1.マスコットとの出会い
週3日のペースで通っている学校の授業を受け終わり、私は電車に乗って家へ向かっていた。
満員でもガラガラでもない車内を見渡し、SNSでも見ようかと鞄からスマホを取り出そうとした私は、
「あれ?」
鞄に見覚えのない手のひらサイズのマスコットが括り付けられていることに気が付いた。
「おかしいな、付けた覚えないんだけど……」
呟きながらマスコットを摘まんでよく観察してみる。
どうやらウサギの形をしたぬいぐるみのようだ。ピンク色で可愛らしい。
今度学校のクラスメイトにマスコットを失くした人がいないか聞いてみよう。誰かが間違って私の鞄に付けてしまったのだろう。
私はスマホを手に取り鞄を肩に掛け直した。その時はまだ、鞄に付いたマスコットがぴくりと動いたことに私は気付けなかった。
「ただいまー」
自室に入り鞄を床に置き、棚の上に所狭しと並べられたぬいぐるみにおもむろに声をかけ、ベッドに豪快に倒れこんだ。
「あー疲れた……お疲れ様、私」
自分で自分を慰めるという、他人が見れば苦笑するようなことを呟きながら寝返りを数回打ち続けた。
そしてふと思い出して上半身を起こした。
「あのマスコット、どこかに持ち主の名前とかイニシャルとか書いてないかな」
ベッドから降りて鞄を机の上に移動し、マスコットのボールチェーンを外した。
……くまなく見てみたが名前らしきものは何も書かれていなかった。
「まぁ小学生じゃあるまいし、名前なんか書くわけないよね。ストラップのマスコットなんてなおさら……」
はぁっとため息をついてマスコットを机上に置こうとした次の瞬間、マスコットの四肢と耳がまるで生きているように動き出した。
「ひっ!?」
マスコットに球体関節はなく、仮にあったとしてもひとりでに動き始めるはずがない。
そして。
「こんにちは、初めまして! 佐藤由花ちゃん!」
指の間から零れ落ちたマスコットは机の上で立ち上がり、私を見上げて満面の笑みを浮かべた。