第4話:『ミステリオーソ』と『クレイジー・ノイジー』・その2
「―――黒龍は、このダイム・チャンプが倒す――!!」
ハルに瓜二つのその少年?が両拳を握りしめると、その全身から眩い電流が流れ放電し始めた。
「まだまだ行くぜ、ブラックレイジ――!!」
すると、黒龍の周りの何もない空中から、数え切れない程の電撃を込めた打撃が彼を襲った。部屋中に雷鳴の様な轟音が鳴り響き、黒龍の身体は見る見るうちに傷だらけになっていった。
『グオオォォァァッッ!!!』
黒龍は再び苦しみの声を響かせた。
「ど、どうなってるんだ...!?この人は一歩も動いていないのに、竜が攻撃を受けている...!」
子供達3人は、目の前の光景をただ茫然と見つめていた。
「いや、俺はちゃんと動き回って戦ってるぜ... ただし、周りから俺自身の動きが全く見えなくなる程の、光速に迫る速度でな!」
「なっ.....!?」
ダイムは、そう言うと更に攻撃の速度と電流の威力を高めた。
「す、すごい...!黒龍の体力ゲージが、もう殆ど無くなっている...!」
黒龍の頭上に浮かぶゲージは、既に残り僅かにまで減っていた。
「黒龍にトドメを刺す前に... そこのお前に礼を言っとくぜ。」
「お、俺か...?」
カイルが、困惑した表情で自分を指差した。
「ああ。お前がさっきの攻撃で時間を稼いでくれたおかげで、俺の『CrazyNoisy』の能力を知る時間と、ハルの知識を断片的にだが貰う余裕ができた。それがなきゃ俺は今戦えていなかっただろうからな。」
ダイムは少年に笑顔を向けた。
「ハルの、知識...!?」
「――さぁ、それじゃあ最後に一発、デケェのをブチ込んでやるぜ!!」
そう言うと、ダイムは一瞬で姿を消し、拳を構えた状態で黒龍の頭上に現れた。
「―――これで終わりだ!『クレイジー・サンダー』ッ!!!」
――ズドオオォォンッッ!!
ダイムが拳を勢いよく振りかざすと、大地が揺れる程の雷鳴と共に、今までで一番の規模の電撃が黒龍と部屋全体を包み込んだ。
『グルオオォォァァッ―――!!!』
誰もが目を眩ませる程の明るく青白い光に包まれ、黒龍の咆哮が辺りに鳴り響いた。
「ハァ... ハァ... どうだ.....!殺ったか.....!?」
ダイムが地面に跪き黒龍の居た場所を見ると、そこにはもう何の姿も無かった。
「フッ... どうやら勝っ――」
「――いや、まだだ!!まだヤツの体力ゲージが――!!」
「何.....!?」
カイルに言われ再び黒龍の頭部があった辺りを見上げると、そこには確かに全開まで回復した大きな体力ゲージ『だけ』が表示されていた。
『ブラックレイジ・オーバーフェイズ HP:70,000,000』
「オーバーフェイズ...?クソッ、まさかまだ力を隠して――!?」
ダイムが再び立ち上がろうとすると、どこからか黒龍の声が聞こえてきた。
『コレダ... コレコソガ、「アノカタ」ノモトメテイル、チカラ...!カミナリノオマエ、ワタシノシロデ、フタタビショウブヲシロ...!ソノトキヲ、ワタシハマツ―――!』
その声は、そう言うと新しく増えた体力ゲージと共に何処かへと消えて行った。
「ど、どう言う事だ...!?黒龍は俺達を見逃したのか...?あの方の求めている力って―――」
「うわあああああ!!」
すると突然、少年ルイスと少女モニカが泣きながらダイムに抱きついてきた。
「うおっ、どうした!?」
「うぅ... ありがとう、ハルに似てる人...!」
「怖かったよぉ.....!」
彼の胸元に顔を埋める二人に軽く微笑みながら、彼は地面に倒れ込むカイルの方を向いた。
「あんたが何者か知らねぇが... ありがとうよ。あんたが来てくれなかったら俺達は確実に死んでいた。」
少年はダイムと真顔で目を合わせると、彼の両目からもぽろぽろと雫が零れ落ち始めた。
「けどよ... 俺はハルを救えなかった。もっと俺に力があれば、あいつを死なせずに済んだのに.....ッ!」
悔しそうに涙を流す少年に、ダイムは再び微笑んだ。
「...安心しろ。ハルは死んじゃいねぇよ。ちゃんと生きて、もうすぐお前達にも会えるはずだ。」
「なっ...!?今、何て――!?」
「悪ぃ... 俺もちょっともう限界だわ。調子に乗ってスキルを使いすぎちまった... もう、意識が.....」
ダイムは、目を細めながらゆっくりと地面に倒れた。
「...!?ちょっと、だ、大丈夫ですか――!?」
「あ、あぁ... ただの体力の限界だ... それよりもお前ら、このハルの身体を、頼んだ... ぞ.....」
少女達に心配そうな表情で顔を覗き込まれながら、ダイムの意識は途切れた―――
♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「.....」
ダイムは、不思議な空間の中で座り込んでいた。薄く青白い天空には奇妙な雲の様な物が流れ、360°全ての方向に同じ景色と地平線が広がっていた。
そして何より、彼の姿はあの謎のローブの男や銀髪の青年と出会った時のものと同じ、金髪交じりの黒髪の少年の姿になっていた。服装も当時と同じ黒いTシャツにオレンジ色の短パンで、体の周りの電流は完全に消えていた。
「――ちょっと、君。」
その声の主の方を見上げると、そこには純白のワンピースを着た、白髪で青い目の少女―― ハルが頬を膨らませて立っていた。
「...これは、じっくりとした話し合いが必要みたいね。」
「.....ああ、同感だな。」
― 続く ―