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145. S01&02&03:Trail of Crumbs

 ――――― Side: 01 & 02 & 03 ―――――




「やりましたわ!」


 飛び上がらんばかりに喜ぶクラリッサ。


「やったじゃない!」


 サムの背中をバシッと叩くグレタ。


「おめでとうございます、サミュエル様」

「これでレシピが解明できるな」


 静かに祝福するオリーと、勇ましい笑みを向けるヘレン。


「……ありがとうございます」


 俯きながら、感謝を口にするサム。

 その一言は、協力し、支えてくれた人たちに向けて。


「……ありがとうございます」


 そしてこの一言は、自分なんかに全てを託してくれた、今は亡き包帯の客に向けて。


 静かに涙を流すサムだったが、直ぐに目元を袖で拭い、顔を上げた。

 そこにあったのは、決意を秘めた薬師の顔だった。


「僕が解明してみせるよ、必ず……!」


 これこそが、創世の大女神のお導というものなのだろう。

 使命感を噛み締めながら、サムはそう宣言したのだった。






 半分ほど残っていた「コネリーの赤・改」を更に半分ほど消費して相関図の隅々まで塗りつけた結果、サムたちは遂に相関図に隠された新たな情報を呼び起こすことに成功した。


 新しく現れたのは──5つの小さなイラストだった。


 1つ目は、三角形の相関図の一番上の頂点。

 そこに書かれていた「フジク草/Mg」の横には、デフォルメされた砂山のイラストが浮かび上がっていた。


「これは……もしかして『苦塩』?」


 2つ目は、三角形の相関図の左下の角。

 そこに書かれていた「シディミ草/Fe」の横には、デフォルメされた魚のイラストが浮かび上がっていた。


「では、こちらは『小魚』ですわね」


 3つ目は、三角形の相関図の左下の角。

 そこに書かれていた「ダダイル草/Ca」の横には、デフォルメされた骨のイラストが浮かび上がっていた。


「これは、どう見ても骨ね。なら、きっと『骨粉』のことだわ」


 4つ目は、この三角形の図から少し離れたところ。

 これまで空白となっていたそこには、楕円形に近い菱形の物体のイラストと、そこから三角形の図に向かって伸びる矢印が浮かび上がっていた。


「この丸みを帯びた菱形の物体は……魔結晶でしょうか?」

「うむ、多分そうだと思うぞ、オリー。騎士団の訓練で魔物討伐をした事があるが、そのときに魔物の体内から抉り出した魔結晶が、確かこんな形をしていた」


 そして最後となる5つ目は、三角形の中心のすぐ上。

「フジク草/Mg」の下に書かれた「ニューマン」という謎文言の更に下には、デフォルメされた植物のイラストが浮かび上がっていた。



「これは……何だろう?」


 サムが全員の内心を代弁する様に呟く。


「ん〜、『苦塩』と『小魚』と『骨粉』と『魔結晶』は全部あるでしょ……?」


 悪い目つきを更に悪くして相関図を睨むグレタ。


「これでクラリッサお嬢様の紙包みと『コネリーの赤・改』の原料に共通点が有ることは確定したわけだけど……」


 新しく現れたイラストのおかげで、クラリッサの「泥棒薬」に使われている「苦塩」「小魚」「骨粉」「魔結晶の粉」が「コネリーの赤・改」にも使われていたことが分かった。

 これで、サムが最も恐れていた「3色の紙包みが『泥棒薬』だけの原料で、『コネリーの赤・改』とは何の関係もない」という線は消えた。

 が、謎もまた増えていた。


「問題は、『魔結晶』だけが相関図から離れたところに描かれていることと、この植物のイラストだね」


 まるで仲間はずれであるかのように離れたところに描かれている、「魔結晶」のイラスト。

 そして、まるで相関図の一部であるかのように図の底部に描かれている、正体不明の植物のイラスト。


「単純に考えれば、『魔結晶』は2草1葉の相関関係に含まれていなくて、代わりにこの『謎の植物』が実は紙包みの原料と同じように重要なものだった、ってことになるわけだけど……」


 それだと、辻褄が合わない。


「もし紙包みの中身がゲシ骨鉱の代用品なら、紙包みの一つに入っていた『魔結晶』は組成成分の一つであるはずだ。なのに、この図にはそれが離れたところに描かれていて、代わりにこの場にはない『謎の植物』がまるでゲシ骨鉱の組成成分であるかのように描かれている」

「なら、『魔結晶』は仲間はずれってことじゃない?」

「でも、『魔結晶』のイラストからは長い長い矢印が相関図に向かって伸びている。無関係なら、こんな風に書く必要は無いよ」

「つまり…………どゆこと?」


 眉を顰めながら首を傾げるグレタに、サムは明確な答えを示すことが出来ない。

 彼自身、この新しく現れたイラストとその()()に困惑しているのだから。


「もしかして、実は『小魚』『苦塩』『骨粉』に『謎の植物』を加えたものがゲシ骨鉱の代替品で、『魔結晶』は後から入れる必要があるもの、ということではないでしょうか?」


 クラリッサが、彼女には珍しく眉を顰めながら考えを口にする。


「……その可能性はありますね」


 暫く考えて、サムがクラリッサに応じる。


「『謎の植物』がこの位置に描かれているということは、それだけ重要な素材であるということでしょう。それこそ『小魚』や『苦塩』『骨粉』と並べて書くほどに。

 そして『魔結晶』については、主原料ではなく『誘導剤』か『触媒』か『安定剤』であると仮定すれば、この位置に描かれていることにも説明が付きます」


 またしても仮定が正解である前提で理論を組み立てているが、手掛かりがあまりにも少なすぎる現状ではそうせざるを得ない。でなければ、一歩たりとも前には進めない。


「『ユードーザイ』とかって、なに?」


 専門用語を連発するサムに、グレタが質問する。


「『誘導剤』は、原料に融合や変質みたいな変化・反応を引き起こす、引き金となる成分だよ」

「ふむ、焚き火を起こすときの火打ち石みたいなものだな」

「その通りです、ヘレンさん」


 ヘレンに頷き、サムは続ける。


「『触媒』は、それ自体は変化したり消費されたりはしないんだけど、代わりに原料同士の反応速度を変えたり止めたりすることが出来る、っていう成分だよ」

「なんか質屋に入れた直後に弁済した貴重品みたいな成分ね」


 グレタの微妙な喩えに苦笑いを返すサム。


「最後の『安定剤』だけど、これは文字通り、不安定な薬を安定化させる成分だよ」

「寂しくて泣いている赤ちゃんをあやす乳母のような成分なのですね」


 自分も参加したかったのか、クラリッサは喩えなくても十分わかりやすいのに無理やり喩えてみせた。

 そんなクラリッサに、サムも他の三人と同じ様に微笑みながら「そのとおりですクラリッサお嬢様」と頷く。


「それで、この三種類の成分だけど、ポーションを作る時によく使われるものでね。『誘導剤』は製薬の最初に、『触媒』は製薬の途中で、『安定剤』は製薬の最後に投入する事が多いんだ」

「作用の違いによって投入するタイミングが異なるのですね」

「はい、クラリッサお嬢様。そのタイミングの違いから、我々薬師はこの3つを原料とは切り離して考えるのです」

「それはなぜでしょうか?」


 クラリッサとグレタがいまいち分かっていないような顔をしているので、サムは暫く考えて、再び口を開いた。


「先ほどのヘレンさんの喩えで言うならば、ポーションとは焚き火の上で煮込まれているスープです。

 この場合、スープの具材がポーションの原料に相当するわけですが、ただ具材を鍋に投入しただけでは、スープとは言えません。ここから『煮込む』という処理をしなければ、ただの生野菜が浮いた水ですので」


 二人がふんふんと頷くのを見て、サムは続ける。


「ここで、『誘導剤』『触媒』『安定剤』の出番です。

『誘導剤』は火打ち石みたいなもので、火を起こして煮込みを開始します。

『触媒』は追加の薪みたいなもので、火加減の調節をします。

『安定剤』は火消しの砂みたいなもので、火を消すことで焦げないようにします」


 そこで一息区切り、サムは結論を言う。


「『誘導剤(火打ち石)』も『触媒()』も『安定剤()』も、全部焚き火の調整のためのものであって、『スープの具材』ではありませんよね? ですから、我々はこれらの成分を『ポーションの加工手段』として考え、『ポーションの原料』とは考えないのです」

「なるほど」


 なんとなく分かったという顔で、全員が頷く。


「話を『魔結晶』に戻しますが、『魔結晶』のイラストが相関図から離れた場所に描かれているところを見るに、これは『原料とは別の何か』と考える方が妥当だと思います」

「それでサミュエル様は『誘導剤』か『触媒』か『安定剤』だと考えたわけですね?」

「はい、オリーさん。ただ、『増幅剤』である可能性も捨てきれないので、確証はありませんが」

「ゾーフクザイ?」


 またしても聞いたことがない専門用語に、グレたが首をかしげる。


「文字通り、ポーションの効果を高める効果がある成分だよ」

「その『ゾーフクザイ』だと、どうなるの?」

「『増幅剤』はポーションの効果に直接影響を与えるから、一応は原料にカウントされるんだ。さっきのスープの喩えで言えば、美味しさを増してくれる調味料みたいなものだね。でも、これがないと絶対にポーションが作れないってわけじゃないから、必須原料とは言えない。無いよりは有った方がいいポーションが出来る、っていう成分かな」

「へぇー」

「何れにせよ、『魔結晶』が必須成分ではない可能性が高いってことだよ」

「つまり、お嬢様の推測が正解、ということでしょうか?」

「だと思います、オリーさん」


 オリーに頷いたサムだが、直ぐに難しい顔に変わる。


「問題は、この『ニューマン』という表記の下に書かれている『謎の植物』が何なのかです」

「草のように見えますけど……葉っぱのようにも見えますわね……それとも、枝でしょうか……?」


 これが、一番の難関だった。


 サムがこの「謎の植物」を特定できないのは、そのイラストの微妙さからだ。

 他のイラストはひと目でそれだと分かる描かれ方をしているが、これだけはどれだけ見ても分からない。

 草だと言われれば草のように見えるし、葉っぱだと言えば葉っぱにも見えるし、枝だと言われればそうとも見える。実に曖昧で難解なイラストだった。


「もしかして、これも暗号化されているのかな? それとも、僕が見たこと無い薬草?」


 製薬に関する本を読み込んだサムだが、全ての薬草を知っているとはとても言い難い。寧ろ、読んだ本が薬師ギルド・フェルファスト支部の蔵書が殆どなので知識が偏っており、知らない薬草の方が断然多い。

 それを自覚しているからこそ、サムはこのイラストをただ「下手くそ」と安易に断じず、「新たなる暗号」と「見たこと無い薬草」の可能性を考えたのだ。


 難しい顔をするサムに、グレタが心配するように尋ねる。


「分からないの?」

「う〜ん、何とも言えないね……。もしこれが暗号なら、解読する手掛かりがもう無いし、もし僕の知らない薬草だったら、それこそ特定する手段がない」


 言外に詰んでいると言われたグレタが、絶望したような顔をする。

 そんなグレタに申し訳無さを感じながら、サム自身も途方に暮れる。


 手掛かりが、少なすぎる。

 これではまるでパズルを3ピースだけ渡されて「この3000ピースのパズルの全体像を当ててみろ」と言われているようなものだ。


「……いや?」


 が、すぐに考え直す。

 自分の言葉に妙な引っ掛かりを覚えたからだ。


「……本当に特定する手段が無いのか?」


 あの包帯の客は、自分に全てを託したのだ。

 そんな彼が、自分に絶対解けない謎を残すはずがない。

 ならば、今こうして袋小路に入り込んでしまったのだって、彼がヒントを残してくれていないせいではなく、自分の考えが間違っているせいではないだろうか。


「思い出せ。彼は僕になんと言った?」


 記憶の引き出しをひっくり返し、サムは包帯の客の言葉を思い出す。



 ──「……ありきたりな方法だ」

 ──「このポーションに使われている材料は、全てこの領で取れるものだ……変わらず、な」

 ──「製法は……自分で考えてみろ。ヒントは……全てその瓶の中にある」



 あまりにも少なすぎる彼との会話。

 まともな内容がある会話となれば、もはや数言だけだ。

 だが、この数言こそが、全てを解き明かすヒントとなる。


「全て……この領で取れるもの……」


 もしこの言葉がただの世間話ではなく、彼が自分に残してくれた手掛かりならば……この謎植物はストックフォード領で取れる薬草である、ということ。


「範囲は絞れたけど、それでも特定には程遠い……」


 一口に「この領で取れる薬草」といっても、その種類は優に100を超える。

 その中から何のヒントも無く一種類だけを特定するなど、並大抵のことではない。

 何より、サムはその100を超える薬草を全部知っているが、このイラストの形状に符合するものは一つとして無いのだ。


「まだ誰にも知られていない薬草なのか?」


 それなら自分が知らないのも当然だし、この領で取れるものなら包帯の客の言葉にも符合する。

 が、その可能性はあまりにも低いだろう。

 全く新しい種類の生物や植物が見つかるのは、ダンジョンの下層や危険領域の奥といった前人未到の場所が殆どだ。人間が普通に足を踏み入れられる「人の領域」では、ほぼ全ての自然資源が既知のものとなっており、今更新種が発見されるということは殆ど無いと言っていい。

 何より、もし本当にまだ誰にも知られていない新種ならば、その時点で詰み確定だろう。


「なら、やっぱり暗号かな……?」


 暗号の上に暗号を重ねるなどありふれたこと。重要な情報であればあるほど、セキュリティは厳重にする必要がある。

 もしこの「謎植物のイラスト」が暗号ならば、解読の鍵も近くにあるはずだろう。


 では、他にヒントとなるものとは一体なんなのか?


 サムの視線が、「泥棒薬」の入った瓶に引きつけられる。


「泥棒さんがゲシ骨鉱の代用品を使っているならば、その完成形が『泥棒薬』に入っているはず……。でも、肝心の『謎植物』はない……。ということは──」


 サムが大胆な推測を立てる。


「──『謎植物』は、既に『泥棒薬』のベース液に溶かし込んでいる?」


 もし「泥棒薬」にゲシ骨鉱の代用品が使われているのなら、全てが「泥棒薬」の中にあるのは間違いない。

 だが、それを割り出すことが出来ない。


「……クラリッサお嬢様」

「はい?」


 思い詰めたような顔を向けてくるサムに、クラリッサはキョトンと首を傾げる。


「このベース薬の瓶と紙包み以外に、泥棒さんから渡されたものはありませんか?」


 もし全てが「泥棒薬」の中に溶け込んでいるのであれば、解析に膨大な時間がかかることになるだろう。

 だが、サムはそれを疑った。


 件の泥棒は、ポーションの仕上げをクラリッサに任せた。

 言い換えれば、そうせざるを得ない理由があった、ということだ。

 そして、その仕上げ方法というのが「ゲシ骨鉱の代替品(構成成分)を後から入れる」というものだった。

 ならば、この「謎植物」も、後から入れた可能性が高い。

 だが、それらしきものは、この場にはない。

 であれば、どこかのタイミングで、明確ではない形で、クラリッサに渡している可能性が高い。


 そう考えたからこそ、サムはクラリッサに「他に何か渡されてないか」と問うたのだ。


「そうですわね……」


 必死に思い出そうとするクラリッサ。


「渡されたのは、ベース液と紙包みが入った薬箱、それとお父様への手紙だけですわね」

「本当にそれだけですか?」

「はい。泥棒さんとのことは会話から仕草まで全て鮮明に覚えておりますので」


 何気に怖い回答を返すクラリッサ。

 ただ、それはヒントを期待するサムにとっては無情な宣告でしか無い。


「そう、ですか……」


 打ちひしがれた様に俯くサム。


「あ、そういえば」


 が、クラリッサの言葉にはまだ続きがあった。


「最初にお会いした時、飴玉を一つ頂きましたわ」


 バッとサムが顔を上げる。


「そ、それは、どのようなものでしたか!?」


 これが最後のチャンスとばかりに、サムがクラリッサに詰め寄る。


「確か、黄色と緑色が混ざりあった、変わった色合いの飴玉でしたわ」

「黄色と緑色……。そ、それで、味は?」

「味は……そうですわね……甘いのは当然ですが、仄かに薬草の風味が香りましたわ」

「薬草の風味……!?」

「ええ。あの飴玉を口にした直後に、身体が楽になりましたわ」

「そ、その飴玉をもらったのは、いつのことですか?」

「今日から数えて5日前、薬箱を頂いた日から数えて3日前ですわ」


 これは、とんでもないヒントなのではないか?

 いや寧ろ、これこそ自分が求めていた決定的な手掛かりなのではないのか?


 サムは息をするのも忘れるくらい深く考え込む。


 薬草の風味が仄かに香るということは、何らかの香りの強い薬草もしくは濃縮液が使われているということ。

 口に入れた直後に身体が楽になったということは、飴玉自体に何らかの鎮痛効果もしくは回復効果があるということ。

 そして、それを口にしたのが、今日から数えて5日前。


 一見して無関係であるかのように見えるこの3つの情報だが、サムにはその中に繋がりがあるように思えてならなかった。

 いや、これ以外の手掛かりが何もないのでこれこそがレシピ解明の鍵だと思いたかった。


「何か分かったの?」


 心配そうに尋ねてくるグレタ。


「分かった事が有るといえば有るし、無いといえば無いかな」


 まるで禅問答かはぐらかしのような答えに、グレタは不満そうな顔をする。

 そんな彼女に、サムは少し考えて、話を整理するように言った。


「クラリッサお嬢様の話から考えるに、多分だけど、この『謎薬草』を解き明かす鍵は、クラリッサお嬢様が言っていた飴玉にこそあると思うんだ」

「そうなの?」

「あくまで推測だけどね」


 そう言って、サムはクラリッサに向き直る。


「クラリッサお嬢様、その飴玉は、まだ残っていますか?」

「申し訳ありません。残念ながら一つしかないものでして、その一つもその場で頂いてしまいましたわ」


 申し訳無さそうに眉を下げるクラリッサに、サムは続いて質問する。


「では、その飴玉ですが、薬草の風味とは具体的にどのような風味なのでしょうか?」

「そ、そうですわね……」


 思いもしなかった質問に、クラリッサは考え込む。


「……申し訳ありません。風味そのものは覚えているのですが、何分複雑な味わいでしたので、どう形容したらいいか……それに、長い間味覚を失っていましたので、正しく言い表せるか確証が持てませんわ」


 友人の役に立てず、泣きそうな顔をするクラリッサ。

 そんな彼女に、サムがアワアワと慌て、グレタがよしよしと彼女の頭を撫でる。専属二人は「「お労しやお嬢様!」」と謎の涙を流していた。


「そんなお顔をしないで下さい、クラリッサお嬢様!」


 あまりにも悲しそうで見ていられなくなったサムが明るくそう言った。


「クラリッサお嬢様のお陰で、分かったことがありますから」

「ほ、本当ですか?」

「本当ですとも!」

「私、ちゃんとお役に立ちますか?」

「立ちます、立ちます、謎解けたぜ、って感じです!」


 必死に頷くサム。


「そ、それで、何が分かったの?」


 友人というよりは幼い妹を慰めるようにクラリッサの頭を撫でていたグレタが、話題を変えようとサムに顔を向ける。


「それはね──」


 若干勿体ぶって、サムは答えた。


「この『謎植物』の特定方法だよ」


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