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悪役令嬢に転生したら、私以外全員男の娘になっちゃってるんですけど!?  作者: 天音怜
1-3「歌うプリンスじゃなくてプリンセス!」
19/24

その1

琴葉は私の実在する友人ほぼそのままのキャラです。

 輝くんがスター枠に選ばれて、3日が経った。


 金曜日、六時間目の授業を終えて、ホームルーム。

 

「みなさん。夢ヶ咲学園で1週間生活してみて、どうだったでしょうか。この週末はゆっくりやすんでくださいね」


 水曜の数学から、本格的に午前のお勉強の時間も回りはじめて、午後の演劇授業も重なり私たちは疲弊していた。

 宿題は、近隣の六甲山の山なりにある某有名国立大学の、文系入試問題三年分が、英語と数学の課題として出た。期限は一週間。高一の頭に出す宿題としては鬼畜過ぎる。



 前世の折原可奈なら絶対授業についていけなかったけど、瑠美は親が高いお金を出して雇った家庭教師に中学時代まで鍛えられてたからか、なんとか食らい付くことができていた。

 ちなみに週1コマだけど、普通に体育の授業もある。金曜は4限に体育、5,6限にはダンスなどの授業という、なかなか厳しい状況だ。


「今日のアドバンスド授業は生物です。先生はいきませんが、興味のある人は是非」


 響先生は数学と物理にしか関心がないらしい。水曜日以降のホームルームの響先生は、あからさまに気力がない。


「瑠美!」


 ホームルームが終わったあと、輝くんがツインテールを揺らして机にばんと手をついてくる。


「明日一緒にファミリーランドいこ!」

「え……、ええっ!?」


 突然のお誘いだった。


 輝くんの言うファミリーランドとは、夢ヶ咲学園の近くにある、家族向けの遊園地。

 ちなみに夢ヶ咲学園近辺には、他にも漫画の神様と呼ばれた人の記念館や、犬や猫がたくさん飼われてる庭園、今建設中の文化センターなどの施設がたくさんある。つきロンでも何度かデートイベントで登場する。


「だめ、かな……?」


 潤みそうな目で見つめてくる輝くん。やめて。元から断る気なんてなかったけど、よりいっそう使命感が出てきてしまう。

 私が返事すべく口を開こうとすると、ぴっしゃーん!とおおきな音がなって、乱暴に教室の扉が開かれる。


「輝くーん!!!」


 私の口から無意識に「げっ」と変な声が出た。


「じゃーん! 琴葉ゆかりさんだよー!」

 

 私の顔が引きつることなど気にも留めず、琴葉は輝くんのもとへと駆け寄る。

 琴葉は、この水曜木曜金曜と、ことあるごとに輝くんに擦り寄っていた。いい加減にしてほしい。


「今週お疲れさま! 新しい場所で新しい学園生活、楽しかったかな? 疲れたなら元気注入してあげるねっ! あ、けどその代わり今夜は輝くんからあたしに注入、なんて……きゃっ!」


 自らの肘を抱いて、目をぎゅっと閉じ上半身をぶんぶん振り回す琴葉。

 私は脳内三者会議を行う。


『どう思われるでしょうか』

『ダメだな』


 脳内千景くんが言った。


『ダメですね』


 脳内宮小路さんが言った。

 満場一致で可決。だけど今ここに例のスタンガンはない。火曜の夜、宮小路さんに返してしまった。

 

「あの、輝くんに何か御用ですか?」


 仕方がないので、私は激情を抑えて静かに琴葉向けて尋ねる。

 イライラを表に出しちゃいけない。怒りを悟られたら、完全に琴葉のペースだ。


「誰かと思ったら、輝くんにハエのようにタカるバカま×こじゃん」

 

 またとんでもないワードを口にした。


「そんな疲れ切った顔してると、早く老けちゃうよ。華かっこわらいのJKなのに。にっしっしっしっしっ……」


 右手の指をそろえて口元。琴葉は食いしばった歯を見せながら嫌らしい笑みを浮かべる。

 確かに今の私は疲弊してる。

 原因の半分は新しい環境。前世の記憶があるから少しはましとはいえ、実際に学園の生徒として通ってみると、慣れてないせいで心労が多い。


 そしてもう半分の原因が、琴葉。


 当たり前だろう。こんなのが執拗に輝くんに付きまとってるから、私の心労は相当なものになっている。

 

「ま、今日は輝くんにちゃんと用があって来たんだけど」

「いつもは用もないのに来てると認めたんですね?」

 

 私の発言は琴葉の右耳から入って、左耳から出ていく。


「輝くん! 明日、遊園地デートしよ! ファミリーランドに一緒にいくんだよ!」

「ちょ、ちょっと! 輝くんは私と行くことになってたんですけど!」

「えー。何言ってんのさ。輝くんだってこんな自ら肉×器に成り下がろうとする女と一緒に行くより、あたしと行ったほうが楽しいよねえ」

「え、えっと……」

「輝くんが誘ってくれたんです! 輝くんも、はっきり言ってやって」

「う、うん。僕は明日は瑠美と行きたい、かな」


 輝くんはちゃんとそう言ってくれた。

 嬉しかった。

 だけど、『明日は』っていう言い方が不安だ。まあ明日は私と言ってくれるってことなので、とりあえずはそれで安心するとしよう。


 琴葉は口をあんぐりと開く。だけどすぐ輝くんに詰め寄って、


「なんで? あたしよりこんな公衆便所志望の女なんかのほうがいいって言うの? 何がだめなの?」


 わからないんだろうか。


「とーにーかーく! あたしはすぐヤらせてあげるし、どんなプレイでも喜んで受け入れるよっ!? 敏感だからすぐ連続でイくし、開発もうまいから輝くんが望むなら前立……、げふっ!」


 琴葉の後ろから現れたのは宮小路さん。後ろから琴葉の首をその細い腕で絞める。


「これはこれは。柚希さん、星条さん、ごきげんよう」


 にこにこ笑いながら、私たちに挨拶する宮小路さん。

 首を絞められた琴葉は、顔を真っ赤にしながら「ギブ、ギブだってば」と漏らして宮小路さんの腕をパンパンと叩く。だけど宮小路さんの細腕はびくともしない。


「さっきから聞いていれば、前回あれほど注意したのにまたも言うなんて」

「宮小路、先生に呼ばれてたはずじゃん。なんでここに……」


 少し緩めてもらった琴葉は、依然苦しそうに呟く。


「あなたがなにかしでかすような気がしたので、戻ってきました」


 すごい。これが琴葉と2年以上過ごしてきた人の直感か。


「そのあとも学び舎で言うことが許されないような発言の連続。これは一度『地獄コース』ですねえ」

「さ、さすがにあれだけはやめて……、お願いだから。謝るから。いい子にするから」

「いいえ。やめません。猶予は何度も与えました。今回は許しません」


 初めて本気でおびえる表情を見せる琴葉を、首絞め状態のまま宮小路さんは教室の外へと引っ張っていく。


「ではまた、週明けにお会いしましょう。遊園地、楽しんできてくださいね」


 宮小路さんの手によって、大きな音を立てて教室の引き戸が閉じた。




 翌朝。

 起床は約束の時間の4時間前。持ってきた私服の中で一番かわいい服を着て、普段の登校前よりずっと髪型にも気を使って備えた。

 自室の玄関で聞き耳をたてる。あんまり待ってました感を出したくなかったから、輝くんが部屋から出てきた瞬間を狙うことにした。

 しばらく待っていると、がちゃり、と、扉が開く音。私は内心「来たっ…………!」と緊張しながら、玄関の戸を開いた。


 向かいの部屋の先輩が、玄関から出てきていた。

 私はなにごともなかったかのように軽く会釈。輝くんの部屋の扉が空いてないことを確認して、扉を閉じて戻ろうとしたときだった。

 輝くんの部屋の扉が勢いよく開いて、「瑠美ー!」と輝くんが笑顔で飛び出してくる。


 天使かと思った。


 もはやトレードマークと化してるツインテールと青の星形髪飾り。白いブラウスと、ウェストで締められたフリルのついた黒いフレアスカートが映える。ピンクのリボンが腰元で堂々と主張し、純白のハイソックスと黒のブーツが美しい。


「ど、どうしたの!?」


 過呼吸。私なんかがこんなかわいすぎる男の子と二人で遊園地に行っていいんだろうか過ぎたことを望んだ罪で地獄に落ちないだろうかああだめだ衝撃が強すぎてくらくらするくらくらと…………、


「瑠美!? どうしちゃったの!?」


 輝くんが心底心配そうな顔でうずくまった私の肩を掴んでくる。私は申し訳ない気持ちになりながら、なんとか息を整え、


「ごめん、輝くんのかわいさにびっくりしちゃって」


 輝くんは顔を赤らめながら、「ありがとっ」と呟いた。


「僕、瑠美みたいなかわいい女の子にかわいいって言われるの好きだから」


 輝くんにかわいいと言われ、また過呼吸が悪化しそうになるけど、なんとか押さえる。

 喜んでくれるのは嬉しいけど、……輝くんが変な性癖に目覚めないか心配だ。

 え? もう手遅れ? 輝くんが手遅れなわけないじゃん。


「それにしても、時間決めてたとはいえ、ほとんどぴったり一緒に出てくるなんて、すごい偶然だね!」


 普段の彼からは考えられないくらい下手な演技。すさまじい棒読み具合だった。

 どうやら彼も、私と同じように相手が出てくるのを待っていたらしい。

 なにこのすれ違い。


 まあいいや、過ぎたことはおいといて、今日の瑠美は、輝くんとのデートを楽しみます!

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