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番外編 しりとり

 一時間目の授業が終わった後の休み時間。


「ねえねえ六花、しりとりしようよ」


「やだ。おまえとしりとりすると面倒くさいし」


 鈴が隣の席の六花に声をかけるが、六花は鈴の方を見向きをせずにその誘いを断った。


「よーいスタート! しりとり! ほら、“り”だよ、“り“!」


 鈴が六花を無視して、一方的にしりとりを始める。

 六花はため息をつき、無視したらそれはそれでうるさいしと思い、仕方なく付き合うことにした。


「……リール」


「リールってなに?」


「釣竿についてる、ぐるぐる回すやつだよ。バカとしりとりすると、いちいち解説しなきゃいけないから面倒くさいんだよ、バカ」


「六花ひどくね!? 二回もバカって言わなくてもいいじゃん!? んー、“る”かぁ……る、る、る……! “る”から始まる言葉ってなくない!?」


 鈴が早速行き詰まり、頭を抱えた。


「ないわけないだろ、よく考えろよ」


 六花の頭の中には“ルール”だとか、“ループ”だとか、他にもいくつか浮かんでいるが、鈴にはそれらの言葉はまるで浮かばないらしい。


「る、る……ルッコラ!」


 鈴が苦し紛れに、なんとなく思い浮かんだ言葉を口にする。


「ルッコラって何だよ」


「なんかありそうじゃん」


「おまえ、なんかありそうってのを有りにしたら、しりとりにならないだろ……」


 六花が呆れながら、スマホでルッコラを検索する。

 ほら、ないだろと言おうとした六花だったが――――


「……あった、ルッコラ」


 それは実在する葉野菜であった。

 イタリア料理ではおなじみの野菜と書かれている。


 それを見ていた鈴が、六花が今まで見た中で一番のドヤ顔をしていた。


「あれれえー? 佐々木さんはぁ、お勉強ができるのにぃ、ルッコラも知らなかったんですかぁ? お勉強だけじゃなくてぇ、もうちょっとお料理とかした方がいいんじゃないですかぁ?」


(う、うっざぁぁぁっっっ!)


 六花は思わず手が出そうになったが、それはこのバカに敗北したのを認めることと同義だと、どうにか思い止まる。

 こうなったら徹底的にしりとりでコテンパンにしてやろうと、六花は静かにキレた。


「……鈴、しりとりの続きをしようか? ラベル」


「また、“る”!? うぐぐ……る、る、る、るぅぅぅ……。あっ! ルー! カレーとかの!」


「ルー、だから、わたしが返すのは、う、でいいんだよな」


「だめ! 六花も“る”で返すの! 今そういうルールになったから!」


 鈴が自分ルールを発動させた。

 自分が苦しんだ“る”で六花を苦しめようという魂胆だったのだが。


「別にいいけど。じゃあ、今おまえが言ったけど、ルール」


「おまえには血も涙もないのかよ!?」


 呆気なく、しかも今まさに自分が言った言葉で、挙げ句の果てにはまた“る”で返されたことにショックを受け、鈴が悲鳴を上げた。


 そんな鈴の様子を見て、六花が加虐的な笑みを浮かべた。


「ほら、“る”だぞ。考えろ考えろ」


「ぐぬぬぬぬぬぅ……! じゃあ、ルー!」


「それはさっき言っただろ、バカ」


「さっきのはカレーのルーで、これは大柴のルーだからセーフだもんね!」


 大柴のルーって何だよと六花は内心でツッコミを入れるが、それはもうこの際どうでも良かった。鈴のメチャクチャなルールを全部受け入れた上で負かしてやろうと思ったからだ。


「ルーブル」


 六花がいとも容易く、また“る”で返した。


「ルーブルって何さ!? 六花、それ思いつきで言ったでしょ!?」


「おまえと一緒にするなよ! ちゃんと実在するやつだよ!」


 六花がスマホでルーブルを検索して、それを鈴に突きつけた。


「ルッコラだって実在してたじゃん! おまえ、ルッコラをバカにするなよ!?」


「ああ、はいはい。分かったから、早く“る”から始まる言葉を考えてね」


「る、る、る、るぅぅぅっ……」


 鈴が再び頭を抱え、ルールーと唸るが、何も浮かばずに時間だけが過ぎていった。


「わたしトイレ行ってくるから、帰ってくるまでには考えとけよ」


 六花が席から立った、その時。

 鈴は閃いた。


「しりとりっていうのは、最後に尻を取った奴が勝つんだよぉ!」


 鈴の両手が、六花の尻を鷲掴みにした。


「っ……!? こっ、このバカッ!? 死ねっ!」


 次の瞬間、六花の容赦のない肘鉄が鈴の顔面へとクリーンヒットする。


「くはぁっ……我が生涯に一片の悔いなしぃぃっ……」


 鈴がどこかで聞いた台詞を口にしながら、その場に倒れ込んだ。その顔は安らかだった。


 六花はそんな鈴を放置して、肩を怒らせながらその場を後にした。


(バカ鈴……! ほんと、あいつバカ……! わたしに告白したってこと忘れてるのか……!?)


 ズカズカと歩きながらも、六花の顔は赤くなっていた。それが怒りによるものなのか羞恥によるものなのか、六花自身にも分からなかった。


 あれから六花は、少なからず鈴のことを意識するようになってしまっていた。そんな相手にいきなり尻を揉まれたのだから、六花が動揺するのも無理のない話だった。


 一方で、鈴は鈴で、自分の行動を後悔していた。


(あー、やっちゃったなぁ……。あたしのバカ……。六花、怒ったかなぁ……)


 殴られた顔面をさすりながら、鈴が涙目になる。体と心、どちらの痛みで涙が出てきているのか、鈴には分からない。


 片思いは、少しずつではあるが両思いへとなりかけているのだが、そのことを二人はまだ知らないでいる。

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