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わたしのスーパーカップ

作者: おその

あたりはしんと静まりかえり、ページをめくる音と、時折車の通る音だけが響いていた。最近は夜が更けるまでこうして本を読むのが日課になっている。人の喧騒から逃れ、唯一本に集中できる貴重な時間であった。私はこの時ばかりは好きな物語の世界に身を投じ、何にも邪魔されず思い思いの世界観を楽しんだ。



喉が渇いた。

喉からおかしな味がする。首を動かすたびに咽頭が粘着しくっつくようで、クチャラネチャラとおかしな音まで立てている気がしてくる。そうだ、今日は夕飯以降何も飲んでいない。いつもなら風呂上がりにお茶を一杯飲むが、今日はそれも飲まなかった。


ああ、喉が渇いた。

本に集中していた時は気にもとめなかったが、気づいた今となってはもうどうしようもなく気になってしまい、私はもはやその事しか考えられなかった。咽頭がくっつく不快感に我慢ならず冷蔵庫へ向かう私はある一つの存在を思い出した。そう、先日一つだけ買ってそのままにしておいた抹茶味のカップアイスだ。


私は思考する。現在時刻は深夜零時。

もはや理性など残っていなかった。




木べらのスプーンでアイスをすくう。まるで金魚すくいでもしているかのようにアイスの表面に沿ってヘラを滑らせる。木べらの上で踊るように丸まり、表面が毛羽立つ。斑らに晦渋さえ滲ませるそれは、力強く、鬱として茂る森の印象を私に植え付ける。この木々は緑色の大地から得た力をもって今ここに存在している!私はそのエネルギーへの期待を胸に膨らませた。たまらず口に運ぶ。そのエネルギーは舌の上でつんと刺激を与えた後、口の隅々を満たすように広がった。それは咀嚼と共に味蕾へ染みこみ、ほろ苦いその甘さはわたしにたまらぬ充実感と幸福をもたらして消えてゆく。私はそのひと口ひと口が、砂漠を旅する旅人の水筒の、最後の一滴であるかのように余すことなく口へ迎え入れた。




溶けた大地の跡地は滑らかで、静謐な日本海の姿を連想させた。母なる海は、児らが去った後何を考えているのだろう。

私のエネルギーとなった海の児は、私に満足と幸福を与え残し、静かに消えていった。





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