147. NP:Great but dangerous journey
――――― Side: 01 & 02 & 03 ―――――
ニの鐘が鳴り終わった頃。
朝日を背に、一台の箱馬車が貴族街を離れた。
二頭の「バーリーホース」が引くその馬車は、全体が上品な黒塗りで、豪奢さはないものの作りが丁寧で、落ち着いた優雅さがある。
馬車本体の側面には銀色の紋章が描かれており、意匠は「交差する羽ペンと羊皮紙を背景にした、オイルリーブの枝」。
見る人が見ればひと目で分かる、これはファルマス法衣子爵家の紋章だ。
御者席には鎧を着た筋骨隆々の男が座っており、鋭い視線で周囲を警戒している。
貴族街の東門から出た馬車は、道幅の広い東メイン通りに沿って静かに東へと向かう。
目的地は、薬師ギルドだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
箱馬車の中は、静かな緊張感に包まれていた。
聞こえるのは、石畳を踏むバーリーホースの蹄音と、石畳を転がる車輪音のみ。
出発してこの方、ずっとこんな感じである。
「あ、あの……」
静寂と緊張に耐えかねたのか、サムが恐る恐る対面に座る人物──この馬車の中に漂う緊張感の原因となった人間──に声をかけた。
「なにかね?」
声をかけられた人物は、落ち着いた様子でサムにそう応じた。
「あ、その……ど、どうして法衣子爵様が一緒にいるのかな〜と思いまして、はい……」
「もちろん、娘のためだとも」
尻すぼみになっていくサムの言葉に、ファルマス法衣子爵家当主カイルソン・ファルマス・ド=ローブネスはさも当然のように答えた。
今、この馬車には6人が搭乗している。
三人がけの後部座席は、中央にクラリッサが座り、その左右をカイルソンとオリーが挟んでいる。向かい合わせになっている前部座席では、グレタがクラリッサの向かいに座っており、ヘレンがオリーの対面に座っている。そうなると、残った座席に座ったサムは自然とカイルソンと対座することになる。
天真爛漫なクラリッサとは仲良くなれたサムだが、流石に貴族家の当主であるカイルソンとは無理である。打ち解けるどころか、話しかけることすら恐れ多い。
そのせいで、サムは緊張のあまり胃に穴が空きそうになっていた。
「君たちは薬師ギルドに行くそうじゃないか。それで、娘も一緒に連れて行く必要があると。そうクラリッサに聞いたよ」
「そ、その通りです」
「その道中で、サム君とグレタ嬢を追っている勢力からの襲撃があるかもしれないそうだね」
「は、はい。その可能性があるのは確かです」
「ならば、私が同行しない道理はないというものだよ、サム君」
まるで「塩は塩っぱい」くらい当然な口調で、カイルソンが言う。
「で、ですが、法衣子爵様の身に何かあっては……」
「私はね、法衣子爵である前に一人の父親なのだよ。今回の件では、娘のためであれば何でもすると決めているのだ。そんな私が同行しないでどうする?」
「お父様……」
目を潤ませるクラリッサの頭を、カイルソンが愛おしそうに撫でる。
「それにな、サム君。私のような貴族が一緒であれば、相手も多少は躊躇いというものが出てくるかもしれない。貴族を害することは重罪だからね。個人的にはあまり好まないが、所謂『権威の盾』というものだよ。戦闘ができない私でも、役に立てるだろう?」
自らを危険に晒すことも厭わないカイルソンに、サムは尊敬の眼差しを向ける。
貴族とは安全な場所に居座ってあれこれ口出ししてくるだけのいけ好かない連中、というイメージがあったが、父親として娘のために身体を張るカイルソンを見て、貴族に対する偏見が少しばかり改まった気がする。
まともな貴族……いや、かっこいい貴族もいるのだ、と思えるようになったのだ。
「それに、イサンドロも連れてきている」
カイルソンが言うと、御者をしている鎧姿の男──イサンドロが片手を挙げて応じた。
筋骨隆々で獰猛そうな顔の中年男性だ。中々の武芸者と思われる。
「イサンドロは私の専属護衛でね。ヘレンと同じく腕利きで、冒険者でいえばランク5を超える。ヘレンの実力を低く見ている訳ではないが、戦力は多いに越したことはないであろう?」
カイルソンの言葉に、ヘレンは無言で頭を下げる。
クラリッサを第一に考えるヘレンにとっても、戦力は多ければ多いほどいい。カイルソンの考えはヘレンも賛成するところだし、それを自分への侮辱と取るほど彼女は心が狭くない。寧ろ、ファルマス家の最大戦力であるイサンドロを連れてきてくれたカイルソンには感謝しか無い。
「何より、サム君には今、殺人容疑がかかっている。私が一緒にいれば、ある程度は身の保証になるだろう。いきなり衛兵を呼ばれて連行される、などということが起こらなくなるはずだ」
色々と役に立つだろう? と微笑みかけてくるカイルソンに、サムは「ありがとうございます」と頭を下げる。
本心では、それでもカイルソンの身になにか起きたときのデメリットが大きいと思っているのだが、ここまでしてくれる相手に「やっぱり付いて来ない方がいいと思う」などと面と向かって言う勇気はない。特に、相手が貴族の場合は、口が裂けても言えない。
何より、カイルソンが付いてくる最大の動機は、娘への関心だ。それを他人でしかない自分がとやかく言うことは出来ない。
だから、サムは素直に感謝だけを口にした。心から感謝しているのは事実だから。
ちなみに、グレタはずっと窓の外を眺めることで現実逃避していた。
まだまだ貴族が心の底から苦手らしい。
ガタゴトと箱馬車の車輪が東メイン通りの石畳を踏む。
まだ朝早い時間ゆえか、行き交う人の数はそう多くなく、ほとんどが仕事場へ向かう商会の職員か工房の職人見習いだ。
後ろを振り返っても貴族街の城壁が見えなくなった頃。
それは、唐突に起きた。
ヒヒーン!
箱馬車を引いていたバーリーホースの一頭が突如、悲痛な嘶きを発し、脚を縺れさせながら地面に突っ伏したのだ。
「ぐっ、クッソ!」
御者をしていたイサンドロがなんとか馬車を安定させようとするが、前方を走る駄獣が倒れたせいで、完全に制御が不能となってしまった。
バランスを崩した箱馬車はそのままスリップし、横転する。
「旦那、お嬢、無事ですかい!?」
咄嗟に飛び降りたイサンドロが、横転したせいで上向きになった馬車の扉に飛びつき、カイルソンたちの安否を確認する。
ただ、いきなり扉を開くなどという迂闊なことはせず、扉越しに尋ねるにとどめた。
なぜなら、この横転の原因は──
「襲撃でさぁ!」
イサンドロの警告を聞きながら、カイルソンはざっと馬車内を確認する。
クラリッサは、オリーとヘレンが挟むように抱きしめていたおかげで無傷。若干目を回しているみたいだが、身体に影響はない。
自らの身体をクッションとしたオリーとヘレンも、肩や背中を打ってはいるが、怪我らしい怪我はない。
サムは突然のことに反応出来なかったのか、顔をモロに天井に打ち付けたらしく、今は顔を押さえながら悶絶している。鼻血すら出ていないし、問題は無いだろう。
グレタは咄嗟に両腕で頭をかばったらしく、痩せ細っていて体重が軽いことも幸いしたのか、怪我は皆無。今はクラリッサのことを気にかけながら、悶絶しているサムの介抱をしている。
最後に自分を確認するが、右肩と腰が痛い。軽い打撲なので気にする必要はないが、もしかしたらこの中で一番ダメージを受けているかもしれないことになんとなく年波が寄ってくる気配を感じ、僅かに切なくなった。
「こちらは全員無事だ! 外の方はどうなっている!?」
イサンドロに聞くと、
「敵の中に弓使いが居やす! それで馬がやられやした! 旦那たちはそのまま馬車の中に隠れといて下せぇ!」
「わかった! 後は頼んだぞ、イサンドロ!」
敵に弓使いが居るのであれば、迂闊に馬車を出たらいい的になってしまう。
後は経験豊富なイサンドロに任せ、自分たちは馬車を盾にしつつ邪魔にならないようじっとしているのがベストだろう。
「ま、まさか、僕たちの居場所がバレてたなんて……」
鼻を押さえながら暗い表情で呟くサム。
カイルソンも思わず苦い顔になった。
ファルマス家の馬車が襲撃されたという事実、そしてそれが起きたタイミングを考えれば、敵の標的は間違いなくサムだろう。
そして、こうもピンポイントで狙われたということは、こちらにサムが居ることが完全にバレているということ。
「やはり、トーア法衣男爵か」
夜な夜な探りに来た男の顔を思い出し、カイルソンは忌々しそうに顔を顰めた。
道程での襲撃は、無いものと想定していた。
サムの言によると、貴族街に入ったあの日、門衛の騎士に先導されてファルマス家に着くまで、貴族らしき人間とは一度もすれ違わなかったという。
姿を見られたのは、せいぜいが他家の門衛か、用事を言いつけられたメイドや下男くらいで、多くても3〜4人程度らしい。
貴族街とは、なかなかに閉鎖的な場所だ。住んでいる人間が要人ばかりということもあり、貴族街内の情報は外に漏れにくい。その中で殆ど誰にも目撃されなかったのならば、敵に情報が伝わる可能性は低いだろう。
サムの証言と貴族街の特性と貴族家同士の横の繋がりを加味した結果、カイルソンは「敵勢力はサムたちがファルマス家によって匿われていることを知らない」と結論づけたのだ。
その最大の根拠となったのが、実はトーア法衣男爵の来訪だったりする。
サムを迎え入れてからというもの、カイルソンの屋敷を尋ねてきたのはトーア法衣男爵だけだった。
アポ無しの訪問も常識はずれだが、対応したメイド長によれば、奴は見え透いたカマかけまで繰り出していたらしく、あからさまにサムたちのことを探っていたという。
奴が何者か──十中八九サムたちを付け狙う敵対勢力だろう──の手先として動いていることは明白。
だが、逆に言えば、それは敵勢力がサムたちの居場所を特定できていないという証拠でもある。知っていれば、わざわざ探りに来る必要などないからだ。
敵からすればトーアの馬鹿に状況暴露されたわけだが、こちらとしては実にありがたい。
そんなわけで、カイルソンは「ファルマス家にサムたちが逃げ込んだことを敵は知らない」ということを前提に、サムたちの身を隠し通す策を練った。
その策とは実にシンプルで、ファルマス家はこれまで通り無関係を装い、裏でコッソリとサムたちを馬車に乗せ、薬師ギルドまで送り届ける、というもの。
そのために人気のない早朝をチョイスして出発したし、窓にもカーテンをして中が見えないようにした。
隠密行動とまでは言わないが、十分「貴族の朝早い外遊」で通じるだろう。
怪しまれる要素など無かったはずだ。
だと言うのに、襲撃された。
どうやったのかは分からないが、敵はサムたちがファルマス家に匿われていることを確信している。でなければ、貴族の馬車に襲撃を仕掛けるなどという恐れ多いことこの上ない愚行をやらかすはずがない。
「ワイバーンは腐ってもドラゴン、ということか……」
考えられるのは、トーア法衣男爵に見破られたという可能性。
メイド長の対応は完璧だったし、屋敷の中も全ていつも通りを徹底させた。
考えたくはないが、見破られるような襤褸が何某か当家にはあったのだろう。
愚か者だと思っていたが、嫌なところで頭が働く。
「目立たないようにしていたのが裏目に出たな、これは……」
目立たないように、そして不自然にならないように配慮した結果、カイルソンたちが連れてきた護衛はヘレンとイサンドロだけとなった。
最初は貴族街の門衛をしている騎士たちに護衛を頼もうとしたが、すぐに考え直した。
彼らの仕事は貴族街全体の守護であって、一個人の護衛ではない。貴族街の中でのトラブルならばまだしも、貴族に頼まれたからといって貴族街の外まで付いていくことは、基本的には出来ないのだ。
彼らを動かしたいのであれば、彼らの主であるエスト卿に許可を取らなければならないが、それだと本末転倒だ。
衛兵隊を呼びつけて護衛代わりにするという手段もあるが、それも却下した。
カイルソンがサムの身元を保証していると言えば聞こえはいいが、やっている事の実態は身分を盾にした司法捜査の妨害ないし司法への介入だ。
おまけに、介入しているのは程度の低い軽犯罪などではなく重罪確定の殺人事件で、庇おうとしているのはその第一容疑者ときている。「事件にファルマス法衣子爵が関与していた可能性がある」などと要らぬ勘ぐりを向けられる可能性は極めて高い。
衛兵隊としても、貴族からの横槍は歓迎しないだろう。
表面上は唯々諾々とカイルソンに従うだろうが、何かあった場合の責任を逃れるためにカイルソンよりも上の人間──この場合は間違いなくエスト卿になる──に許可を求めるのは目に見えている。そうなったらやはり本末転倒だ。
冒険者や傭兵に護衛依頼を出すという方法もあるにはあるが、それだと敵に懐を晒すことになりかねない。依頼を受けた冒険者を装って刺客がやってきたら一巻の終わりだ。
馴染みの冒険者でもいれば話は別だが、残念ながら文官であるカイルソンは冒険者を雇う経験が殆ど無く、故にそういった信頼できる冒険者に知り合いはいない。
よって、外部戦力を頼りにするのは賢い選択ではないと判断した。
何より、隠密性とナチュラルさを考慮すれば、大名行列のように大人数を引き連れるのは憚られる。
結果、自前の戦力でなんとかするしかなかった。
ファルマス家で雇っている護衛は、ヘレンを含めて全部で5名しかいない。
彼らは普段、ファルマス一家(当主夫妻・長男・長女・次女の計5名)の専属護衛を各々で担当しており、屋敷の警備も兼任している。
セキュリティが物足りないように感じるかもしれないが、ファルマス家の経済事情を鑑みればこれ以上護衛を増やすことは負担であり、信頼関係という点でも現実的ではない。
よって、普通に外出するにしても、一対一の護衛が基本となる。これは他の法衣貴族でも同じだ。
今回の件も、屋敷の安全と移動の隠密性を考えれば、連れて来られる戦力はヘレンとイサンドロだけだった。
なので、戦力不足は承知で、賭けも同然に屋敷を発った。
が、「敵はサムがどこに居るのか知らない」というカイルソンの前提は見事に外れ、こうして襲撃されてしまっている。
立案者であるカイルソンが苦い顔になるのも無理からぬ事だった。
「旦那様、お嬢様」
いつもの鎧をいつも通り身に付けたヘレンが立ち上がる。
「私も出ます。皆様は、ここで」
この狭い馬車の中では、剣を振るうことすらできない。彼女の戦闘力を存分に活かすには、馬車の外でイサンドロと共に戦うことが望ましい。
「うむ。存分に戦ってくるといい」
「気をつけてね、ヘレン」
カイルソンが許可を出し、クラリッサが応援する。
剣を提げたヘレンは、安心させるようにクラリッサへ微笑んでから、横転したせいで天窓のようになった馬車の扉から飛び出して行った。
外に出ると、逃げ惑う人々の姿がヘレンの目に飛び込んできた。
危険な状況から少しでも離れようと、殆どの人々が逃げ去り、もしくは隠れたりしている。中には野次馬的にこの重大な馬車事故を見物しようとしていた者もいたが、事故を起こしたのが貴族の馬車だと分かると、とばっちりが怖いのか一目散に逃げ去っていった。
横転した馬車のすぐ横では苦しそうに嘶くバーリーホースが横たわっており、それを心配するようにもう片方のバーリーホースが寄り添っていた。倒れたバーリーホースの首元には、太い矢が刺さっていた。
「敵は?」
周囲を警戒しながら問うヘレンに、イサンドロが答える。
「パッと見では、弓が1に剣が4だな。そこら辺の曲がり角にもう一人二人隠れてるかもしれねぇが、気配は感じねぇ」
「魔法師は?」
一番警戒すべき相手の有無を尋ねる。
クラリッサたちが隠れた馬車は決して高級とは言えないが、腐っても貴族家が使うものだ。それなりの防御力を有しており、矢や投げナイフなどの飛び道具ならば盾として十分機能し、低出力の魔法道具による攻撃もある程度までなら防ぐことが出来る。
だが、魔法師による攻撃魔法となると確言しかねる。
それこそ、火系の魔法を撃たれれば、中にいる人間もろとも燃えてしまう。
魔法師がいれば、真っ先に潰しておくべきだろう。
「分からん。それらしい奴は見えねぇ。
初手で魔法をぶっ放してこねぇところを見ると、居ねぇ公算がでけぇだろうが……相手の狙いが客人の坊っちゃんと嬢ちゃんの誘拐なら、使わねぇのも道理だ」
可能性だけで会話してもしょうがない。
それらしい相手が姿を表すまで、ヘレンたちは防御するしか無い。
「ならば、私が攻めます。イサンドロ殿は馬車の防御を」
「わかったぜ」
そう言って、ヘレンは剣を携えて前へと躍り出し、イサンドロは小盾と剣を構えながら後方へと下がる。
見れば、屋根の上では一人の黒尽くめが、三角形の屋根の向こう側に隠れながらこちらに向かって弓を構えている。こいつが馬を射た人間だろう。
広い東メイン通りの左右では、剣を構えた黒ずくめが建物の路地と曲がり角から出てきていた。前方に2人、後ろに2人、こちらを囲うように展開している。
一触即発。
ヘレンは集中し、衝突の時を伺う。
──が、その集中はすぐに乱された。
「うわぁぁぁぁぁん! ママぁぁぁぁぁ!」
「────ッ!?」
直ぐ側の曲がり角から、一人の男の子が泣きながら歩き出てきたのだ。
親とはぐれたのか、それとも大きな音にびっくりしたのか、ギャン泣きしながらフラフラとヘレンたちの方に向かって彷徨うように近づいてくる。
「下がれ、坊や! ここは危ない!」
ヘレンが警告するも、男の子はその声に驚いたのか、更に大きな声で泣き始めた。
両手の甲で目をゴシゴシと擦りながら、よたよたと覚束ない足取りでこちらに向かって歩いて来る。
どうしようか、とヘレンが迷う。
「ヘレンさん危ない!」
横向きに開かれた馬車の後部窓から顔を覗かせたサムが叫んだ。
「その男の子は────敵です!」
その言葉が聞こえたのと、男の子が地面を蹴ってこちらに突進して来たのは、同じタイミングだった。
「なにッ!?」
射られた矢のように高速で自分に向かってくる男の子に、ヘレンは咄嗟に剣を構える。
ガイィィィン!
突き出された男の子のストレートパンチを、ヘレンは辛うじて剣で受け止める。
が、幼い子どもに殴られたとは思えない衝撃が走り、ヘレンは1メートルほど後方に吹き飛ばされた。
着地しながら、ヘレンは男の子を睨みつける。
ワンワンと泣いていた筈の男の子の顔には、涙も無ければ恐怖もない。
代わりにあったのは、戦いを好む者の──獰猛な笑みだった。
「やるねぃ」
口が裂けたような笑みを浮かべる男の子。
声と外見こそ完全に子供のそれだが、その態度と身のこなしは子供のそれとは完全に別物。まさに子供の皮を被った別のナニカだ。
「貴様たち! 我々がファルマス法衣子爵家の者と知っての狼藉か!」
ガンガン殺気を飛ばしながら声を張り上げるヘレン。
「勿論、知ってるよねぃ」
が、返ってきたのは、男の子の涼し気な返答だった。
「貴族への攻撃は極刑に値する!」
「それも知ってるねぃ。常識だからねぃ」
まるで暖簾に腕押しのようなやり取り。
「ボクたちはそこに隠れているサムってポーション師に用があってねぃ」
馬車から顔を覗かせているサムを、男の子──のような見た目の刺客が指差す。
「まさか、自分から貴族街を出てくれるとは思わなかったよねぃ。貴族街で一騒動起こして拉致する計画だったんだけどねぃ、準備が無駄になったよねぃ。まぁ、こっちとしては有り難いんだけどねぃ」
「…………ッ!」
貴族街で騒動だの、拉致だの、かなり物騒なことを言う男児のような見た目の刺客に、サムが慄く。
「トーアの愚か者も、案外使えるよねぃ。夜な夜な大箱を抱えたメイドが屋敷に入っていくのをチラッと見ただけで、御宅にポーション師サムが隠れているって見破ったんだからねぇぃ。落ちぶれたとはいえ、伊達に貴族やってないよねぃ」
馬車の中で、オリーがギリリと歯噛みする音がした。
「どうかねぃ? そこのポーション師と、あと一緒に居るはずのスラム少女をこっちに渡してくれれば、ファルマス家には手を出さないけどねぃ?」
「はんッ!」
男の子の提案を、ヘレンは鼻で嗤う。
「冗談は背が伸びてからにしろ! サム殿とグレタ嬢は、我がファルマス家のお客人だ! 貴様たちに渡す義理などない!
それに、貴様たちは既に我らがファルマス家に仇なしている! ただで済むと思うな!」
「お硬いねぃ」
仕方ない、とばかりに肩を竦める男の子。
次の瞬間、
「ま、どっちにしろ、ポーション師サムがレシピを渡した可能性のある人間は全員抹殺しなきゃだから、やることは変わらないよねぃ」
醜悪な殺気が男の子から放たれた。
そろそろサブタイ考えるの辛くなってきた(;▽;)
作者の英語力がゴミなのが悔やまれる( ;∀;)
余談ですが、戦闘パートに入るに当たり、視点変更の関係で各話の長さがまちまちになる可能性があります。あまりにも短い話があるようでしたら事前に告知した上で連続投稿いたしますので、よろしくお願いいたします。
ついでに、よろしければ「いいね」や「評価」の方もよろしくお願いいたします。|ωΦ*)チラッ




