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『………王の姿が見当たらない』

『訓練場に黒龍さんの魔力を感じる。侵入者と黒龍さんが戦っているのかもしれない』

 数人の宮廷魔法使いが隠し部屋から出てくる。このまま、彼らが訓練場に行けば、黒犬達の計画は頓挫するだろう。

 黒犬達がどうなろうと、俺には関係ない。だが、青い鳥と名乗る少女はあいつらと一緒に遊んでくれている。もし青い鳥が死んだら、あいつらは悲しむだろうか?

 そんなことを思っていると、身体が自然と動き、訓練場に向かおうとする宮廷魔法使い達を眠らせた。

 自分でしておいたことだが、一番自分が驚いた。どうやら、俺は黒犬達に影響されてしまったのかもしれない。


 翌日、黒龍に呼ばれ、彼が療養している医療室に足を運ぶと、彼のベッドの横にはたくさんのウサギリンゴがあった。間違いなく、青い鳥と言う少女の仕業だろ。かの眠れる龍に対して、そんなことができる人間は彼女くらいしか思い浮かばない。

『お呼びでしょうか?』

『………先日、宮廷魔法使いを眠らせたのはお前の仕業だな?』

 黒龍はそんなことを言ってくる。やはり、彼には見抜かれていたか。とは言え、それに頷くわけにもいかない。

『何のことでしょうか。昨日はぐっすり寝ていたもので、気付きませんでした』

 そのことで、また先輩に叱られた。その分だと、あの人達は俺が魔法を掛けたことに気づいていないはずだ。

『………いつまで、道化を演じるつもりだ、と思っていたが、奴らの登場で仮面が外れかかっているぞ』

 確かに、黒犬達の登場で、自分らしくない行動をとってしまったのも事実だ。だが、それは修正が利く程度のものだ。

『何の話をしているのか、私にはよく分かりません』

『まだ惚けるつもりか。まあいい。お前もその仮面を外さなくてはいけない時が来るだろう』

 なんせ、あの不幸鳥とお人好し犬に関わってしまったのだから、と彼は言う。

 城に蔓延っていたシステムは崩壊。王の仮面も剥がされた。あの二人は完膚なきまで壊していった。だが、それは終わりを意味し、始まりを意味する。

 どのような始まりにするかは王達が決めることだ。

『黒犬は城から出ていくそうだ』

『そのようですね。さっき本人に会って、聞きました』

 自由を手に入れた黒犬。彼が自由を勝ち取ったことは嬉しいが、羨ましい。俺は一生自由を勝ち取ることはできないから。

『それで、黒犬の世話役兼監視役の任は終わる』

 黒犬の世話役はとにかく、監視役は疲れた。黒犬と青い鳥はいろいろなことをしでかす。城の隠し通路から、城から抜け出すし、黒龍の愛弟子らしい“蒼狐”と戦ったり、挙句の果てには、無断で王宮に行ってしまうのだから。先輩達は知らないが、黒龍に侵入者を知らせたのは俺だ。そのままにしても良かったが、そのままにしたら、黒龍の怒りが俺に向くことは分かっていた。それだけは避けたい。

『そうですか。黒犬の世話は疲れましたので、ホッとしています』

 永遠に続けろ、と言われたら、ストレスで倒れる自信がある。

『………だろうな。とは言え、あいつはお前だ』

 黒龍の言葉に、俺はきょとんとするしかなかった。黒犬が俺?確かに、黒犬の苦労は理解できる。俺の知り合いにも、青い鳥に匹敵するほどの変人がいるから。

『俺が黒犬ですか?性格的には似ていないと思いますが?』

 俺は彼のようなお人好しにはなれない。

『性格は似ていないが、お前とあいつは同類だ。つなげ止める鎖がないと、何をしでかすか分からない危うさがそっくりだ。お前らの鎖が外れた時、お前らはあの“蒼狐”と同じように壊れる』

 “蒼狐”。黒龍のお気に入りの一人だった人物。彼と同期の宮廷魔法使いは言っていた。彼は敵味方関係なく、目の前に現れたものは全て壊していった、と。彼の狂気は異常だった、と。

『それは化け物として生を受けた者の宿命なのかもしれないな』

『黒龍さんや蒼狐さんが化け物なのかもしれませんが、その分類に私が入るとは思いませんが』

『ふん。鎖を外せば、分かることだ』

 お前が人か、人の皮を被った化け物か、な。


***

「スノウ、大丈夫か?」

 紅蓮さんの猛攻撃に耐えながら、スノウに声をかける。

―今のところは。でも、このままだったら、時間の問題だよ―

「その時はあいつらがどうにかしてくれるだろ。人を囮にしたのだから、どうにかしてくれないと困る」

―それもそうだね―

 すると、紅蓮さんの死角から、青い鳥達の姿が見える。紅蓮さんは青い鳥達に気づき、火の玉を青い鳥達に向ける。すると、白髪の彼が青い鳥の前に出て、魔法を生身で受ける。青い鳥が怪我をすると、致命傷だが、生身で受けるなんて言うことは無謀過ぎる。

 一方、彼は紅蓮さんの攻撃を受けたのに、身体は無傷だ。彼に何が起きた?

―へえ。彼の身体、凄いね―

 スノウは感心した様子で言う。

「スノウ、何か分かったのか?」

―詳しく説明すると、長くなるから、簡単に言うよ。彼は脱皮したんだよ―

 脱皮?あの男は奇人変人だと思っていたが、体の構造までおかしいのか?普通の人間が脱皮など出来るはずがない。

―予め、魔力で皮膚全体に外膜を張ってあったんだろうね。傷ついたら、ペロッと剥がれる仕組み―

 そう言うことか。納得出来るが、普通の人間ではできない芸当である。

 青い鳥はその隙に、紅蓮さんを蹴り飛ばす。紅蓮さんはお返しと言わんばかりに、青い鳥に向けて、炎の槍を叩きつけようとするが、彼が間に入り、わざと攻撃を受ける。

 紅蓮さんの眼が青い鳥達に向いているのなら、俺も攻撃に参加するか。と言っても、魔法を使えば、近くにいる青い鳥達にも危害がくわわる。それなら……。

 俺は短剣を取り出し、手を切り、いい具合に血液を流す。俺は空間魔法を展開し、紅蓮さんの懐に入り込む。

 そして、右手に魔力を込めて、彼の身体に叩きこむ。俺の唯一の直接攻撃。人に当たれば、骨折は免れない。

 紅蓮さんもこの攻撃にはよろめく。青い鳥はその隙を見逃さずに、蹴りを入れる。だが、彼は自分自身の周りに炎の壁を作る。これでは下手に近づけない。そして、今までのお返しと言わんばかりに、無数の炎の雨が降り注ぐ。

 すると、白髪の彼が防御魔法を展開する。火の壁がある限り、俺達は紅蓮さんに近づけない。

 いや、ちょっと待て。青い鳥は言ってなかったか?炎精だと。風精カニスは魔法陣なしで風が操れるように、紅蓮さんも魔法陣なしで炎が操れるのだろう。神子は魔法陣破棄のできる魔法使いと考えられる。ただ、ハイリスクは何もないといった羨ましい体質だが。

 それはいい。魔法使いにとって、魔法を使う場所というのは重要といえる。俺は四大因子を使う魔法を多用しないから、そこまで深く考えたことはないが、攻撃魔法を得意とする魔法使いはそうもいかない。場所によって、四大因子の割合は異なる。全ての因子が均一の場所、一つの因子しかいない場所は珍しいが、因子の割合が偏った場所は少なくない。水の因子が多い場所で、火の魔法を使って不発したという話もある。普通の魔法使いは得意不得意はあるが、それしか使えないということはない。魔法使いの常識としては1つしか使えないのは自殺行為になるから。

 だからこそ、赤犬さんは自分の得意魔法は明かすな、と口酸っぱくいうのだろう。他の魔法がつかえるからといって、得意魔法を封じられるのはきついものだから。

 魔法使いの常識はそうだが、それに神子を当てはめることはできないだろう。神子は器のある精霊と言われている。精霊はそこにいるだけで、因子達に影響を与える。それは神子も同様だろう。だからこそ、どんな場所でも魔法が使える。いや、待てよ。

「なあ、紅蓮さんは炎の魔法しか使えないんだよな?」

 俺が声を掛けると、彼はこちらを向く。

「私は彼が炎の魔法以外のものは見たことがないが、本当にそれしか使えないかは分からない」

 カニスは風精だが、魔法使いとして考えるのは無理がある。カニスは戦士。魔法の勉強をしていないのだから、魔法が使えるはずがないのだから。

 もし紅蓮さんが炎の魔法以外つかえはいとしたら、あの手が使えると思ったのだが。

「貴方の仮説は正しいと思われます。彼の魔力は純色の赤色をしています。だからこそ、他の属性の魔法は扱えないと思われます。召喚魔法は使えるみたいですが、炎の召喚獣以外は無理でしょう」

―確かに、彼は火に好かれているよ。炎の精霊と同じと考えていいと思う。炎の精霊は他の属性を操ることはできないから―

 青い鳥とスノウがそう言ってくる。青い鳥の眼は魔力を見ることができるし、スノウは精霊と言うだけあって、魔力察知はお手の物だろう。

 この二人からお墨付きをもらったのだから、間違いない。なら、どうにかなるかもしれない。

「あの魔法を使う。それまで時間稼ぎを頼む」

 俺は魔法陣を書いていく。

「あの魔法?何のことを言っているのかね?」

 彼はそう言ってくると、紅蓮さんの魔法がより強くなったようで、顔を歪ませる。

「あともう少しです。頑張って下さい」

 青い鳥はそう言うが、彼は防御魔法を得意とする魔法使いではない。防御魔法はピシッとひびが入る。

「黒犬、君が何をするか知らないが、早くしたまえ。このままだと、壊れる」

 彼の切羽詰まった声が聴こえてくる。その時、魔法陣が完成する。

「スノウ、サポート頼む」

―オッケー―

 その瞬間、バリアがパリンと割れる。だが、炎の雨は消えていく。

 水は風に、風は土に、土は火に、火は水に弱いと決まっている。この空間は水の魔力で充満している。黒龍さんが青い鳥の動きを止める為に、自分の魔力を充満させた時と原理は同じ。

 どうやら、俺の仮説は当たっていたみたいで、紅蓮さんは魔法を使えないで、戸惑いが生まれる。今がチャンスだ。

「青い鳥!!」

 後はお前の仕事だ。

「分かっています」

 青い鳥は走って行き、紅蓮さんに蹴りを入れる。

「貴方の望みは何ですか!?お義兄さんを殺すことですか?全てを壊すことですか?それで、貴方は幸せになれるのですか!?」

 あいつは力一杯叫ぶ。

「俺はあいつらがいてくれれば、それで幸せだった。俺は家族を知らなかった。そんな俺に家庭の温もりを教えてくれたのはあいつらだった」

 あいつらさえいてくれれば、それ以外の幸せ入らなかった、と彼は叫び返す。

 彼がどんな世界で生きて来たのか知らない。おそらく、俺には想像できないことだろう。

「私は貴方がどれほど彼らを大切にしているか知っています。ですが、彼らも貴方のことが大好きです。自分達の為に、貴方が死んだら、どう思うか考えたことがありますか?本当に、貴方が死ななければ、彼らを助けられなかったのですか?」

 青い鳥は蹴り飛ばす。

「貴方が相談してくれれば、私や彼も協力しました。私達が信用できないのでしたら、白蛇さんに相談するべきでした。貴方と白蛇さんは友達ではないのですか?」

 その言葉に、紅蓮さんは止まる。

「白蛇さんは貴方のことが心配だから、病院を休んでまで様子を見に来てくれました。白蛇さんはそこまで思ってくれましたのに、貴方は何も思わないのですか?」

「お、俺は………」

「貴方を大切にしてくれる人はたくさんいます。ですから、自分の命を粗末にしないで下さい」

 死んでしまっては幸せに思う気持ちも感じれなくなりますから、とあいつは言う。

 これで、一段落着いた。そう思った時、

―紅蓮、逃げて―

 スノウの切羽詰まった声が響く。その方向を見ると、赤毛の男が銃を持っており、引き金を引こうとしていた。紅蓮さんは動けないでいる。やっと、紅蓮さんは救われようとしているのに、このまま死なせるわけにはいかない。

 身体が勝手に動いており、紅蓮さんに向かって走り、庇う。

 その瞬間、銃声が響いた。


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