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エルベイラ様

作者: 広幡桐樹

久々に両親に顔を見せようと思い、休日に実家に行った。相当長い間来ていないのだが、実家の見た目は全く変わっていないのがどこか可笑しくもあった。家の鍵を使って勝手に入っていくのは何となく躊躇われたので、ドアの横のインターホンを押した。

しばらくしてドアがガチャリと開かれ、母が出てきた。

「あら、久しぶりねえ。」

「最近顔見せてなかったから、久々に帰ろうと思って。」

「まあまあ、とりあえずそんなとこいないで中に入って。寒いでしょう。」

母の言う通り外は寒かったので、僕は家の中に入った。家の中も特に変わったところはなかった。リビングに入ると、父が炬燵に入って新聞を読んでいた。

「おっ、裕也か。久しぶりじゃないか。」父が顔をあげて言った。

「うん。」

その時、何か見慣れぬものが壁に取り付けられているのに気づいた。

「ねえ母さん、あれは何?」

「あれはエルベイラ様を祀ってるのよ。あんたが家を出ていってから取り付けたの。」

遠くから見ていたからよく分からなかったのだが、それはどうやら神棚のようなものであった。

「エ、エルベイラ?」

「そう、エルベイラ様。あんたもきっと一度は祈ってるはずよ。この神様は本当に頼りになるの。」

エルベイラなんていう神様は今まで一度も聞いたことがないのだが、本当に信仰したことなどあるのだろうか。それに"頼りになる"という言い方も神様に向かって言う言葉としては少し軽々しい。

「頼りになるって言ってるけど、まずエルベイラ様って何の神様なの?」

「何の神様って言われても困るわよ、ねえ?お父さん。」

「何かの神様っていうか、何でもとりあえずエルベイラ様にお祈りするって感じかなあ。」

「どんなことも?」僕は聞いた。

「そう。例えばお父さんが就職活動をしていた時、エルベイラ様に『受かってますように。』と祈ったんだよ。そのおかげか、行きたかった会社に無事に内定をもらったんだ。」

「お母さんも学生の時、学校に遅れそうになってエルベイラ様に『遅刻しませんように。』って祈ったのよ。あんたも受験の時とかは祈ったんじゃない?」

思い返せば僕も大学受験の合格発表の会場で、神頼みで合格を祈った。とても不安だったけれども無事にその大学には受かり、辺りを気にせずその場で大喜びしたことを今でも覚えている。

つまり、その時の神様がエルベイラ様だったのか?確かに勉学のことではあっても、天神様にお祈りをした覚えはないのだが…

そう言えば、他にも数え切れないぐらい神頼みをしたことがある。『親友と同じクラスになりたい。』といったものから『トイレに間に合ってくれ。』といったしょうもないものまで、様々な内容の神頼みをした。成る程、その神頼みの対象が全てエルベイラ様ならば、確かに父の言う通り、僕は何でもエルベイラ様にお祈りしていることになる。

「でも何でもっと前から、この神棚を作らなかったのさ。」

「当時は自分勝手だったのよ。」

「自分勝手?」

「勝手に神様にお祈りしといて、願い事が叶ったら嬉しさで神様のことなんて忘れて。それってあんまりでしょう?いかにも日本人らしいって感じではあるけどね。」

この時点で、僕はもう両親の行動の意味をほとんど納得できていた。しかし取り付けられた神棚を見ていると、やはり1つの疑問が浮かんで来るのだった。


e l b a i l e r

“エルベイラって外国の神様じゃないの?”








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― 新着の感想 ―
[一言] エルベイラ様どんな姿してるのか、気になりました。
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