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じょそう趣味

作者: 天之屋エニシ

 新しい趣味を始めました。

 助走です。女装でも除草でもなく、助走なのです。

 あっ今、ひきましたね。

 まあ、それも仕方がないでしょう。

 私だって思いついたときは「我ながら何を馬鹿な」と、ニヒルにわらってみた物です。

 だけどやってみると、これがなかなかどうして、奥が深い。

 まず大前提としてそれは、真の目的であってはいけません。だって、助走だから。

 例えば、高飛びでバーを越える前とか。

 例えば、幅跳びで踏み切る前とか。

 あくまでも補助的な物なのです。でないと、ただの短距離走になってしまいます。

 さらにそれは、あまり長距離であってもいけません。でないと、本来の目的の前に疲れ果ててしまうから。

 ほら、だんだんとこの趣味の難しさが解ってきたでしょう。

 えっ? ちっとも解らない?

 困りましたね。

 では、私の経験を例に、少し詳しく説明しましょう。


 基本的にスポーツが嫌いな私。助走を、高跳びや幅跳びの準備でするという選択は、まず外しました。

 では、何のためにしましょうか?

 横断歩道を駆け抜ける前、ってのはどうでしょう。

 何度かやってみました。

 しかし、信号機がうまい具合に青になっていない。歩行者用は、押しボタン式が多いからです。赤では、一旦停まる必要があるので助走になりません。

 かと言って、赤から青に変わった瞬間にちょっと引き返して助走を開始すると、だいたい、また赤に戻ってしまう。

 ならば、と、信号機のない横断歩道に挑戦しました。車にかれそうになりました。

 小学校で、横断歩道を渡るときは左右を確認しましょうと教えるのは、極めて妥当だったと痛感しました。

 世の中に命懸けで取り組む趣味は存在しないとは言いませんが、助走がそれだとは思えません。

 別の方法を考えましょう。悩みました。

 いつしか雨が降り出し、傘を持たない私を容赦なくズブ濡れにしていきます。足下には水溜まりすら出来てきました。

 んっ? 水溜まり?

 そうだ、水溜まりを飛び越える前の助走をすればいいんです。

 早速、数歩さがって、力を振り絞り、助走開始。

 お世辞にも華麗とは言い難い跳躍でしたが、相手は出来たての水溜まり、見事に飛び越えることに成功しました。

 うん、これぞ助走の醍醐味。

 嬉しくなった私は、立て続けに、助走、跳躍、水溜まり越え、助走、跳躍、水溜まり越えと、まるでジャンプを覚えたての保育園児のように繰り返しました。

 おっと、泥濘ぬかるみ型だ。滑らないように気をつけよう。

 おっと、アスファルト型だ。着地の衝撃に注意だ。

 おっと、瓢箪ひょうたん型だ。後が膨らむ分、踏切には強めの力が必要だな。

 段々、上手に跳ぶコツが掴めてきました。水溜まりを吟味する目も培われてきました。晴れより雨、雨の真っ最中より雨上がりが好きになりました。

 が、なんと言うことでしょう。知らず知らずのうちに私は、本末転倒の罠に陥っていました。

 助走をするための水溜まり越えだったのに、水溜まり越えをする為の助走をしている。典型的な手段と目的が逆になってるってやつです。

 これでは、美味しいラーメンを食べたくて始めたラーメン屋巡りがいつの間にか目的になって不味いと評判の店にまでわざわざおもむくラーメン博士、と、同じではないですか。

 危ないところでした。私は猛烈に反省しました。

 これからは水溜まり以外にも、いろいろ飛び越えなくてはいけません。


 長い説明になってしまいました。でも、助走を趣味に持つ大変さは、理解してもらえたのではないでしょうか。

 そんな訳で、紆余曲折の末やっと会得できた趣味、助走。

 もしよかったら、皆さんも是非お試しあれ。


おしまい

練習として、前にブログで発表した小説を投稿しました。

次は、連載の形式に挑戦してみます。

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