第3話:『ミステリオーソ』と『クレイジー・ノイジー』・その1
「――これで、私が今ユニークスキルを貰えば.....!」
ハルは『力の結晶』を握りしめ、目の前の黒竜と睨み合った。
「...?そう言えば、どうしてこいつは何もしてこないんだ...?」
巨大な黒竜ブラックレイジは、ただ黙ってハルを見つめるだけで、何も攻撃などはしてこなかった。
「ハル...!そいつは、お前がその結晶を使って、ユニークスキルを手に入れるのを待っているんだ...!」
「僕達も、スキルを手に入れて戦ったけど到底そいつには敵わなかった...!」
すると、頭から血を流しながら、倒れた少年達が声を絞り出して言った。
「カ、カイル...!ルイス...!それなら、私が強いユニークスキルを手に入れて、ブラックレイジを倒せばいいんだ!」
ハルはそう言って結晶に向かって口を開いた。
「だめだよハルちゃん...!スキルを手に入れれば、その黒竜はあなたを襲う...!私達も、そうやって今こんな状態にされているんだ...!」
少女がそう言うと、ハルは動きを止めた。
「モニカ...」
(確かに、ここで私がスキルを受け取って負ければ、今まで何故か生かされていたモニカ達も殺されるかもしれない。ブラックレイジが何を思って私達のスキルを試す様な真似をしているのかは分からないけど... 村で最後のスキルを受け取る資格を持った無能力者は、私だけだ。逃げる事もかなわないだろうし、それなら今ここで私が戦って勝つしかない...!)
ハルは、覚悟を決めて頷いた。
「――さぁ、神よ!『力の結晶』を通じ、今こそ私に力を与えよ――!!」
ハルが叫ぶと、結晶は眩く青白い光を放ち輝き出した。
「ハル...!」
「ハルちゃん、どうして...!?」
「...ごめん、みんな。だけど私は、戦う事を選ぶよ。」
ハルが微笑むと、結晶は輝きを止めた。
(これで私もユニークスキルを手に入れた。スキルは手に入ると自動的にその力の詳細を知る事ができると聞いているけど... 今はじっくりと自分の能力を分析している時間は無い。何とかブラックレイジの攻撃をかわしながら、突破口を探すんだ!)
ハルは、身を構えて再び巨大な黒竜の顔を見上げた。
『チ、カラ... キサマ、ノ... ミセテミロ.....!』
すると、黒竜は口を開き唸るような声でそう言った。
「なっ...!?ブラックレイジ、こいつは人間の言葉が話せるの...!?」
(今こいつは、私に力を見せろと言った... やっぱり、私達のスキルを試そうとしているんだ。何が目的なのかは分からないけど、スキルを使う隙を与えてくれるのなら、ありがたく使わせてもらうよ!)
ハルは、自分の脳に体の全神経を注いだ。
「さぁ、私のスキルを教えて――!!」
――ブゥンッ
「――!!」
すると、ハルの前に突然青白い透明の画面の様な物が現れた。
「これがステータス画面――!よし、これで私のユニークスキルが見れる!」
開かれたその画面には、大きな文字でこう書かれていた。
――――――――――――――――――――――
名前:ハル・ホワイトリリィ
レベル:15
性別:女
年齢:13歳
職業:無し
基礎能力:
HP・300
力・25
防御力・22
素早さ・35
ユニークスキル:『神秘の魂』(スキルレベル1)
自らの肉体に異界の魂を一つだけ憑依させる事が出来る。また、その魂と意思疎通と取り、本体の知識の共有も可能。
――――――――――――――――――――――
「.....」
自分のステータスを見て、ハルは呆然と地面に崩れ落ちた。
「そんな... こんな力で、どうやってブラックレイジを倒せと言うの...?」
ハルが獲得したそのスキル、神秘の魂は、とても人類が恐怖し挑戦を諦めた無敗の黒龍の首を狩れる様なものでは無かった。
『キサマ、モ... ダメ、ダナ.....』
そう唸ると、黒龍はその巨大な剣の様な爪の並んだ拳を振り上げた。
「ハルちゃん!!逃げて...!!!」
「ハル...!!」
少女達の必死な声も、自身の弱さに絶望したハルには届かなかった。
――ドンッ!!
鋭い音が部屋に響いたかと思うと、ハルの身体は一瞬で巨大な部屋の奥へと吹き飛んで行ってしまった。
「――ッ!!」
視界の左上に見える体力ゲージも見る見るうちに減り、薄れゆく意識の中で、ハルは最後の力を振り絞った。
(い、嫌だ... こんな所じゃ、終われない...ッ!!)
地面に激突する直前に、ハルの思いに答えるように彼女の身体が一瞬光り輝いた。
――ドスッ
地面を打つその音と共に、ハルの意識は途切れた。
「そ、そんな... ハルちゃん...」
『グルルゥ...』
すると黒龍ブラックレイジは、残りの3人の子供達の方へと振り返り牙をむいた。
「ク、クソッ...!このバケモンが――!」
歯を食いしばり、少年カイルは頭から血と汗を流しながらも、力を振り絞って立ち上がった。
「カイル!ダメだ、その怪我じゃ...!」
「んな事言っても、ここで戦わなきゃ全員殺されてゲームオーバーだろうが...!俺達を守ろうとしてくれたハルの為にも、俺は戦うぜ...!!」
カイルが右手を開き力を込めると、その中に突然一本の炎の様に赤い剣が現れた。
「俺のユニークスキル、『戦士の剣』だ... さっきは力が発現したばかりでボコされたが、二度も同じ結果にはさせねぇぞ...!」
少年が大きく目を見開きそう言うと、彼は剣の刃を輝かせながら黒龍に向かって斬りかかった。
「くたばれよ、クソッタレが――ッ!!」
カイルが力いっぱい剣を振ると、その斬撃と共に燃え上がる業火が黒龍の身体を襲った。
『グワアァァッッ!!!』
黒龍の低い咆哮が辺りに鳴り響いた。
「き、効いてる...!?すごいよカイル!」
希望の見えた表情をしていたルイスとモニカとは違い、カイルの表情は暗く沈んでいた。
「い、いや、違う... 確かに俺の攻撃はヤツにダメージを与えた。だが、まさかそんな事ができるなんてっ.....!」
震える声でそう言うと、カイルは突然口から血を吐き地面に倒れた。
「カイル!!」
力無く横たわる彼の横には、真っ二つに折れた赤い剣か無残に突き刺さっていた。
「まさか、あの攻撃の一瞬でカイルに反撃し、武器の剣まで折ったって言うの...!?そんな、このままじゃカイルまで...!」
『ガルルゥ.....!!』
黒龍は再び拳を上げ、横たわるカイルに爪を向けて勢いよく振り下ろした。
「クソッ...!体が1ミリも動かねぇ.....!」
「そんな... カイル――!!」
「――『CrazyNoisy』、俺の時間だ。」
「――!!」
――バシュンッ!
『グオオオオォォォァァッッ!!!』
謎の声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には突然黒龍の腕が吹き飛び、更に大きな咆哮が空間を揺らした。
「な――ッ!?な、何が起こったんだ...!?」
「あいつの腕が一瞬で...!」
子供達が唖然とした顔で痛みに苦しむ黒龍を見ていると、雷の様な音と共に彼らの目の前に一人の見覚えのある姿の少女が現れた。
その少女はハルに瓜二つの姿をしていたが、その右目は金色に輝き、髪には所々に稲妻の様な模様が刻まれていた。そしてその身体の周りには、青白く鋭い電気の様なものを帯びている。
「ハ、ハルちゃん...!?いや、あなたは一体.....!?」
子供達の質問に、彼女... いや、『彼』は戦意の漲った笑顔で答えた。
「もう安心しろ、お前ら.....
―――黒龍は、このダイム・チャンプが倒す――!!」
― 続く ―