第8話:本物の覚悟
――1時間前、『神秘の魂』の無意識空間内――
「俺の考えはこうだ。俺がお前の体を使い、まずはカイルとモニカに話をする。モニカに関してはまだハルのスキルや俺の事について何も話してねぇしな。」
「ちょっと待って、何で君が私の体を使う必要があるの?」
ダイムとハルは、今後の計画について話し合っていた。
「俺が体を使いたいのは、一つは急な不意打ち対策が必要だと思ったからだ。俺がこの世界に来てからまだ日は短いし、もしかしたらまだあの黒いローブの男が追ってきている可能性があるかも知れない。いくらなんでも、姿が全く違う状態で見つけられるとは思わねぇが... 『CrazyNoisy』のある俺ならすぐに反撃できるからな。...それと、もう一つ理由がある。どっちかと言えばこっちの方がメインの理由だ。」
「メインの理由...?何よそれは。」
ダイムの言葉に、ハルは疑問を投げた。
「...簡単に言えば、俺達が攻略者ギルドマスターの座を奪い取るためさ。」
「な――っ!?」
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「...なるほどな。計画は大体わかった。確かに、それならギルドマスターの座も奪い取る事ができる。...だが、それはもし『うまくいけば』の話だ。攻略者ギルドのマスターはかなり謎の多い人物と聞いているし、その作戦はマスターがこっちの狙い通りの返事を寄越す事が最低条件だ。あんたの計画を聞いていきなり牙をむく可能性もあるぞ。ダイム、あんたの計画はかなりのハイリスク・ハイリターンなものなんだよ。...そこまでして世界攻略をする理由と覚悟が、あんたにはあるのか?」
カイルの言葉を聞き、ダイムは一瞬表情が引きつったが、すぐにまた自信に満ちた笑顔に戻った。
「...リスクなんてモンは百も承知だ。最初から危険な賭けを避けていちゃあ、神をぶっ殺す事なんかできねぇだろうが。それに、俺には戦う理由がちゃんとある。
――俺を助けてくれた、あの銀髪の男の希望に応えるため。これは俺の人生のポリシーでな。『貰った恩はちゃんと返し、困った時はお互い様』だ。あの時、あの男は俺を利用しようかとか、そんな悪ぃ事は考えちゃいなかった... ただ純粋で、必死な声。あいつの顔は優しく微笑んでいたが、心の奥では俺に心から助けを求めていたのが分かった。
だから俺は、俺の命をここまで繋いでくれたあの男に応えたい。いや、応える!そのためにも、俺はこの世界の頂点にいる神を倒す。...俺が戦う理由はそれだけだ。」
ダイムの真っ直ぐな瞳から語られる話を、カイルは黙って聞いていた。
「...それは分かった。あんたのいた世界で何があったのかは俺にはよく分からないが、少なくともあんたの言っている事は本当だ。それに、あんたは俺達みんなの命を救ってくれた。俺だって、命の恩人の意志は尊重したい。
...だがダイム。あんたの取る行動は、そのままハルにも影響するんだ。ハルの家は昔から攻略者の一族でな... 必然なのか、俺があいつに初めて会った時から、あいつ自身の夢もアルベロディオを完全攻略する事だった。それに、ハルにはあいつ自身の戦う理由が別にある... だが、あんたはあいつの『覚悟』を理解できているのか?あんた一人の『覚悟』のために、周りの人達が一緒に『背負うもの』の重さを... あんたは分かっているのか?」
少年達の眼差しは、互いに向かい合い強い『意志』を送り合っていた。
「...分かっている... とは俺には言えねぇ。だが、ハルの事を理解しようとする事は、もはや俺の義務だ。逆にあいつにも、俺の事を理解しようと努力する義務がある。言わば、一つの体(いのち
)を二人で共有しているわけだからな... だから俺は、これからハルの事を全力で理解しようと生きて行動する。...それに、俺の意志を実現するために必要なあいつの『覚悟』の事は、俺もざっくりとだが知っている。あいつが何故本気でこの世界を攻略しようとしているのか...」
ダイムがそう言うと、カイルは驚いた表情で目を大きく開いた。
「...聞いたのか?あいつの両親の事を...!」
「...あぁ、俺達の魂が初めてハルの『神秘の魂』の力で繋がった時、不思議とあいつの『魂を動かすエネルギー』みたいなもんを感じてな... その時、あいつが目指している夢と、その目標へと向かう『きっかけ』が俺の魂に伝わって来た。だから俺は、何があいつの命を懸ける『意思』を動かしているのかを知っている... いや、まだ完全に知ってはいないがな。そしてそれを、俺は自分の心で理解したいと思っている。」
「.....」
しばらくの沈黙の後、カイルが再び口を開いた。
「――自分の『意思』を必ず実現させようとする『覚悟』!そしてそのために背負い、背負わせる他人の『覚悟』を理解しようと全力で努力するする鋼の様な『意思』!それを持ち合わせる事が、人間に必要な『本物の覚悟』だ!!」
カイルはそう言い放つと、今までずっと真剣そうだった彼の表情が、突然崩れて元気に笑った。
「...そしてあんたは、それをちゃんと分かってる。ハルの過去を知ってあいつから距離を話すヤツは何人かいたが、あんたはそれを受け入れてあげようとしている。となれば、俺もあんたとハルの戦いを全力で応援するっきゃないよな!これからもよろしく頼むぜ、新しい『親友』ッ!」
突然そう言い自分の肩を叩く少年に一瞬驚きの表情を露にしながらも、ダイムはすぐに同じように笑い返した。
「へっ、言われなくても、こっちこそよろしくだぜ!ちゃんと応援してくれよな、『相棒』!」
「おいおい、いきなり『親友』を超えて来るなよな... でも、あんたがこんなデキた男で安心したぜ。ハルのやつも、いい魂の相棒を持ったもんだな!」
肩を組み元気に笑い合う少年達の背後で、一人静かに佇む少女がいた。
「あっ、あの...!私はみんなみたいに頭があんまり良くないから、ハルちゃんの事とかダイムさんの事を完全に理解できてるわけじゃないけど... その、私からもよろしくね!」
「.....」
少女がそう言うと、少年達は真顔で彼女の顔を見つめた。
「なっ、何?そんな無言で見つめられると、恥ずかしいよ...!」
少女は顔を少し赤らめた。
「...モニカ、そう言えばお前もいたな。」
「...え?」
「――あはははっ!お前の存在をすっかり忘れてたぜ!何も喋らないから、途中から俺とダイムだけでこの部屋にいるのかと!」
「ひ、ひどい!二人の熱い男の青春の雰囲気を壊さないように黙ってたのに~っ!」
顔を赤くして頬を大きく膨らませながらカイルの肩をポカポカと叩くモニカの頭に、ダイムは優しく手を乗せた。
「安心しろよ。お前の事もこれからよく知っていこうと思ってるさ。だからこれからも友達としてよろしくな、モニカ!」
歯を見せてニッと笑う彼に、モニカも優しく笑顔を返した。
「――うん!よろしくね、ダイムさん!いや、ダイム君っ!」
――10分後
「...『本物の覚悟』、か... ハルのやつ、いい友達を持ったな。...さてと。退院手続きも無事に済んだ事だし、そろそろ行くか!」
ダイムは鞄の紐に肩を通すと、病院の大きな木製の扉を両手で押し開いた。
「うーん!いい天気だな!」
開かれた扉から差し込む太陽の光に目を眩ませながら、ダイムは外の世界へと一歩を踏み出した。
「無事に地味にまだやってなかった、俺のアルベロディオの大地への最初の一歩も刻めた事だし――
――ちょっくら、ギルドマスターの座を奪ってくるぜ。」
― 続く ―