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第八話 ワレワレハーウチュウジンダー

 土曜日。

 六花の自室。


 休みの日には六花の家に誰かしらか遊びに来るのが恒例だった。四人揃うときもあるし、そうではないときもある。


 今日は理沙と涼華が家族と出かける予定があるとのことで、来たのは鈴だけだった。


 というか、鈴だけは毎週欠かさずに来ている。

 それには鈴の家庭環境が特殊で、家に両親が不在であることが関係している。鈴は年の離れた姉とほぼ二人暮らしのような状態なのであった。


 六花もそれを知っているため、鈴が毎週遊びに来ることに関してとやかく言うつもりはない。ないのだが。


「佐々木ぃ、あっちぃよぉ、クーラーつけて?」


「我が家にそんなもんないよバカ。扇風機で我慢しろ」


 まるで自分の家かのようにベッドでゴロゴロし、暑いからといって下着姿になり、あまつさえ好き勝手なことを言い出す鈴を見てると、流石にちょっとだけイラっとするのだった。


「にしても、本当に暑いな……」


 六花がうちわで自分をあおぎながら言う。


 まだ五月だというのにこの気温。しかも明日は三十度を超えるらしい。ここは本当に北海道かと六花はうんざりとする。


「あ、そうだ」


 鈴は思い立ったかのように立ち上がると、首を振る扇風機の前を占拠した。扇風機の動きに合わせて鈴も動き、風を占領する。


「おまえやめろよ!? こっちに風が来ないだろ!?」


「だって佐々木が扇風機で我慢しろって言ったんじゃん」


「いや、そうだけどさぁ……。ていうか、そんなに動くなよ。見てて暑苦しい。扇風機の首振りを止めればいいだろ……」


 六花がボヤきながら扇風機の首振りスイッチをオフにした。


「おまえ天才か!?」


「うるせぇ、おまえがバカなんだよ」


 暑さに気力を奪われ、二人は何をするでもなく時間を過ごす。六花はうちわで、鈴は相変わらず扇風機の前を占拠して、それぞれ涼んでいる。


「……おまえさ」


 六花が鈴をジト目で睨む。


「んー、なに?」


「さっきから自分ばっかり扇風機を占領して、思いやりってもんはないの?」


「えー、いつも思いやってるんだから、たまにはいいじゃん」


「いつだ!? いつおまえがわたしを思いやったことがある!?」


 暑さで沸点が低下している六花が、とうとうキレた。

 ここ最近の、いや、ずっと前からの鈴とのやり取りを思い返しても、思いやられた覚えは一切なかった。


「佐々木……あたしの()()は、いつでもおまえに()()()()ぜ……」


 鈴がキメ顔をする。


「おまえマジで殴りたい」


 だが力尽くでどかそうとしても、このバカはテコでも動かないだろうということは六花にもわかっている。


(バカにはバカに合わせた対応をしないとね……)


「……林」


「何? 愛の告白?」


「違うよバカ。ゲームしようか」


「ゲーム! いいよ、何する!?」


 遊び好きの鈴が目を輝かせる。


「扇風機の占有権を賭けたゲームだよ」


 鈴がウンウンと頷く。


「扇風機の前で我々は宇宙人だーってやるあれ、あるでしょ? あれやっちゃったら負けで、負けた奴は占有権を失う。どう?」


 自分で言っておきながら、六花は何だこの謎のゲームと思う。しかし、鈴からの反応はすこぶる良好だった。


「めっっっっっちゃ面白そうっっっ!」


 こいつマジかよと六花は若干引いたが、乗ってきたのは好都合だ。何故なら、鈴がやるなと言われたことをやりたがる性格であることを知っているからである。


「ワレワレハー、ウチュウジンダー……はっ、しまった!?」


 六花の思惑通り、鈴は五分ともたずにゲームに敗北した。


「はい、交代」


「ふ、ふふん、佐々木だって、どうせすぐにワレワレハウチュウジンダーってやるに決まってるね」


 六花はそれから一時間、暑さにやられた鈴に泣きつかれて引っ付かれるまで、涼むことに成功したのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 鈴…お前…めっちゃ馬鹿だ…笑
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