第7話:作戦会議
「...俺も無意識空間で聞いてたし、話は大体分かった。俺もその攻略者ギルドってとこに行く事に賛成だ。どの道、戦いのサポートは必要だと思っていたからな。」
「そう言うと思ったわ。それじゃあ、明日の朝出発ね。」
ダイムとハルは、再び『神秘の魂』の無意識空間の中で話をしていた。
「攻略者ギルドは、攻略開始初期はもっと大きな組織だったんだけど、ブラックレイジが出現してからは一気に規模が小さくなって今ではかなり廃れた組織になってしまったわ。でも今でも世界攻略を諦めていない数少ない人達が集まる場所だし、戦闘力の高さは保障するわよ。」
「へぇ、そりゃ楽しみだな!明日は俺がお前の体を使ってもいいか?」
ダイムは、金色の瞳をを輝かせながらハルと目を合わせた。
「そ、それだけ聞くとなんかヤバいセリフみたいね... でも、明日もとりあえず最初は私が体を使う。って言うか元々私の体だしね。」
「えぇ... ここで待ってるだけじゃ退屈なんだよ。」
ハルの言葉に、ダイムは肩を落とした。
「そう言えば、君は確か知らない銀髪の青年に魂を送ってきてもらったんでしょ?その人は私の事も知ってたの?」
ハルは聞いた。
「ああ。そいつは今の俺達の状況をピタリと当てやがった。俺に『神を倒せ』とも言ってたな... まぁ、悪い人ではなさそうだったんだが。俺の事を助けてくれたしな。」
「へぇ... まだまだ私達の周りは謎だらけなのね。その人のユニークスキルに関係しているのかな?」
「いや、俺のいた世界、地球じゃ人間はユニークスキルの様な特殊能力なんて持っちゃいなかった。もしかしたら、俺をこの世界に送ったあの男は元々アルベロディオの人間だったのかもな... 俺と似た様な電気系の力もも使ってたし。それに、俺の事を狙っていたローブの男も、黒い影を扱う能力を持っていた。」
ダイムは、天空にゆったりと流れる雲を見上げながら言った。
「そうなると、その彼は異世界に直接肉体で干渉する能力に加えて、君のスキルに似た力も持っているって事か... それってほぼ私達の上位互換じゃない?加えて、その影を操るローブの男もこの世界の人間だとすると、彼も異世界干渉の力を持っている事になる。その彼が君を狙っていたなんて、一体どういう事なの...?」
ハルは腕を組みながら困惑の表情を浮かべていた。
「まぁ、そんな事は今考えても分からねぇよ。それよりも、明日の話だ。俺の力が必要になる事はありそうなのか?」
ダイムが尋ねた。
「今はまだ何とも言えないわね。私的には、明日ギルドへ行って正式に攻略者登録をした方がいいと思うんだけど... 君やブラックレイジとの一件を聞いて、警戒されないかしら...」
「うーん、そうだな... 向こうの世界で俺を襲った黒いローブの男の件もあるし、下手すりゃ戦闘になる可能性もあるかもしれねぇ。」
(まぁ、あの銀髪の男がローブの男をあそこで倒してくれてりゃあそれが一番いいんだが...)
二人は、黙り込んでしばらく考え込んでいた。
「...なぁハル、この世界にも政府機関は存在しているのか?」
ダイムが聞いた。
「ええ、一応アルベロディオは一つの王国として機能しているわ。第50層にあるこの街、クラウミアが王都で、街の中央には王城もある。この世界の法や方針は、基本的にそこで決められているの。」
「なるほど、300年前に崩壊した世界を、また一から立て直し支配権を握ったヤツがいたって事か... じゃあ、攻略者ギルドはどうなんだ?そこも王国が運営しているのか?」
「いえ、ギルドは王国非公認の組織よ。王と言っても、完全に世界を支配している訳じゃないわ。彼らは基本的なルールを法として定めて、あとは世界の秩序を監視している様な存在よ。攻略者ギルドは、別のギルドマスターが運営しているわ。一応、ギルドを設立するだけなら誰にでもできるしね。」
ハルがそう答えると、ダイムは再び少し考え込んだ。
「...よし。それなら一つ、俺に考えがあるぜ。」
「考え...?」
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「―――はっ!」
目が覚めると、そこには再び白い天井が見えた。
「...よし、無事にハルの体に移れたみたいだな。」
ダイムは、手足を軽く動かしながら隣の机の上にある小さな鏡を手に取った。
「へぇ、俺が乗り移ってる間は見た目も少し変わるんだな。これは何かに使えるかもだぜ。」
そこに映る少女?の姿は、黒龍との戦闘時と同じように右の瞳が金色に変わり、白い髪にも所々メッシュの様に金髪が混じっていた。
「それにしても、本当にハルが朝から体を貸してくれるとはな... まぁ、どんな攻撃にもすぐに対処できるようにって提案したのは俺なんだけど... さてと、それじゃあまずは着替えてカイルの病室に行くか。」
そう言うと、ダイムはベッドから降り、着ていた患者服を脱ぎ始めた。
「うっ、やっぱり女の体ってのは慣れねぇな... この体には結構筋肉も付いてるし、胸にも余計な物が無ぇから別にいいけどな。」
ダイムは、パンツ一枚で鏡の前に立ちながらそう言った。
「でも、下の方にアレが無いのは違和感があるな...」
ダイムは履いている下着の中を不思議そうな顔で覗いていた。
「――ッ!」
その瞬間、ダイムは持ち前の不意打ち察知能力で何かの気配を感じ取り、急いで部屋のドアの方へ振り返った。
「ハ、ハルちゃん...?そんな格好で何やってるの...?」
そこには、青ざめた表情で呆然と立つモニカの姿があった。
「あっ... これは、その.....」
「もーっ、びっくりしたよ!ハルちゃんに会いに来てみたらいきなり裸で歩き回ってるから、何事かと思って...」
白いワンピースに着替え、ダイムはモニカと共に病院の廊下を歩いていた。
「あはは... ただ着替えてただけだってば。確かに、周りから見ればただの変人だったかも知れんが...」
(て言うかこいつ、ハルじゃなくて俺の魂が乗り移ってる事に気付いてないのか...?)
ダイムは自分の変化に気が付く様子の無いモニカに苦笑いを浮かべていた。
「そう言えば、話って何なの?私にも言う事があるって言ってたよね?」
「あぁ、それはカイルの部屋で一緒に話すよ。それに、なんか気付かれてないっぽいし。」
「...?」
困惑の表情を浮かべるモニカを側に、ダイムはカイルの病室のドアを開いた。
「よぉ、元気してるか?」
「――!あんたは...!」
カイルは、部屋に入って来たダイムを見た瞬間に彼の存在に気が付いた様子だった。
「その... あの時はありがとうな。俺達やハルを助けてくれて。昨日ハルから話は聞いたよ。」
少しぎこちない雰囲気でカイルが言った。
「へっ、別に礼なんかしなくていいぜ。俺だってお前の気合が無けりゃ死んでたんだからな。」
「えっ?えっ?ハルちゃん... だよね?」
既に彼に友人の様に接するダイムの後ろで、モニカは更に混乱していた。
「...は?モニカ、お前もしかして気付いてないのか?」
すると、カイルが驚いた顔でツッコんだ。
「気付いてないって...?」
「何言ってんだよお前!どう見てもハルじゃなくてあの時俺達を助けてくれたダイムだろうが!お前そんなにおバカさんだったか?」
「あの人...?」
言われて顔を覗き込むモニカと、ダイムは気まずそうに目を合わせた。
「――あ、ああ~っ!!ホントだ、ハルちゃんじゃない!あなた誰!?」
モニカは、何かを察した様な驚きの焦りの表情で跳び上がった。
「...やれやれ。それじゃあ、ようやく話し合いといくか...」
― 続く ―




