生贄って?
評価・ブクマありがとうございます
遅くなった上、短いですが、久々更新です
やっと、この村にも名前がっ…!」
「良き名を賜ったぞ!」
村人たちは口々に喜んでる。
聞き間違いかもしれない。
そんな事は今更言えないし、本当に神の声なのかも怪しい。けれど、人々には聞こえておらず、この村の誰のものでもない声だとしたら。
愛実は神の声が聞ける巫女と言う事になる。
透と澄は、尊敬の眼差しで愛実を見ている。愛実は、そういう事になってしまうような気がしてならなかった。
「さすが、マナ様ですっ!」
「伝承以上の…!奇跡の巫女様!」
透と澄は、畳みかけるように話し出す。
同時に、村長が大きな声を上げた。
「皆!マナ様のお陰で、村の名を賜る事が出来た!今日は重ね重ね佳き日となった!!」
村人たちは、おお!と村長に短く返す。
「今日は祝宴だ!そして、ラエマレ村の誕生祭ともなった事、喜ばしく思う!」
村人たちは、手を叩き、喜びを隠そうとせず、賑やかだ。
「今日は無礼講!この佳き日を皆で祝おうではないか!」
村長がそう言うと、村人たちは酒を飲んだり、歌いだしたり、踊りだしたりした。この上なく、楽しそうだ。見ている方が嬉しくなるくらいだった。
「透ちゃんたちも、お祭り、楽しんできなよ」
お子様には、お祭りって一大イベントじゃないのかな。
「いえ、私はマナ様のお傍に居ります。誕生祭となろうと、従者の役目は変わりませんので」
「私も、マナ様のお傍で何かお役に立ちたいです」
…何で私如きに、そんなに懐いてくれるんだろう。嬉しいんだけどね、美少女に懐かれるなんて、今までないし。二人とも子犬感あって可愛いんだよなぁ。
自身の存在価値を未だ図り切れず、愛実は複雑な心境だった。
「じゃあ、一緒にのんびりしようか?」
「宜しいんですかっ」
「お祭りって終わり時分かんないしね。食べたい物あるなら、食べていいよ。あ、お酒はダメだよ。それ以外なら」
こういう時にしか食べられない物もあると聞いていた愛実は二人に食事を勧める。愛実は先に食べ終わっていたため、残りは二人に食べて貰った方がいいと思った。
「「有難く、頂戴致します」」
素直で宜しい。お腹空いてたのかな。
***
大人は皆、酒が入って出来上がってきた。子供たちは子供たちで、特別なお祭りの雰囲気を楽しんでいるようだ。透と澄も、滅多に食べられない料理を美味しそうに頬張っている。子供らしい姿が見れて、愛実は何だかほんわかした。
「マナ様は、もうお召し上がりにならないのですか?」
気を遣ってか、透が愛実に声を掛ける。
「私、先に結構食べちゃったから…お腹いっぱいなんだ。だから、残りは全部食べちゃっていいよ」
遠慮しないでね、と加えると、透と澄はそれぞれ好きな料理に手を伸ばしたようだった。
「そういえば、村の人たちは、ここへは来ないの?」
愛実は自分が座っている所を指差しながら、透たちに質問した。
「ええ、こちらは従者や巫女のみが参れる場所となりますので」
初めに答えたのは透だった。
「マナ様は巫女であり、使徒であり、神子であります」
続いて、澄が話し出す。
「清めの儀式にて神様の御印を得た時から、このように、神界を模した場で、おもてなしするのが慣例です」
「へ、へぇ…」
よく分からなかったが、愛実はとりあえず頷いた。神界って何だろう。
「この村の設えでは、神界と呼ぶには足らないかもしれませんが…簡単に人を招いてはならない場なのです。村人は、マナ様の御姿を目にする事だけで十分なのです」
要は、神聖な場で、限られた人間のみが愛実に会う事を許されている事になる。
神様みたいな扱いだな。
「神様には会えないの?」
愛実は、自分ですら、この囲われ方であるなら、神に会うのは困難なのではないかと、ふと疑問に思った。
「通常、人間は神様に会う事は出来ませんが…」
「でも、マナ様なら、きっと!お許し頂けますっ!」
普通の人ではだめなのかな。
愛実は、リミタリオに言われた「生贄」はこの世界では変わった存在なのかもしれない、と思い付き、
「えっと…。それって、生贄ってやつ、かな?」
と、質問した。
「?」
2人とも首を傾げている。
「あの、不勉強で申し訳ございません…イケニエ?とは、何ですか?」
恐る恐る、と言った様子で聞いてきたのは澄だ。
「え」
この村では生贄と言った風習がないようだった
「神様に捧げるもの?とかって感じ…だと思うんだけど。供物?っても言うのかな」
「この村では、神様には祈りを込めた、舞いや歌を捧げますが…」
「それ以外は特に…」
じゃあ…リミタリオの「生贄になれ」ってどういう意味なんだろう。
3人揃って、小さく首を傾げた。
でも、会わなきゃ始まらないよね。一応、本物か分かんないけど…神様にお願いされて、この世界に来た訳だし。
「やっぱり、ご挨拶とかした方がいいのかな?」
「「会いに行かれるのですか!!」」
息がぴったりと合っていて、愛実は驚いた。
「え、ええっと、会いに行った方がいいのかなーって思ったんだけど…」
「会いに行かれるのであれば!」
「「是非、私も!!」」
息ぴったり、パート2。
愛実は、ふふ、と笑う。
「「え?」」
パート3?
と愛実が思ったところで、場の雰囲気が変わった。
「透は巫女ではないのだから、参神には不相応かと?」
「澄こそ。従者でもないくせに、御供しようなんて、非常識も良いところだ」
どうも、雲行きが怪しい。
「従者はあくまで村内の話。参神するのであれば、巫女がお連れするのが道理だわ」
「巫女、巫女って。そんなに巫女が偉いって言うの?」
2人とも、厳しい口調になって、険悪なムードに突入していく。
思い出されるOL時代。お局様同士のマウンティング…
愛実は頭を押さえた。
「巫女を愚弄する気?!」
「大体、澄は反省が足りないんじゃないのか。死罪一歩手前、いや目の前に迫ってたのをマナ様に救って頂きながら、御供をしようだなんて。今の澄は、マナ様のご厚意があってのものだって言うのを理解してるのか?」
「そ、それは…」
「村唯一の巫女である事に固執し、自失した挙句、神様から受けたお叱りの暴風ををもう忘れたのか?」
透ちゃん、傷口に塩塗りまくるタイプー。
「二人とも、ちょっと」
愛実は、二人の間に入る。
「私はこの村について、まだ詳しくないし、参神?についても、決まりとかがあるか分からないんだけど…もし、可能なら二人に付いて来てほしいな」
「「マナ様…」」
「それに、二人で喧嘩してるのは、あんまり見たくないなーって思うんだけど」
女子同士の口喧嘩って、自分が関係しなくても、聞いててドキドキしちゃうんだよね。悲しき陰キャ。
愛実は自嘲する。
「「愚かな私をお許し下さい」」
2人とも、膝をついて首を垂れた。
「神の御許にマナ様と共に参れるのでは、と、浅ましい思いを抱きました。巫女として、お恥ずかしい限りです」
「従者の身でありながら、マナ様のお気持ちを慮る事を忘れ、冷静さを欠いた、悪しき言葉をお耳に入れました事、お詫び申し上げます」
「そこまで、謝らなくても…。二人が仲良くしてくれてば、それでいいよ」
2人は同時に顔を上げる。
「マナ様の寛大なる御心に感謝致します」
「参神につきましては、未熟な2人ではございますが、御供出来れば、幸甚の至りと存じます」
急に、改まった姿を見て、愛実は苦笑した。
「あ、うん。よろしく、ね」
とりあえず、3人で神様に会いに行く事になった。
でも、神様って何処に居るんだろう?