう遅い! ショタっ子王様はチート権力でお姉さまを守りきる!』」
「えー、なに、王様、おねショタ系が好きなのー?」
考古学者たちが宝物のように恭しく取り出していく文書の束。
その表紙に書かれた文字を読み上げ、若者たちはゲラゲラ笑います。
「やめ……お願い、読まないで……お願い……」
一方、悪逆非道の王様は……真っ赤な顔を両手で隠し、若者が題を読み上げるたびに床を転げまわりました。
「いやいやいや、悪の限りを尽くした暴虐の王様の趣味が」
「おねショタのドリーム小説書くことなんて」
「ある意味シビレるぅ〜♪」
床で転がる王様を、五人は同時に見下ろして。
「「「「「ふっ」」」」」
と笑いました。
「や、やめろぉぉぉっ、そんな目で余を見るなぁぁぁぁっ!」
「まあまあ、誰にだって黒歴史はあるって」
「あんたも色々たまってたんだな」
「いや、いいぜ。俺も好きだからな。いいよな、おねショタ」
「ペンネームは、ちょっと考え直した方がよかったけどな」
「な、なぜだ、なぜお前たちが知っているんだぁ!」
王様は誰にも見つからないよう、細心の注意を払っていました。小説を書いていた部屋には召使いだって入らせず、いつも一人で楽しむだけでした。
「死んでいただろうが! あれは、お前たちが死んだ後に始めた趣味だぞ!」
「うん、死んで、お前にどうにか復讐してやろうと思って幽霊になってお前の周り漂ってたら、見つけた」
若者の一人がそう言い、泣きわめく王様に「ふっ」と笑います。
「驚いたよー、驚きのあまり昇天しちゃいそうだったよ」
「そのまま昇天せんかぁぁぁぁぁっ!」
「してたまるかぁぁぁぁっ! これで復讐できると思ったんだからなぁっ!」
その後、若者が霊感のある人に話しかけて、王様が死んだらその小説を墓に埋めろ、死んだ後に大恥さらさせてやる、と伝えたところ、皆が大喜びして協力したのです。
「まあ、一万年かかるとは思わなかったけどよ」
「おかげで価値は爆上がり。あれ全部解読されて、歴史的な本として世界中でさらされるぜ」
「な……なん……だ、と?」
若者の言葉に王様は呆然としました。
己の妄想がたっぷりと詰まったドリーム小説が。
貴重な歴史書扱いされて、世界中でさらされる。
ペンネームではなく、リアルネームで。
なんということでしょう。
「や、やめろぉぉぉぉっ、やめてくれぇぇ! いっそ殺せぇぇぇっ!」
「いや、お前もう死んでるし」
「ま、報いだと思って。せいぜい人類史に恥を刻んでくれ」
「それじゃ俺たち、昇天するから」
「神様にも宣伝しとくなー!」
「じゃあねー!」
はるか高みから光が降り注ぎ、にこやかに笑う五人を包み込みました。
「ま、待たんか、貴様ら、神には、神には言いふらさないでくれぇ! 余の親もいるのだぞぉっ! 謝るから、土下座して謝るから、神には言わないでくれえ!」
王様の絶叫に、若者たちは手を振るのをやめました。
そして。
「「「「「ふっ」」」」」
哀れむような笑みと「いいことを聞いた」というセリフを残し、神様の元へ行ってしまいました。
◇ ◇ ◇
その後、王様が残したドリーム小説は、大勢の人の懸命な努力と二十年の月日を経て、全て解読されました。
その内容については、あ然、の一言。
解読に人生を捧げた多くの言語学者が、「俺の人生ってなんだったんだろう」と悲しみの涙を流しました。
しかし古代の文化を知る貴重な資料であることに間違いはない、となり。
「テヤルゾ文庫」としてまとめられ、主に、大きな男の子たちの愛読書として、いつまでも読み継がれることになりました。
「やめてくれぇぇぇぇ、もう許してくれぇぇぇ!」
おしまい。