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174. 黒幕卿曰く③

 たくさんの評価と感想といいねを頂きました。(*´▽`人)

 拙作をお読みになってくださった皆様、誠にありがとうございます。(o_ _)o

 これからも拙作をどうぞよろしくお願い致します。m(_ _)m

「先程の話で一つ、気になった点があります」


 俺の描いたシナリオが達成した三つの狙いについて語り終えると、オルガは思い出したように問うた。


「あなたは『サムの罪を晴らす()()()は、最初から用意している』と言っていましたが、それはどのようなものだったのですか?」


 ああ、さっき言いよどんでいたのはこれのことか。

 何のことはない。


「『凶器のナイフ』だよ。それを使って敵勢力を貶めることで、サムの無実を証明したんだ」


 結論が飛びすぎたのか、それとも俺の使った方法が古典的過ぎたのか、オルガはパチクリと目を瞬かせた。


「サムとミモリーが路地裏で発見したあの包帯男(原作者)の死体だけど……実はあれ、元は俺が拷問したギャングの死体で、魔法で外見を適当に弄ったものなんだよね」

「……架空の人物の死体をどうやって用意したのかと思えば、そういう由来でしたか」

「それが一番手っ取り早かったからね。わざと死体にユニーク品であるナイフを残したのも、一目で暗殺って分かるような死に方にしたのも、全部偽装の一環だよ。こうすることで、『ユニーク品である凶器(暗殺用ナイフ)と同じものを持っている人間こそが真犯人』っていう風に人々に印象づけることが出来るだろう? 後で同じナイフを敵勢力の誰かに仕込めば、簡単に罪を着せることが出来るって寸法さ」

「……き、汚い……!」


 ちょっとオルガさん?

 その「恐ろしい子……!」みたいな顔、やめて?

 我ながらやり方が汚いって、ちゃんと分かってるから。


「……まぁ、サムとミモリーの容疑は、状況証拠だけで成り立っているようなものだからね。物的証拠が何もない以上、それを持っている第三者が現れれば容疑は自ずとそちらに移り、二人の容疑は自動的に晴れるってわけだ」

「それで、その『容疑を移す第三者』に工作部隊(ダヴたち)を選んだわけですか」

「いかにも暗殺とかやりそうだろ、あいつら?」

「確かに」


 というわけで──


 ダヴ、キミにきめた!

 こうさくぶたいは おとしめられた。

 こうかは ばつぐんだ!


「では、最後の決戦でクラリッサを襲ったあの避役(カメレオン)という工作員も?」

「お前の予想通り、俺の仕込みだよ」

「……しかし、敵である彼を一体どうやって『仕込んだ』のですか?」

「アルバーノたちが現れた時、あいつらが一時撤退したことは前に話したろ? そのタイミングで、こっそりとカメレオンだけを始末したんだよ。で、その死体を《遠隔操作(リモートコントロール)》っていう魔法で操作したんだ」

「死体を操る魔法ですか……なんだかおどろおどろしいですね」

「別に怖い魔法じゃないぞ? もともとは人形とか鉱石とかの無機物を動かす魔法だからな。引っ越しとかに超便利だぞ」


 俺の説明に、オルガの表情が「怖がって損しました」みたいな呆れたものなる。


「欠点は、有機物の操作にはあまり向いていないところかな。今回みたいに人間の死体みたいな有機物の塊を動かそうとすると、どうしても動きがぎこちなくなっちゃうんだよ」

「なら、何故その魔法を使ったのですか?」

「動作ごとに断片的な魔力を送るだけである程度動かせるから、魔力バレしにくいんだよ」

「ああ、アレンたちのような魔力に敏感な者を警戒したのですか」

「そゆこと」


 正直、カメレオンの動きがぎこちなさ過ぎて、見ている人たちに不審がられないかハラハラしたよ。


「ついでに言うと、クラリッサを派手に人質に取ったのは、その場に居た人たちの注目を引くため。クラリッサを殺そうとしたのは、カメレオンに持たせた凶器(暗殺用ナイフ)と同じナイフをしっかりと全員に見せびらかすためだな」

「全ては人々の視線を誘導し、状況を誤認させ、思考そのものをあなたの望む方へと導くための演出、というわけですか」

「その通り」

「なんだかまるで手品師のような手法ですね」

「魔法使いなんてそんなもんさ」


 手品なんて、まんま魔法を真似て生まれたものだからね。

 魔法使い同士の戦いだって騙しハッタリは常套手段だし、ルールがあるゲームじゃない限り何やったって正義なのさ。


「で、戦いが終わった後、みんなの視線が駆けつけてくる騎士たちに向いた隙きを狙って、コッソリと工作員たちの死体全てに同じナイフ仕込んだんだ。まるでその特徴的なナイフが彼らの標準装備であるかのように偽装して、ね」


 その結果、駆けつけた騎士たちは工作員たちの死体から凶器(暗殺用ナイフ)と同じものを大量に発見し、彼ら工作部隊こそが包帯男(原作者)殺害の真犯人であると確信(誤認)してくれた。

 そして、現場に居合わせたカイルソンの弁舌も相まって、サムとミモリーの無実はほぼ証明されたも同然となった。……まぁ、最終的な決定打は領主の鶴の一声だったのだが、ともあれ、二人の容疑は無事に晴れることとなった。

 そしてそれに伴い、この包帯男(原作者)殺害事件の真相も、無事に有耶無耶となったのだった。

 計画通り。ニヤリ(4回目)


「なるほど。たとえナイフが本当は彼らのものでなくとも、全滅してしまえばそれを訴える人間も居なくなるので、仕組まれた状況がそのまま事実となる……まさに『死人に口なし』ですね。やり方が素晴らしく姑息で、称賛に値するほど悪辣です」

「お前それ、絶対褒めてないだろ……」

「褒めていますよ? 動機は十分で、物証も揃っていて、おまけに現行犯。強権や人脈を使わずにここまで綺麗に無実の罪を着せるなど、あなたにしか出来ないことでしょう。その発想力と手腕に脱帽です」

「ぐぬぬ……」


 自分でも自分が影から人を操って悦に入る安っぽい黒幕そのものだって分かってるから、なんとも反論し辛い。

 けれど、これで良いのだ。

 保身こそ我が絶対正義、平穏こそ我が至上命題。

 正面から正々堂々と〜なんてのは、ラノベの主人公にでも任せておけばいい。

 俺は俺らしく、何処までも姑息に汚くやるのだ。

 保身と平穏は同じところにある。我らの願いは既に叶った。良い、全てはこれで良い。平穏の補完。安らかな生活の維持を願う。(電源オフ)



「いやそれにしても、身を挺してクラリッサの盾になってくれたグレタは凄いよね」

「はい。あのような状況であのような行動に出られた彼女は、かなりの勇気の持ち主でしょう。たとえ怪我がすぐに治ると分かっていても、普通は恐怖心が勝って身体が動かないはずです」


 一般論を語っているとは思えない程しみじみとした口調でそう言ったオルガの顔には、グレタへの尊敬の念が現れていた。

 恐らくはオルガの経験談だろう。タナト・アラフニと対面したときのオルガ、震えて動けなかったからね。


 俺もオルガとは同意見だ。

 俺みたいに訓練を積んで痛みへの忌避感を麻痺させた人間ならまだしも、高校1〜2年生くらいの歳の少女が咄嗟に身を挺して誰かを守れるなんて、なかなかに出来ないことだ。

 道徳心からなのか、それとも友情からなのかは分からないが、その意思と行動は正しく尊敬に値するだろう。


「グレタのあの勇気ある行動には、俺も結構救われたよ」

「と言いますと?」

「カメレオンの死体を使ってクラリッサを人質に取った時だな。彼女を殺すような動きをすることにはなっていたけど、まさか本当に傷つけるわけにはいかないだろ? だから当初の予定では、カメレオンがナイフを振り下ろした瞬間、クラリッサがもがいて脱出したように見せかけて、彼女を安全圏まで突き放すことになっていたんだよ」

「それだと、カメレオンに最初からクラリッサを殺す気などなかったことが皆にバレませんか?」

「そうなんだよ。それは、俺も危惧していたことでね」


 あの場には動体視力に優れていた者も、観察眼に優れた敏い者もいた。

 カメレオンの一挙手一投足をじっくりと観察していられるような状況ではなかったとはいえ、バレるリスクは決して低くはないだろう。


「だから、あの『グレタ・バリア』には、本当に感謝しているんだよ。あれのお陰で、すごく自然な感じでクラリッサをカメレオンから引き離すことが出来たからね」

「『グレタ・バリア』……せめて『捨て身の救出』と言ってあげてください」


 グレタを擁護するオルガさんは、ちょっと呆れた顔をしていた。

 ごめんごめん、そこを気にするとは思わなかったよ。


「グレタもだけど、フロントタックルでカメレオンを押し倒してくれたオリーさんにも感謝だな」


 首を傾げるオルガに、俺は予定していたシナリオを話す。


「実は当初、カメレオンは『クラリッサを刺そうとしたけど脱出されたことで失敗してしまい、そのまま自分が振り下ろしたナイフで自分の胸を刺し貫いて死んでしまう』っていう流れにする予定だったんだ」

「それは、随分と滑稽……もとい強引なシナリオですね」


 いやもう「滑稽」ってはっきり言っちゃってんじゃん。

 まぁ、否定はしないけど。


「カメレオンを死なせる良い方法が他になかったんだよ」

「あのイサンドロという護衛に任せればよかったのでは?」

「確かにイサンドロさんの存在は、シナリオ内で『臨時投入キャスト』枠で織り込み済みだったけど、彼にカメレオンを殺らせるわけにはいかないんだよ」

「なにか問題が?」

「彼は戦闘のプロだよ? カメレオンと近くで戦ったりなんかしたら、カメレオンが既に死んでいるリモート死体だってバレちゃうよ」


 それはヘレンさんも同じで、決して近くでカメレオンを彼女に見せてはいけなかった。


「つまり、人々がカメレオンをしっかりと観察する前にカメレオンを退場させる必要があった、というわけですか」

「そう」


 イサンドロさんやヘレンさん達とは違い、オリーさんは戦闘の素人だから、カメレオンがリモート死体だと見破られるリスクが低い。

 その点で言えば、まさに最適な人物による最高のアドリブだと言えるだろう。


「だから、オリーさんのあのタックルには本当に感謝しているんだよ。あれのお陰で、凄く自然な流れでカメレオンを死なせることが出来たからね」


 演出効果としては100点満点だ。


「まぁ、感謝するのと同時に、ちょっと冷も汗かいたけどね」

「何か不測の事態が?」

「実を言うと、グレタとカーラに掛けたあの自動的に怪我を治す魔法(呪い)……《魔女が与える鉄鎚》っていう7次元魔法の中の《偽聖逆審の拷印》って種類なんだけど……あれ、本当は脅し9割・保険1割のつもりだったんだ」

「と、ということは……」

「まさか保険1割の方が役に立つとはね。しかも、二人合わせて3回も」


 いやぁ、予想外に役に立っちゃったよ、あの呪い。

 ……マジで残しといてよかった。(ボソッ)


「ナイン…………」


 あ、オルガさんの視線、めっちゃキツい。

 かなりグレタやカーラに肩入れしているなぁ、オルガさん……。

 まぁ、気持ちは分かるし、実際に俺のせいで二人を何回も死ぬような目に遭わせたわけだし、ここは素直に反省しておこう。

 ごめんね、二人とも。



「でも、こうしてみると、あのお色気ギルマスにも感謝しなきゃいけないな」

「冒険者ギルドのギルドマスターですか?」

「ああ。最後の最後で、サムたちを自爆特攻から救ってくれたからな」


 実を言うと、あの自爆特攻は、ダヴたちを盗聴していたから最初から知っていた。

 それでもサムたちに危険が迫る前に特攻隊委員をコッソリと消し去らなかったのは、ダヴに感づかれたくなかったからだ。

 奴は表に一切顔を出さない裏方で、工作部隊の隊長だ。誰か監視を置いて特攻の結果を見届けさせるのは必然。特攻が敢行される前に特攻隊員が不自然に消えたりしたら、奴はきっと状況を怪しんで身を隠すだろう。

 そうなったら、流石に面倒臭い。

 俺は、サム達の行動(シナリオの進捗状況)の注視だけでなく、各勢力の動向も同時に監視しているのだ。レシピのことが一段落しないことには、ダヴの方に労力を割くことは出来ない。

 だから、自爆特攻隊員のビーは、見逃す必要があった。


 ただ、彼にそのまま自爆させるわけにはいかない。


「一応、安全策は取ってたんだけど、どうしても不安要素が残っちゃうんだよ」

「といいますと?」

「『ディス()クリッ()バの呪()贄短刀()』の構成式にちょっと細工をしていてね。信管に当たる部分だけを壊して、最後の爆発だけ機能しないようにしたんだ。はたから見れば、不良品を掴まされたみたいな感じかな」

「それの何処に不安要素があるのですか?」

「後になって『ディス()クリッ()バの呪()贄短刀()』を調べられたら困るんだよ。分かる人間が見ると、明らかに不自然な改ざん跡があるって分かっちゃうからね」


 それで領主にヌフ(黒幕)の存在を感づかれたら、俺にとっては不都合でしかない。


「だから、あのお色気ギルマスが代わりにビーを始末してくれて助かったよ。お陰で、とても自然な形で『ディス()クリッ()バの呪()贄短刀()』を消すことができた」

「……彼女は、意外と評価と扱いが難しい人物ですね」

「まぁね。あのお色気ギルマス、ナインっていう俺の本当の身分を知っているし、勘も鋭くて目もいいから、かなり厄介な人物なんだけど、俺の知らないところで冒険者達に箝口令を敷いてくれていたり、こうして思わぬところでサムたちを助けたりしてくれるから、一概に邪魔だとも言えないんだよねぇ……」


 まぁ、頭が切れる人間であればあるほどコントロールが難しいから、俺程度の悪知恵では彼女を御することは出来ないだろう。

 素直に敵わないと思わせる人物である。


 答え合わせ回の続きのつづきです。

 長いので更に更に分割しました。

 (¯ω¯*)今回は程よい文章量になれたんじゃないかな?(尺稼ぎ)

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