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その4

「瑠美」

「は、はい!」

「それにしても、驚いた。すっかり綺麗な女性になって」


 こっちの台詞なんですが!? たぶん私の驚きは、千景くんの比じゃないと思うんだけど!?


 千景くんの方は普通の男子がこんなお嬢様になっちゃってるからね!? 変化の質が違いすぎる。

 

「なんですかなんですか? お二人はお知り合いなんですか?」


 ツインテを揺らして身軽に私たちの前へと現れる輝くん。私と千景くんの関係性はさっきから気になっていたらしい。

 こういうフットワークの軽さと単刀直入具合。私の知ってる輝くんそのものだ。


「ああ、瑠美と僕は従兄妹でね。長らく会っていなかったが、さっき教室で再会したんだ」


 輝くんは「はへー」と納得。謎の奇声癖もそのままだ。


 そうこうしているうちにプレンヌフルレゾン寮にたどり着く。高校とは思えない広大な敷地、その端に位置する、大きな建物だ。

 寮だけでも私が前世で通ってたような庶民派高校の校舎と同じくらいのサイズがある。高級ホテルかと見紛う広大なロビー、大理石の床とブラウンの壁、向こうにはコンシェルジュらしき人たちまで。


 つきロンのゲーム本編では背景にさらっと描かれてただけだけど、実際に見てみると圧巻の一言に尽きる。

 

 鍵と言われて渡されたのは、二枚のカードだった。一枚は予備かな。


「各自、部屋で荷物の整理などをしてほしい。三時間後、このロビーに集合でいいだろう」


 そうして私たちは各自の部屋へ。エレベーターで六階に。

 この普通のマンションなら20部屋は作れそうな広いワンフロア。そこにたったの7部屋しかない。単純計算で3倍の広さがあるということになる。


「瑠美!」


 扉を開けようとした私に、横から聞こえる声。

 輝くんが隣の部屋の扉前にいた。


「部屋までとなり同士なんて、嬉しいよ!」


 満面の笑みを浮かべる輝くん。


 この人懐っこい明るさに、後に瑠美にいじめられて悲しみに暮れる友紀ちゃんは救われるのだ。そして輝くんルートでは、友紀ちゃんがその恩返しとばかりに、ストーリーのクライマックス「月夜茶会」でピンチの輝くんを助ける。


 前世の私はそのエンディングに涙を流し、輝くんを推し続けると決めたのだ。友紀ちゃんを大好きになったのもこの輝くんルート。


 この辺の細かいお話は、月夜茶会とはなんなのか、この学校独自の演劇教育とかスターシステムとか、その辺の解説もしなくちゃいけなくて、とても長くなるからまたそのうち。つきロンのクライマックスとなるのは今年度末ではなく来年度末の月夜茶会だから、二年近く先の話だ。


 私より一足早く自室に突入した輝くんは、「おおー! すげえ!」と声をあげる。声は萌えボイスのままなのに口調に素が出ちゃってる。


 ひとつ気になることとしては、ゲームにおいて瑠美の部屋は6階ではなかったということ。正確には覚えてないけど、輝くんの隣ではなかったのは確かだ。

  一応来年度には部屋を移動すると言う可能性もなくはないけど、考えにくい。男の娘化だけでなく、部屋割りの変更も起きたと考えた方が自然だ。

 


 それ以外にも色々変わってるところはありそう。まあ今は置いといて、自分の荷物の整理をしよう。


 部屋に入った私は驚く。そのあまりの高級感に。



 これまでもこの学校の金のかけ方には驚かされっぱなしだけど、それらを遥かに上回る。

 だって一部屋一部屋が、昨日泊まったスイートルームより少し狭いくらいの大きさがあるのだ。こんな個室を高校生に与えていいのだろうか。いや、よくない。

 六階だから眺めがよくて、窓の向こうには六甲山と神戸湾、その間に神戸の町並みが広がっていた。


 私が実家から送られてきた段ボールを整理していると、部屋のインターホンが鳴らされる。カメラ映像を見ると、扉の外には輝くんが立っていた。


「瑠美ー!」


 扉を開けて輝くんが部屋に突入してくる。

 

「遊びに来ちゃった!」


 勢いのまま抱きついてくる輝くん。

 待って。無理。死ぬ。見た目が全然違うとはいえ、一番推してる輝くんからのスキンシップ。私の心臓は破裂しそうになる。


「どうしたの? 顔真っ赤だよ」


 あなたのせいです!

 意識が朦朧としてくる。輝くんに抱きつかれて死ぬなら、それはそれで悪くないかな…………。


 あー、ダメだダメだ。せっかくこれから憧れの夢ヶ咲学園生活なんだから、こんなところで死んでたまるか。まだ友紀ちゃんに会ってもないのに!


 せっかくの推しからの抱擁だけど、私は自らの命を優先して抜け出した。


「僕たち男同士なんだしいいでしょ?」

「私は女だよ!」

「………………え?」


 がばり、と。輝くんが私から離れる。

 顔面がさっと青く染まり、そしてみるみる血が登る。


「じゃあ、一人だけの女子生徒っていうのは……、瑠美?」


 私はうなずく。


 そういえば、ゲームでも輝くんは最初から男子へのスキンシップ激しかった気がする。だから腐人気もそれなりだった。


「ごめんなさい!!」


 土下座。輝くんは自らの額をカーペットに擦り付ける。


「ごめんなさい!! ほんと謝る! この通りだ!」


 美少女の容姿のまま、ちょっと素の口調が混じる輝くん。似たようなシーンはゲームでも見たことがある。


 私もなんと返したらいいのかわからない。興奮しすぎて死にそうだったなんて言えないし。

 輝くんは真っ赤な顔のまま逃げるようにして私の部屋を去っていった。


 誰が女子生徒なのかなんて、見たらわかるじゃん! と言おうと思ったけど、見ても分からないのがこの学校の恐ろしいところだ。

 これからしばらくは輝くんと顔を合わせられなさそう。私は少し落ち込み溜め息をついた。

 次回から最凶のライバルキャラ「琴葉ゆかり」が登場します

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