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その2

 『夢ヶ咲学園 入学式会場』



 そう書かれた看板の前、私は女子制服を身に纏い立っていた。


 入学式開始は一時間後。周囲に他の生徒は全然いない。

 私はもっと寝てたかったんだけど、気合いの入ったお母さんに叩き起こされて、早朝から夢ヶ咲学園へとやって来たのです。


 まだ周囲に他の新入生はいない。こんな早く来るバカなんてうちくらいだろうしね。


 がらんとした肌寒い講堂に入ると、周囲にちらほらと先生たちがいた。体育館にパイプ椅子が置かれているような安っぽい部屋ではなく、大学の講義室のように階段状の座席が並んでいる大きな講堂だ。


 ステージの上には、夢ヶ咲学園の校訓『清く、正しく、美しく』が達筆で書かれて額縁に飾られていた。

 ヒロインの友紀ちゃんなんかは、まさにこの校訓通りの人間だけど、瑠美は程遠い。見た目だけは美しい、はず。


 最前列の左前に案内される。改めて今の自分の容姿を確認したかった私は席に鞄を置き、女子トイレに行って鏡で自分を照らす。


 前世の私より背が高く、肌が白くて胸も大きい。意思の強そうな目とシャープな顔立ち。(昨日まで毎朝セットしてたドリルヘアはもうやらない。今度縮毛強制する)白いワンピースをベースにした少し派手な女子制服がよく似合う。

 昨夜や今朝は、まじまじ見てる余裕なんてなかったけど、こうしてじっくり観察すると、やっぱりものすごい美少女だった。

 瑠美は基本的にスペックの高い子である。性格がむちゃくちゃじゃなければきっとモテるだろうに。プレイヤー時代私も好きになってたかも。

 瑠美の性格がよかったら、友紀ちゃんのドラマチックなお話が生まれないってことなんだろうけど、私は破滅したくないのでそんなゲーム上の都合には付き合いません。




 トイレから出た私は、適当にこの建物のなかを散策することにした。

 全校生徒50人程度の学校なのに、校舎とは別にこんな大きな建物作る意味有るのかってくらい広大な講堂。その二階に私は上がる。


 そうして私は、窓ガラスの向こう側のバルコニーに、目を奪われた。


 赤髪の美女が、ティーカップを啜り、外の景色を眺めていた。

 とても美しかった。

 透き通るような白い肌と長い睫毛、ぱっつんと切り揃えられたロングヘア。細い指でカップの取っ手を摘まむ動作がとても様になっている。桜の髪飾りがいいアクセント。黒いトップスと深紅のロングスカートがさらにこの人を引き立てる。


 この情景を写真か絵画に納めれば、それだけで芸術作品になりそう。

 

 

 カップを受け皿に置いた美女は、わたしに気づいてにっこり笑う。女の私がドキンとしてしまうほどのきれいな笑み。

 


「よかったら、どうぞ」



 若干ハスキーだけども美しい声。テーブルの向かいの席を指し示す。


 私は恐る恐る窓を開けて、バルコニーに出た。


 美女はピンクの布が被せられたバスケットから、ひとつのカップを取り出し、ポットの紅茶を注いで向かいの席の前に差し出した。


 私なんかがこんな美女と向かい合っていいのかと思ったけど、今の私は美城瑠美。堂々としてれば見劣りしないはずと居直って、私は椅子に座った。


「新入生の方ですか?」

「は、はい……っ! み、星条、瑠美です!」


 女はしなやかに口に指先を運んで、くすりと笑った。


「あら、星条さんというと、唯一の女子生徒と話題の」


 話題なのか。



「周りが男子生徒ばかりなのは大変でしょうが、なにかあったら私たち教師がすぐお助けいたします。遠慮なく相談してくださいね」

「は、はい」

「それに……、本校の男子生徒は、おしとやかな淑女のような子が多いですから、さほど心配する必要はないと思います」



 先生の言葉に、私ははてなを浮かべる。


 淑女? 普通男子生徒に使う言葉ではなくない? 


 つきロンは、乙女ゲーでしかも超お金持ち学校が舞台ということもあり、いかにもな粗暴な男子高校生はモブですら少なかった。美少年系だからみんな中性的で細身だ。だけどそれを淑女と呼ぶのは少し変じゃないだろうか。


 そういえば、この人はなんの先生なんだろう。原作にはこんな美女先生は出てこなかったから、モブの一人だろうか。

 そんな私の疑問を察知したのか偶然か、先生は自らを名乗る。



「申し遅れました。私は愛華。数学教師をしております」



 こんな美女が数学の先生なんて。てっきりその見た目から、芸術か音楽、国語とかだと思ってた。逆にそのギャップに萌える。


 ………………ん?

 なにかがおかしい。

 なにがおかしいかは明確には言えないけど、なにかがおかしいことだけはわかる。

 違和感の正体。出てきそうなのに出てこない。分かりそうなのに分からない、もどかしすぎる。



 先生は逆手に付けられた銀のこぶりな腕時計を見て、「あら、こんな時間」と呟いた。



「星条さん、残念ですが、そろそろ……」



 私は慌てて時計を見る。もう入学式の十分前だった。気がつかないうちにこんなに時間が経っていたとは。



「わたくしは一年生の担当です。これから、よろしくお願いしますね」

「はい! お願いします!」



 私は元気に返事。時間が過ぎてた焦りからか、先生に感じていた違和感は、一旦頭の隅へと追いやられてしまった。







 場所は戻って講堂。入学式の会場。

 そこにはたくさんの女子制服が広がっていた。


「え……?」


 そこに広がっていた情景は、私の想像とあまりにも違っていた。

 

 聞いていた通り、私以外の生徒は15人ほど。そのすべてが、女子制服に身を包んでいた。

 制服だけじゃない。髪は長いし、半分くらいは髪飾りをつけてる。靴も靴下も女子のもの。

 そしてなにより、みんな美少女と読んで差し支えない容姿だった。

 

 ちょっと待って!? 何これ? 何この状況!?


 女子生徒は私一人だったはず。ゲームでも友紀ちゃんが入る前は瑠美以外に女子がいなかったと書かれてたし、なによりさっき先生も、私が唯一の女子生徒と言ってたはずなのに!



『ただいまより、第107回夢ヶ咲学園高校の入学式を行います。皆様。ご着席ください』



 しわがれたお爺さんの声でアナウンス。私は慌てて鞄をおいてた席に座った。

 

 壇上の杖をもって歩いてきたお爺さんの姿は、ゲーム本編でもで見たことがある。この学校の理事長兼校長で、後に町で助けてくれた友紀ちゃんをこの学校に迎え入れる人だ。



「えー。新入生の皆さん。ご入学、おめでとうございます。本夢ヶ咲学園は、20世紀の初頭に、この土地で誕生いたしました」



 この辺はゲームでは略されてた語りだ。気にならないと言えば嘘になるけど、私はこの周囲の状況が飲み込めず、冷静に聞いている余裕なんてなかった。


 同級生みんな美少女になってるこの状況が。


 そうこうしているうちに、式は新入生代表挨拶へと移る。



「新入生代表、柚希輝」

「はい!」



 私の3つ隣に座ってた、この美少女軍団のなかでもひときわ目立つかわいい子が、推しの熱血美少年の名前を呼ばれて、萌え声で返事する。


 壇上に上がるのは、青いリボンでまとめたツインテールを揺らしたものすごくかわいい女の子、だけど、その顔をよく見てみると、確かに推しである輝くんの面影があった。


 他の子も、よく見ればファンブックのクラスメイト一覧にあったモブの子達の顔と、とても似ていた。



 待て待て待て待て待て待て!



 私は状況を理解しつつあった。だけども浮かんだ仮説はあまりに突拍子なくて、とてもじゃないけど信じがたい。


 見た目に騙されるな。入学式の前に会った先生が、女子生徒は私だけと言った。重要な事実はこっちだ。



 私以外は全員男子、だけど見た目は全員美少女。



 これは、

 まさか、





 私のクラスメイト、全員男の娘になっちゃってるってこと!!?


  

 

 

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