第6話:友との再会
「はぁ~... 疲れた.....」
ハルは、生気の抜けた表情で病院の綺麗な白い廊下を歩いていた。
「まさか、朝から晩まで検査やら取材やらで時間を取る事になるなんてね... ダイムと黒龍の件については何とか上手く誤魔化せたと思うけど、いずれは公表する必要があるわよね... 彼の力を求めている誰かがいるっぽいし、一応まだ誰かには話さない方がいいかな。モニカ達にも黙っておくように言わないと...」
「おーい!ハルちゃーん!」
ハルが独り言を言っていると、廊下の向こうからモニカが手を振りながら走って来た。
「ごめんモニカ、遅くなっちゃって...」
「いやいや、あんな事があった後じゃ仕方ないよ。それにしても、第50層ってすごいんだね~!私は初めて来たけど、ここにはなんでもあるよ!」
少女は、目を輝かせながら興奮した様子で飛び跳ねていた。
「私は昔来た事があるけど、その時から大分街並みも変わっているみたいね。流石最先端の都会町って感じ。私も久しぶりに観光したいな... って言うかモニカ!ここ病院の中だよ!あまり走ったり騒がないようにしないと!」
「あっ、ごめん!」
ハルが注意すると、モニカは急いで口に手を当てた。
「あっ、そう言えばカイルがハルちゃんの事心配してたよ。この廊下の向こうの病室にいるから、会いに行ってあげたら?」
モニカは、彼女が走って来た廊下の端を指差して言った。
「えっ、そうなの!?カイルもここに入院してたんだ... ありがとうモニカ、それじゃあ行ってくるね!」
ハルは少女に手を振ると、友人の待つ病室へと走って行った。
「ふふ... ハルちゃんも、カイルが心配だったんだね。私に注意したばかりなのに自分が廊下で走ってる。」
「ここね...」
ハルはドアの前に立つと、軽くノックをした。
「あの... カイル?ハルだけど、入ってもいいかな?」
彼女は顔をドアに近づけ、少し小さめの声で言った。
「――!ハルか!ああ、入ってもいいぞ。」
彼の声を聞くと、ハルはそっとドアノブを捻って前へ押し開いた。
「...よぉ、2日ぶりだな。」
少年カイルもまた、ハルと同じような小ぎれいな病室のベッドの上にいた。しかし彼の全身には至る所に包帯が巻かれていて、その姿は見ていてとても痛々しいものだった。
「カ、カイル...!ちょっと、その傷大丈夫なの!?」
ハルは心配そうな顔で尋ねた。
「へっ、大した事ねぇよ。俺は問題なく元気だ。医者が言うには、あと3日は入院生活って事らしいけどな... それにしても、第50層の医者はすげぇよ。見た事ないような薬を沢山持ってるし、治療系のスキルを持った人も多い。それより、お前の方こそもう大丈夫なのか?正直、あの竜の攻撃をもろに喰らった時は死んだかと思ったぜ。」
カイルはそう言うと、顔に軽く笑みを浮かべた。
「死んでないわよ!でもとにかく、私の方は見ての通り殆ど問題ないわ。怪我も大した事無かったし、明日には退院できるみたいよ。」
「...そうか。そりゃ良かったな。」
二人は目を合わせると、互いにくすっと笑った。
「そう言えば、お前はあの後に何があったのか知ってるのか?俺はもうルイスやモニカから聞いてるけど。」
「ええ、大まかな事は私もモニカから聞いたわ。ブラックレイジが去った後、私達もいつの間にか村の塔の外まで戻っていて、それからルイスが皆の助けを呼んでこの病院に運んでくれたんでしょ?で、それが一昨日の話。ルイスはモニカと違って付き添いに来れなかったみたいだけど、彼にも帰ったらちゃんと感謝しないとね。」
「あぁ、もちろんだ。」
しばらく黙り込むと、カイルは突然何かを思い出したかの様に口を開いた。
「そうだ!お前にあの事を言うのを忘れてたぜ。お前が竜の攻撃を喰らった後、お前にそっくりな奴が竜を倒してくれたんだ。その人はお前の事も知ってるっぽくて、戦いが終わったら気を失ってお前の姿に戻ってさ。あれは一体何だったんだ...?」
「あぁ、それは...」
(これは説明が面倒くさそうね...)
ハルは、彼にダイムとの事を話す事を決意した。
「―――はぁ!?じゃあ、そのダイムって人とお前はスキルで繋がっていて、あの人が今もお前の中にいるって事なのか!?」
「...ええ。言った通り、ダイムと私は『神秘の魂』の力で魂ごと繋がって離れられなくなっているの。あの黒龍、ブラックレイジを倒したのも、私の体を使って彼が自身のユニークスキルの力で戦った事による事よ。私もその一部始終は肉体の視覚を借りて見ていたわ。」
驚きを隠せない様子のカイルに、ハルは落ち着いて説明をした。
「まさか、そんな事になっていたとはな... ってか、結局あの竜、ブラックレイジは何だったんだろうな?」
「それは私にも分からない。未だに誰も倒せていない第50層のワールドボスが、何故突然第12層の小さな村に現れ、私達のユニークスキルを試すような事をしたのか... でもダイムのユニークスキルこそが求めていたものだ、なんて事も言っていたし、自分の城... 恐らくこの50層のワールドダンジョンの最深部にある黒龍の城で、ダイムともう一度本気で勝負するとも言っていたわね。今は考えても私達のような子供だけじゃ答えは出せないから、近いうちに誰かに相談した方がいいかも。」
ハルは眉を狭めて考えながら言った。
「ああ。あいつも当事者だし、モニカにもこの話はしておいた方がいいだろう。それで提案なんだが、明日はハル、お前が攻略者ギルドに行って話をしてくれないか?あそこならダンジョンやボス、スキルについて詳しい専門家も沢山いるだろ。それに、ブラックレイジとの戦闘はきっと避けられないはずだ。こっちがずっと行かなくても、また向こうから仕掛けてくるだろうしな。攻略者ギルドなら、黒龍討伐の増援や援護を頼めるかも知れない。」
カイルは、彼にしては珍しい真面目な表情で提案した。
「確かに、攻略者ギルドなら頼りになりそうね。ブラックレイジに勝った事は無いにしても、私達も戦った第一形態なら何度も倒しているし、十分な戦闘力は有しているはずだわ。...うん、それならカイルの言う通り、私が明日ギルドに相談しに行ってくる。丁度、本部がこの街にある事だしね。」
「...珍しいな、お前が俺の意見を素直に肯定するなんて。」
カイルがそう返すと、ハルは不機嫌な表情で頬を膨らませた。
「こんな一大事なんだから当たり前でしょ!いつもみたいにくだらない言い争いはしてられないわ。とにかく、今日はもうお互い寝ましょう。夜も更けて来たわ。」
ハルは、そう言うと小さく欠伸をした。
「そうだな。俺もそろそろ眠くなってきたぜ。まぁ、お前が元気そうでよかったよ。おやすみ、また明日の朝ここに来てくれよな!」
「...言われなくても、モニカを連れてまた来るわよ。」
そう言葉を交わし、ハルはカイルの病室を後にした。
「――さてと、一応ダイムにも話しておかなくちゃね。明日は朝早いし、早く部屋へ戻って寝よう!」
ハルは、背伸びをしながら自分の病室へと戻って行った。
― 続く ―