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エピローグ

―紅蓮、逃げて―

 その声が聴こえた後、銃声が響き、黒犬は俺を庇い、銃弾が当たり、その場で倒れる。その音の方を見ると、義兄が銃を持っていた。どうやら、彼が撃ったらしい。

 彼はもう一度引き金を引こうとしていたので、白蛇が彼を拘束する。

「   、嫌です。私を置いていかないで下さい」

 青い鳥にしては珍しく動揺し、泣き叫んでいる。白蛇は急いで黒犬の近くに駆け寄り、応急処置をしている。当たり所が悪かったのか、白蛇の顔が強張っている。

「………ここでは大した治療が出来やしない」

 白蛇は呟く。ここではまともな治療ができないようだ。

 黒犬が死にかけているのは俺の責任だ。

「紅蓮、何を」

「………俺の魔力を与える」

 生憎、俺は治療魔法の類は使えない。俺の持つ魔力は炎の因子。免疫力を高めることができるはず。少しは時間稼ぎはできるだろう。

「だが、君の魔力はもう残っていない。これ以上、使えば………」

「それ以外、方法がないだろう?白蛇は空間魔法を頼む」

「そうだが………」

「あの姿になることよりも、黒犬を死なせてしまった方が後悔する」

「………分かった。それなら何も言わないさ」

 白蛇は観念した様子で言う。俺は黒犬にさわる。

 あの姿は俺にとって、晒したいものではない。だが、それでも、黒犬は助けたい。青い鳥を悲しませたくない。白蛇に後悔はさせたくない。

 彼らは俺にとって、大切な友人だから。


***

 俺が目を覚ますと、ベッドにいた。そして、

「チョコレートも捨てがたいですが、クッキーも捨てがたいです」

 横には寝言を言っている青い鳥の姿があった。

 銃弾で撃たれたところまでは記憶にある。だが、それ以降の記憶はない。

―あの後、君は3日ほど、生死を彷徨っていたんだよ―

 スノウの声がきこえたので、その方向を見ると、ソファーで寛いでいた。

―撃ちどころが悪かったようで、治療は難航してたようだよ。でも、流石、白蛇だよね。ちゃんと、治しちゃうんだから―

 まあ、白髪変人の性格は異常だが、医者としては優秀である。

―青い鳥は今まで君に付きっきりだったんだよ。赤犬が変わると言っても、頑なに、君の傍にいるって言って―

 スノウはそう言って、青い鳥を見る。どうやら、俺が目が覚めるまで、寝ずに看ててくれたらしい。流石に、三日も寝ていなければ、睡魔には勝てないか。それに、こいつは長時間睡眠者ロングスリーパーだ。三日間起きてただけでもどれだけ凄いことか。起きたら、お礼を言うか。それとも、クッキーを買っておいた方が喜ぶか?

「スノウ、あの後、どうなったか分かるか?」

 紅蓮さんの義兄は勿論、西の町の人、リオ達やダズさんのことも気になる。

―紅蓮のお兄さんは城で事情聴取。家宅捜査したかったみたいだけど、全壊状態だし。紅蓮や青い鳥の証言から、西の軍が不正をしていることは濃厚で、西の軍の上層部の捜査も乗り出しているね。反乱軍の方は静かにしているみたいだから、様子見していると言うところかな―

 反乱軍の方はまだ解決していないが、戦争に発展していないだけでも上出来だろう。

「………クッキーが喋っています」

「頭、大丈夫か?クッキーに口はないだろ」

 クッキーに口なんかあったら、恐ろしくて食べられやしない。

「貴方ですか!?本当に、貴方ですか?鏡の中の支配者(スローネ)が変装した姿じゃありませんか?」

「何で、鏡の中の支配者(スローネ)が出てくるんだよ」

 俺はあんな人でなしで、鬼畜な人ではない。

―青い鳥がそう言うのも無理ないね。鏡の中の支配者(スローネ)とか言う人、君に変身して、青い鳥の前に現れたんだから。その後、青い鳥と赤犬さんに半殺しにされたけど―

 スノウはそんなことを言う。俺が生死を彷徨っている間、鏡の中の支配者(スローネ)はそんなことをしていたのか。鏡の中の支配者(スローネ)よ、それは冗談としては通用しないだろ。

「本当に本当に貴方なんですか?それなら、みんなに知らせないといけません。赤犬さんも心配していました」

 青い鳥はそう言って、病室から出ていく。本当に、あいつは嵐のような人間だ。お礼を言い忘れたじゃないか。

 すると、青い鳥と入れ替わるように、白髪変人が姿を現す。いつもの白衣姿だが、腕に持っているのは赤い鱗を持った大トカゲ。

「どうやら、目が覚めたようで良かった。あのままお亡くなりになるんじゃないか、と冷や冷やしたものだからね。君を死なせてしまったら、医者としての汚点を増やすところだった」

「どうやら、あんたには命を救われたようだな。ありがとう」

「命を救うのは医者の仕事さ」

 彼はそんなことを言ってくる。確かに、彼は医者だ。人を救うのが仕事だ。ライセンスの時、彼は給料の為にライセンスを取りに来た、と言っていたが、どうして、医者になろうと思ったのだろうか?

「なあ、あんたはどうして医者になろうとしたんだ?」

 彼は貴族だと言っていた。そんな彼が何故医者を目指したのだろうか?貴族だったら、宮廷魔法使いを目指すのが普通だ。彼の実力なら、宮廷魔法使いになれる。何か、理由があるのだろうか?

「どうして、医者になろうとした、か。私の家は伯爵家で、結構格式のある家だよ。私の家は優秀な魔法使いより、優秀な宮廷魔法使いが多い。医者は誰もいない」

「なおさら、何でだ?」

「最初からひかれたレールの上を進むのが嫌だったと言うのもあるが、一番の理由はこれかな。どうして、生き物は簡単に死んでしまうのか?」

「は?」

 一瞬、彼が言っていることが分からなかった。生あるものは死も存在する。確かに、例外は存在するが、それは考えなくてもいいだろう。

 生と死は常に表裏一体として、存在する。俺達、人はそれを知っているからこそ、生を大切にするはずだ。

「人に限らず、生き物は簡単に死ぬ。そんなことを思ったのはいつ頃だったかな?虫をただ握っただけなのに、死んでしまった。なんで、そんな簡単に死んじゃうのか、と思った。君も知っての通り、私は特異体質のようで、深い傷でなければ、そう大事には至らない。幼い頃はみんな同じだと思っていたが、外の世界に触れる度に、自分と他の人間は違うことに気づいた。そして、人の命は儚いことを知った。だからかな。それなら、私が死なせないようにすればいい、と思ったのは」

 くだらない理由かもしれないと思うよ、と彼は自嘲する。それを聞いて、彼のいいたいことを理解する。

 彼の能力は普通の人にはない能力。いわゆる、特異能力。教会側が彼の能力を知ったら、欲しがりそうだ。だが、彼は断るだろう。理由など言い訳に過ぎない。彼が人を助けたいと言う気持ちが本物だったら、それでいいと思う。

「私だけが答えるのはアンフェアだから、私も尋ねよう。君はどうして仕事に就かないのかい?君を欲しがるところはたくさんあるだろうに」

 彼はそんなことを尋ねる。誤解してはならない。就かないのではなく、就けないだけである。確かに、職を選ばなければ、就くところはあるだろう。強いて言えば、

「まだ、俺が生きがいと感じる仕事に出会っていないからなのかもしれません」

「………そうか。まあ、前までのようにはきつくは言わないさ。君が納得できるまで仕事を選ぶといいさ」

 彼はそう言って、大トカゲを床に下ろし、病室から去ろうとする。ちょっと待て。

「何で、大トカゲを置いて行くんだよ!!」

 それはあんたのペットだろ。

「僕はこれから病室回りをしなければいけないんでね。流石に、彼を抱いて、病室回りするわけにもいかないだろ?」

 子供は喜びそうだけど、と彼は言う。だからって、俺の所に置いていくのか?

「別にいいじゃないか。君のペットがいるんだから、大トカゲの一匹、二匹くらい預かってくれても。それに、彼は彼で、話があるみたいだから」

 じゃあ、また引き取りにくるよ、と彼は姿を消す。大トカゲが話をすることなどできるのか?普通に考えたら、無理だ。あの白髪変態は何を言いたいんだ?

 俺は大トカゲの方を見ると、大トカゲは居心地悪そうにきょろきょろと周りを見る。主人と離れて、寂しいのか?

―君って、本当に鈍感だよね―

 スノウはそんなことを言ってくる。

「鈍感とは失礼だな。鈍感と言うのは親父のことを言うんだ」

 サングラス、アロハシャツ、カンカン帽の変人セットを常に装備する見た目はゴロツキな不良親父だ。俺は親父ほど鈍感じゃない。

―彼は例外だよ。と言うか、彼を人間と言うカテゴリ―に入れていいのか危ういものがあるし―

 親父は人として欠けているところがいくつかあるが、それは流石に言いすぎだと思うぞ。

―彼はただの大トカゲ君じゃない。彼は紅蓮だよ―

「………え?」

 本当ですか?俺の知っている紅蓮さんは綺麗な赤毛をした青年だ。大トカゲじゃない。

―君を救う為に、魔力が残り僅かにも関わらず、魔法を使ってくれたんだよ。彼は君の命の恩人だよ。感謝すれど、偏見を持つのは失礼だよ―

 スノウはそう言うが、紅蓮さんと大トカゲが同一人物と言われても、信じられないのも事実だ。まあ、紅蓮さんがその大トカゲでも侮蔑するつもりはない。俺の周りには銀色の毛並みを持った狼さんや、ブタとウサギの合いの子と言った新種生物がいるのだから。

「あの、貴方は紅蓮さんですか?」

 確認の為に尋ねてみる。

―………ああ―

 スノウとは違い、低い声が聴こえてくる。本当に、本当ですか?カニスが銀色狼さんに変身するのだから、紅蓮さんが大トカゲに変身するのはおかしくないか。それより、大トカゲさんもテレパシーを使えるのか。もしかしたら、銀色狼さんも使えるのかもしれない。

「そう言えば、俺に話があったんでしたよね?」

 白髪変人の話だと、そう言うことになる。

―お前には謝っても、謝りきれないことをしたと思っている―

「それは紅蓮さんの所為じゃありませんよ。貴方はそうせざるを得なかったのも事実ですし」

 俺も、青い鳥も気にしていない。紅蓮さんが俺達を殺そうとしていたのは事実でも、俺達は誰も死んでいない。

「それに、俺達は城での件で貴方に助けられたようですし」

 もし彼が協力してくれなければ、俺は黒龍さんを倒すことはできなかったかもしれない。

―そのことか。青い鳥が死ぬと、あいつらが悲しむと思ったからだ―

 そう言えば、施設の子達と青い鳥は良く遊ぶ仲だったか。俺達は間接的に、施設の子供達に助けられたということか。

「そう言えば、彼らは大丈夫ですか?施設は全壊でしたが」

 俺が助けに来た時にはみんな無事だったが、施設は無くなってしまった。彼らは大丈夫だろうか?

―白蛇の奴が別荘を貸してくれてな。そこで、暮らしているようだ。施設の方も国が援助してくれるようで、立て直し工事中のようだ―

 それなら、良かった。彼らがひもじい想いしなければならない理由なんて何もないのだから。

―義兄はクリムゾン家の資産を使いきってしまい、お金に困っていたそうだ。あの施設に援助することができないほどに、な。だから、俺を殺し、その上、施設の子供達を殺し、そこを売ろうとしたそうだ―

 義兄が何の為に使っていたかは不明だが、と彼は言う。彼の事情を知ると知る度に、怒りがわいてくる。自分勝手な言い分で、紅蓮さんや子供たちが死ななければならない理由が何処にある?

 やはり、一発ぶん殴っておきたかった。おそらく、彼にあったら、一発だけでは足りないだろう。顔が変形するほど殴ってしまうかもしれない。

―ふふふ。お前は青い鳥と似ているな。青い鳥もお前のことがなければ、義兄の所に行って、ぶん殴りたかったと言っていたからな―

 流石の青い鳥さんも怒りが抑えられなかったか。

―まあ、お前達がそんなことをする前に、義兄は地獄に遭っていると思うが―

 事情聴取は王と黒龍さんが同伴しているそうだ、と彼は言う。エイル三世陛下はとにかく、黒龍さんはそう言ったことは好きじゃなそうなので、俺達の代わりに半殺しにしてくれるかもしれない。

―お前が助けてくれなければ、あいつらは死んでいたかもしれない。お前達には感謝しきれない―

「俺はそんな大層なことをしていません」

 青い鳥風に言えば、きっかけを作っただけ。

―それでも、構わない。俺は大切なものを失わずに済んだ。それだけでいい。黒龍さんの言う通り、俺には鎖が必要のようだ―

「………鎖ですか?」

―そうだ。自分の理性を繋ぎとめる鎖。あの件で、俺は理解したよ。自分が人間だと思っても、俺は人の皮を被った化け物だったっていうこと―

 理性がぶっ飛ぶ何をしでかすか分からない、と彼は言う。

「大切なものを失くしたら、みんなそうじゃないんですか?紅蓮さんは化け物ではありません。人です」

 紅蓮さんほど、人を大切にする人はいない。化け物と言うのは黒龍さんみたいな人を言う。

―そう言ってくれることは嬉しい。だが、あの時、破壊衝動に駆られた。あいつらのいないこの世界はいらない。それなら、一層のこと、壊してしまおう、とな―

 彼は自嘲めいたことを言う。

―かの“蒼狐”もそうだったと聞く。彼は自分を支えていたものが壊れ、壊れていったと。あいつらが死んでいたら、俺もそうなっていただろう―

 “蒼狐”。そう呼ばれていた魔法使いがいる。今、彼は“鏡の中の支配者(スローネ)”と名乗り、執行者となっている。彼のことは赤犬さんから聞いたことがある。彼は壊れるまで壊れた。そんな彼を救う為に、彼の師匠である赤猫さんの命を引き換えに、暴走は止まった。

 もしかしたら、優しすぎるからこそ、簡単に壊れてしまうのかもしれない。

―経験者から忠告だ。お前は鎖を外すな。鎖をはずしたら、俺たちみたいになる―

 彼は真剣な様子で言う。

「鎖を外すな?どう言うことですか?」

―鎖はこの世界に繋ぎとめている存在、大切な人のことだ。俺の鎖はあいつらだった―

 彼の言葉を聞いて、赤犬さんや両親、弟達らが浮かんでくるが、最初に浮かんだのは青い鳥の姿だった。

 あいつには死んで欲しくない。いなくなって欲しくない。

 青い鳥がいなくなれば、俺はどうなるんだ?壊れるのか?世界を壊そうとするのか?

―俺たちみたいな奴らには必要だ。鎖は付けておかないと、心配になる―

「………そうか。お前は鎖をがっしりと付けて貰うのがご希望か」

 聞き覚えのある声が聴こえてくる。扉の方を見ると、白フード姿の黒龍さんと翡翠の騎士姿のエイル三世陛下がいた。エイル三世陛下がここにいるのが不思議だが、それよりも、黒龍さんが持っている首輪付きのゴッツイ鎖の方が気になる。

「こんにちは。黒龍さん、俺達、拷問されるって言うことはないですよね?」

 一応、反乱軍の交渉と言う任務は失敗した。黒龍さんがご立腹なのも理解できるような気がする。

「お前が拷問して欲しいと言うなら、してやってもいいが。あの任務は失敗する可能性もあった。任務は失敗したが、軍の悪事を暴くことが出来た。それだけでも評価しなくちゃいけねえしな。それに、そのお陰で、西の街は比較的に平和と言う話だし、反乱軍の行動も少なくなったと言うことだ。今回は別件だ。病院に、赤い鱗を持った大トカゲがいると言う話を聞いてな。姫に献上しようと思ったわけだ」

 これで、思う存分、使える、と黒龍さんは飛びっきりの笑顔を見せる。なるほど。紅蓮さんの実力が分かったことが嬉しいのか。炎精さんだから、魔法陣破棄もお手の物。あの黒龍さんが逃がすとは思えない。

 一方、生命の危機を感じた紅蓮さんは黒い煙を吐き出して、逃走を図る。

「けほ、けほ。この野郎。逃がすか」

 黒龍さんは鎖を振り回しながら、追い回す。何回目か知らないが、黒龍さんと紅蓮さんの追いかけっこの幕が上がったようだ。

「………全く、あいつは何しに来たんだ」

 一方、エイル三世陛下は呆れた様子を浮かべていると、

「黒龍が大トカゲを捕まえようとしていましたが、あの大トカゲを売ったら、大金になるのですか?」

 黒龍さんと入れ替わるように、青い鳥が入ってきた。

「お前は紅蓮さんを売るつもりか?」

 こいつはあの大トカゲが紅蓮さんだと知っていて、そう言っているな。

「そんなつもりはありません。興味本位です」

 こいつはそう言う。もし大金を積まれたら、売りそうで怖いがな。

「青い鳥が来たことだし、あいつは放っておいて、話をするか」

 エイル三世陛下はそう話を切り出す。

 軍と反乱軍の衝突はやはり軍が原因だったそうだ。西の軍はゴロツキのチームと結託しており、彼らの悪行を見知らぬ振りをしていたそうだ。だが、先代からエイル三世陛下に代わり、西軍と反乱軍の衝突が頻発し、国が調査に乗り出した為、このままでは危ないと感じた西の軍はクリムゾン家に計画を持ちだした。金が必要とは言え、どうして、そこまでリスクを起こしたのかと言う疑問が残る。もし失敗し、それが明るみになったら、どうするつもりだったのだろうか?

「クリムゾン家はどうなるのですか?」

 あんなことになったのだから、男爵の位を奪われても仕方がない。

「男爵の位を剥奪にするのが普通だが、その場合、別の問題が生じるからな」

 あいつも知っていたなら、前持って教えてくればいいものを、彼はぼやく。

 別の問題とはもしかしなくても紅蓮さんのことだろう。紅蓮さんが炎精と教会が知れば、黙ってはいないだろう。もしかしたら、教会は紅蓮さんのことを知っている可能性は大いにある。その場合、紅蓮さんが男爵位を剥奪され、平民となれば、保護するのは間違いない。

「クリムゾン家が没家になれば、間違いなく教会は手を出すだろう。そうでなくても、紅蓮の身柄を要求されている。紅蓮は宮廷魔法使い(こっち側)だからか、強くは言ってこないが」

 紅蓮さんは教会が認知する前から宮廷魔法使いだったわけだから、教会も強くは言えないのだろう。教会の規則はよくわからないが、神子の意思は尊重しているようだから。紅蓮さんが宮廷魔法使いを続けたいと言えば、教会が無理に保護はできない。黒龍さんやエイル三世陛下が脅迫していたなら、話は別だが。

「近い将来、教会が紅蓮を保護するにしても、時期が悪いのは事実だからな」

 確かに、軍の魔法使いと入れ替えしている最中で、不安定な時期だろう。そんな中で、紅蓮さんが抜けるのは国にとっては痛手だ。大幅の戦力ダウンになるだろう。紅蓮さんは認めないだろうが、黒龍さんに次ぐNo.2は間違いなく紅蓮さんだから。

「そう言った事情から特別処置で、紅蓮が継げるようにするつもりだ。不幸中の幸い、クリムゾン家の血は引いてるみたいだからな」

 それって、つまり。

「先代の子らしいな。ただし、本妻の子ではないみたいだが」

 紅蓮さんはクリムゾン家当主になる資格はあるということか。

「………その場合、分家がいちゃもんつけてきませんか?」

 確かに、青い鳥の指摘通り、先代の愛人の子が当主になったら、横槍が入ってきそうだ。

「だろうな。今回の件を紅蓮の手柄にして、報酬としてクリムゾン家の当主に任命するのが無難だな。屋敷で、元当主と紅蓮の会話を聞いていた執事も牢にいる。当主に冤罪の一つ被せても、罰は当たらんだろう」

 そうするしかないだろう。紅蓮さんは事情がどうあれ、片棒を担いでしまっている。不問にするのは勿論、分家を黙らせるためには手柄も必要だろう。

「紅蓮さんが当主となるのなら、安心です。彼はきっといい当主になります」

「当主と黒龍さんの地獄の特訓で、過労死しなければいいけどな」

 紅蓮さんのこの後待っているだろう未来には心底同情する。

「それより、青い鳥。黒龍を探しに行ってくれないか?この後、会議があるんだ。早く帰らなければならない」

 俺が捜しに行きたいが、この恰好では目立つ、と彼は言う。とは言え、この変装を解いたら、もっと目立つことだろう。

「そうなのですか?分かりました。そう言うことなら、捕まえてきます」

 青い鳥は病室から出ていくと、エイル三世陛下は青い鳥がいなくなったことを確認し、

「………青い鳥がいなくなったところで、お前に言っておかなければならないことがある」

 彼は真剣な様子を見せる。

「男爵の取り調べで分かったことが一つある。どうやら、西の軍とは別口で、青い鳥の生死を問わないから、青い鳥を引き渡して欲しいと言う依頼があったそうだ。そこは紅蓮からも聞いているから間違いないだろう」

 流石に、それが誰かまでは分からなかったが、と彼は言う。青い鳥に感謝している人もいれば、恨んでいる人も少なかならずいる。そう言う連中の仕業だろうか?ただ、青い鳥の身体をどうするつもりなのかは気にかかるところだが。

「そいつらが何者か、目的は何なのか知らないが、またそいつらは接触してくるかもしれない」

「分かりました。気に留めておきます」

「そう言えば、黒犬。前はあの話ができなかったが、どうなった?」

 彼は思い出したかのように話しかけてくる。あの話?

「何か、約束しましたか?」

「約束と言うのとは違うが、前見せてくれた女性との縁談だ」

 彼からそれを言われて、ようやく思い出す。前、黒龍さんにそんなこと言われたが、冗談だろう、と思い、忘れていた。まさか、本気?

「………エイル国王、このまま誤解しておくのもなんですから、この際だから言います。あれは俺です」

 俺がカミングアウトすると、彼はきょとんとする。

「あの美しい女性がお前?」

「はい。前に、青い鳥に女装させられたのですが、その時、撮ったようです」

 俺にしては人生最大の汚点だ。

「………あれが黒犬」

 彼は何かを考えるかのように、呟く。

「同性婚と言うのもあると聞く。師匠の話だと、運命の人は女ではいけないと言うわけじゃないと言っていた」

 いやいや。貴方は良くても、俺はノーです。

「黒犬、付き合おう」

「貴方はこの国を滅ぼしたいのですか!!」

 国王が男性と結婚すると言って、国民が納得するはずがない。

「お前を正室にするのは不味いか。なら、側室にどうだ?」

「謹んでお断りします」

 何で、俺の周りはおかしい奴ばかりが多いんだ。俺は男だ。俺が女装したら、好みだとぬかす奴らが何でいるんだ。

 そんな時、金属が擦る音が聴こえる。その方向を見ると、青い鳥さんが細剣を持っている。その後ろには、黒龍さんと首輪に繋がれた紅蓮さん(大トカゲ)がいる。どうやら、彼は黒龍さんの魔の手から逃げ出せなかったようだ。

 そんなことよりも、今の問題は青い鳥だ。

「何で、貴方は老若男女からモテモテなんですか?異性は勿論、同性にも言い寄られません」

 青い鳥は不満をこぼすが、

「それは幸せなことだと思いますよ」

 同性に言い寄られたい奴など誰もいないだろう。

「それはもてる人の言い分です。もてない人は同性だろうと、異性だろうと関係ないのです」

 青い鳥はそう言う。だが、お前は気付いていないだけで、お前にゾッコンラヴな方はいるぞ。帝王キュリオテテスに、白髪変人に、カニス。性格はとにかく、美青年ばかりだ。そんなことを言っていると、彼らが可哀想になる。

「とにかく、話し合おう。エイル国王陛下は冗談で言っているんだ。本気にしてはいけない」

 そうですよね、と俺は同意を求めるが、彼は真剣な表情で。

「本気だ」

 そう言うと、枕に穴が開く。

「ぎゃあああ!?青い鳥さん、それ、病院の枕です!!病院で暴れるのはやめて下さい」

 俺の叫び声は青い鳥に届くことはなかった。


 地獄の業火は全てを焼き尽くすまで止まらない。確かに、あの時の紅蓮さんはそうだったかもしれない。だが、彼は止まった。

 例え、彼の周りが敵ばかりだったとしても、憎しみや哀しみばかりだとしても、全てそうだったわけではない。

 彼には安らぎを与えてくれる存在がいた。流石に、地獄の業火は揺るぎない絆だけは焼き尽くせなかった。

 もう、地獄の業火は全てを焼き尽くそうとしないだろう。

 彼を繋ぎとめる絆がある限りは………。

青い鳥と哀しみの業火は完結となります。明日からは青い鳥と時の預言者が連載スタートとなります。よければ、お付き合いお願いします

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