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魔女の愛弟子  作者: 井川林檎
第四部 赤ずきん
36/77

炎の 中で

ツァウベラは契約遂行を待ってほしいと懇願する。

ペルは時間を持て余し、街の巨大な図書館に足を運ぶ。最上階の展示室で奇妙なものを見たペルは、白い羽根の嵐に包み込まれるのだった。

その6 炎の 中で


 「時間を、くれ」


 ……思いもよらない回答だった。

 わたしは無言でツァウベラを見上げる。


 ひょろひょろと背の高いツァウベラは、青ざめ、脂汗を浮かせながら必死に考え込んでいた。

 契約を遂行されれば、魔法の力は蘇る上に、等価交換の法則を学ぶ過程まで運命に書き込まれることになる。

 もし今、契約が遂行されたならば――わたしにはそれが、まざまざと見える――ツァウベラの力は徐々に息を吹き返し、この街を脱出した後、強い魔女に巡り合い師事を受けることになるのだった。等価交換の法則を学び、黄水晶の洗礼を受けた後、ツァウベラは相応の力の魔女となる。

 何らかの使命を持つほどの、魔女に。


 そして、ツァウベラは忘れる。

 故郷への想いや、ツェンタのことを。

 彼の中に積み重なった、大切なものたちへの想いはそれなりの力を持っていた。それと引き換えに、彼は力を得るのである。


 では、今ここで、彼が契約遂行を承諾しなかったらどうなるか。

 これも、わたしには見えていた。

 今まさに、役人たちが乗り込んだ馬車は、芝生の広場を横切り、森の小道に入ろうとしている。

 ガラガラガラ。

 車輪がせわしく音を立て、土を飛ばした。

 ツァウベラは捉えられ、牢獄にぶちこまれ――。


 (今日はこの後、完全な晴天となる)


 ごく短く、非常に理不尽な裁判の後に、芝生の広場に太い柱と、ボロ布や枯れた木の枝、廃材などが積み上げられ、魔女を処分する支度が慌ただしく行われる。

 本日、夕暮れ時を待たずに、彼は命を落とすことになる。

 炎に包まれて。



 わたしは、彼の目を見つめた。

 彼は目を閉じ、呼吸を整え、手の甲で汗をぬぐった。

 彼の中で、ツェンタの笑顔がさんぜんと輝いた。初夏の太陽のように。……同時に彼の運命が決定する。


 (愛する人が、死神となったか)


 わたしは木のワンズをしまうと、踵を返した。

 「時間をくれ……返事をするから……待っていてくれ」

 弱弱しくツァウベラの声が背中を追って来る。わたしはテントの外に出て、初冬の日差しを浴びた。雲が片付き始め、青空が見え始めている。


 丸太の橋を渡り、森の中に入った時、けたたましい勢いで馬車が走ってくるのが見えた。

 太い木の幹に寄ってやり過ごす。馬車が一台と、馬に乗った警官が三名。小石を跳ね飛ばしながら、役人たちは過ぎ去った。

 

 わたしはちらりとそれを見送ると、また歩き出した。

 外套のポケットには「依頼」の入った小瓶が揺れている。ツァウベラの命が燃え尽きるまで、「依頼」は「依頼」だから、取っておかねばならぬ。

 最も、時間の問題ではある。わたしの予見では、わずか二時間後に彼は再びこの公園に運ばれてきて、木にくくりつけられることになる。

 そうして、炎が燃え盛る松明が近づき――。


  

 ちち、と小鳥が囀った。

 日差しが強くなり、わたしは目を細めて梢を見上げる。力強い太陽だ。まるで春のようだ。

 日差しが強烈になるに従い、ツァウベラは死に近づく。

 魔女の処刑は基本は火あぶり。火あぶりは晴れた日のものだ。

 地域によっては絞首による処刑も認められているが、この街はそうではない。

 伝統に乗っ取り、火あぶりで魔女を処分する。だからこそ、見世物になる――。


 魔女を殺すことよりも先に、余興としての処刑を求める。豊かな街の、豊かな人々。


 芝生の広場に出ると、突然開けた目の前に風が吹き込んだ。

 太陽の日差しで温められた風は、冬の寒さと春の温もりを同時に含んでいる。額でそれを受けると、わたしは歩き続けた。

 乗馬を楽しむ人々の間を潜り抜け、広大な緑地公園を抜け出ると、また街並みに出る。

 煉瓦の壁には貼り紙がある。

 「魔女一人につき50グルテン」


 ……今、ツァウベラは縄で縛り上げられ、馬車の中に積み込まれて運ばれている。

 ふいに、切なげな声が届いた。

 (ツェンタ)

 狼の遠吠えのような声だった。酷く後を引き、胸を引き裂くような響きだ。

 彼は選択できずにいる。愛する者への想いと、力の回復と。

 

 (哀れな)



 こつこつと歩いた。

 わたしのすべきことは、師の手がかりを探すことだ。街を歩きながら師の気配を感じようとするが、この街には髪の毛ほどの片鱗も見当たらない。

 師は、この街には立ち寄りもしなかったということだ。

 わたしは空を見上げる。

 すっかり雲がなくなり、完全な青空となった空。

 この街にはなにもない。また、東へ向かわねばならない。


 汽車は夕刻である。

 まだ十分に時間はあった。街の中央に図書館があり、それはとても大きなものだった。遠くから見ていてもそれと分かる建物であり、そこには心地よい静寂が感じられた。

 紳士淑女らの香水や洒落た話し声から離れたくなったわたしは、図書館に向かうことにする。

 人々の喧騒から逃れたかったし、そこならば一人になれそうだ――。


 

 

 五階建ての図書館は、整備されてはいたが、大量の書籍を詰め込んだ本棚が立ち並び、しかも部屋がいくつもあったため、どこか迷路のような雰囲気であった。

 一階、二階、三階と、細くて急な階段を上り続けると、扱う書籍の種類にもよるのだろう、人の気配がだんだん感じられなくなる。

 四階になると二、三人の学者肌の利用者と図書館司書しかいないらしかった。

 ちらりと覗くと、非常に閉鎖された思考がぼそぼそと呟くような声で聞こえており、彼らが自分と学問のこと以外は目に入らない種類の人間であることが分かった。

 (ありがたい)

 わたしはそのまま五階に上がった。

 最上階は、埃をかぶったような書籍が詰め込まれており、そこには司書すらいないのだった。

 古代の難解な言語が記された書籍や、奇怪な絵文字のパピルス、そういったもののほかに、博物館に展示されるのを待つ、古代の陶器の欠片や怪しげな像などが保管されていた。

 もちろん立ち入り禁止の札が出てはいたが、封鎖はされていない。

 四階の利用者が、ごくまれにここに足を運び、学問の材料を探しにくることがあるので、一応は自由になっている。

 (子供や普通の紳士淑女が、ここに来ることは考えられないのだろう)

 埃やかびの匂いが充満し、いかにも空気が悪い上に、陰気な照明に包まれて、白目をむいたような石像や、瞳孔分に黒い穴が穿たれた不気味な動物の粘土像など、彼らの好むところではない。

 

 わたしは小さな入り口を潜り抜け、墓石のように立ち並ぶ書棚の間を歩いた。

 人はいない。

 青白い照明の中、わたしは歩く。

 解読されないままの古い巻物や書物が並んだ棚を過ぎると、いかにも気色の悪い像や置物、陶器などが展示されたガラスがあった。

 それらはかたくなにそこに居座り続け、ただ、無言である。

 こつこつと歩きながらそれらを眺める。壁に張り巡らされたガラスの内側に、それらは陳列されている。

 そしてわたしは壁から離れ、中央の離れ小島のようなガラスケースの中を覗く。


 そこには、太古の生き物の化石の他に、奇妙なものが展示されていた。

 丸い、ただ丸い、ものがある。

 球体、というのが正しい。……わたしはひっかかるものを覚えて、それに視線を当てる。

 青く塗られた球体。

 焼き物なのだろう。ところどころ朽ちており、青い塗料がはげ落ちた部分は赤茶色の肌が覗いていた。

 

 (なん、だ)


 見覚えがあった。

 さざ波のように胸騒ぎがやってくる。

 見覚えが(ばさばさ……)ある(ばさばさばさ)。


 無数の白い羽根が渦を巻き、目の前を覆う。

 ああ、あの部屋だ。

 「世界」と呼ばれる少女が病んだ体を休ませる、あの白い部屋。

 頭痛を覚えたわたしはしゃがみこんだ。ガラスケースの陰に座り込みながら、苦しくなった息を整える。

 

 おかしい。

 封印は解かれており、生半可なものは寄せ付けないはずなのに。

 これではまるで、ゴルデンに力を封じられていた時と、同じ――。


 ばさばさと舞い飛ぶ白い羽根が目の前を覆い、ふいに開ける。わたしは額から汗をこぼしていた。伝う汗の間から目を開くと、青い(なんて……)空間が目の前にあった(……清浄な)。

 それは遙か上空の世界であり、雲よりも高い場所である。

 全身が浄化されるほどの冷たさに包まれるが、苦痛ではない。足元を見ると、ゆるやかに雲が流れる。

 その美しい流れの合間に、それは見えていた。


 巨大な、青い、球体が。


 球体の青は水の青。鏡のような穢れない水が空の青を映し出している。

 水の球体には陸地と思しき部分があり、それは不規則ではあるが目を見張るほど美しい模様となり、球体を彩っていた。

 (なんだ、これは)

 息が苦しかった。

 わたしは目を閉じ、呼吸をしようと努めた。……できない。汗が伝う。

 (師よ、これは、一体)

 また白い羽根が舞い飛び、目や口にべちべちと貼りつく。夢中で振り払うが、追いつかない。

 (師よ、師よ――)

 べちべち……。

 わたしは羽根に覆われる。そして、息が止まる。

 (……ゴルデン)


 無意識にわたしは自分の黒曜石の空間に逃げ込んでいたらしい。

 ぐにゃりと空間が歪んだかと思うと、わたしは黒曜石の中に倒れこんでいた。自由になった呼吸を確かめてから立ち上がる。

 (なん、だったのか)

 汗はすっかり冷えていた。

 振り向くと、そこには見覚えのない扉がある。

 白い扉だ。わたしは直感する。


 これは、「世界」に続く、扉。

 鳥になりかけた少女がいる、あの白い部屋だ。

 (繋がっていたのか、黒曜石の異空間と)

 わたしはしばらく、その扉に目を当てていた。触れるのをためらうほどの、清浄な気配を振りまいている。

 恐ろしい程、無垢な、祈り――。


 わたしは身震いする。

 べちべちと顔や体に当たり、問答無用で呼吸を奪おうとする白い羽根の嵐を思い出すと、その扉を開くのはためらわれた。

 その扉を開くのは、死を意味する。

 わたしは白い扉から離れると、また歩き出した。

 

 夕刻の汽車の時間まで、もうどれほどか。

 あの奇妙な展示物に引き込まれ、おかしなものを見てしまったが――。

 黄金の扉があった。わたしはごく自然にそこに近づき、ゴルデンの気配を感じようと手を当てた。

 ……と、わたしは驚愕した。

 今まで、開くことのなかったその扉は、手を当てた瞬間に軽い音を立てて開き、紫水晶のまばゆい空間が露になったのである。

 

 わたしはバランスを失い、中に転がり込み、紫水晶の輝きに包まれる。

 紫水晶の空間に続く扉が開いた、ということは、ゴルデンが目覚めたという事だ。

 立ち上がると、わたしは周囲を見回した。紫水晶の群生のどこかに、ゴルデンがいるはずだ。

 「ゴルデン」

 呼びながらわたしは歩く。

 ゴルデン、ゴルデン、ゴルデン――。

 こだまは紫水晶に吸い込まれ、消えた。

 わたしは歩き回り、発見した。

 扉の外から何度も透視した、巨大な紫水晶の柱。その中は安楽な寝床になっており、ゴルデンはそこに籠り、体を丸めて眠っていたのだ。

 紫水晶から透けて見える、青白い程の肌を、わたしは何度も見たはずだった。

 ……だが、ゴルデンの姿はない。


 振り向きながら、わたしは扉の外へ出る。

 黒曜石の異空間に戻ると、もう一度扉を振り向いた。黄金の扉は相変わらずそこに立っており、試しにもう一度手を当てると、やはり簡単に開くのであった。

 (ゴルデンが、目覚めた)

 ひどく動揺していることに気づく。

 うねる波に取り込まれるように、櫂をなくした小舟が漂うように。……それが怯えであることを知り、わたしは更に動揺する。


 (なぜ、怯える)


 意識を集中させると、黒曜石の空間は大きく歪み、わたしを外に排出した。

 元通り、黴臭い展示室の床である。ガラスケースに凭れた格好で、わたしはへたりこんでいた。


 どきどきと心臓が音を立てる勢いで脈打っている。

 わたしは視線を左右上下に忙しく動かした。……誰もいない。

 (怯え……なぜ)

 ゴルデンの姿が見えた瞬間、全力で逃げなくてはならない予感がする。頭に血が上り、顔が熱かった。

 意味がわからない。

 ガラスケースに手をおいて立ち上がると、わたしは展示室を出ようとした。


 その時。


 「……契約を遂行してほしい」


 はっきりと聞かれた。「依頼」についての返事がツァウベラから舞い込んだのである。

 おごそかなほどの重々しさで、返答がきた。同時にわたしは見る。

 積み上げられてゆく薪、ボロ布。

 男たちが威勢の良い掛け声とともに引き起こした、太く丈夫な、柱。

 青空にそれは突き立ち、火あぶりの時を待つのみとなる――。


 依頼主の運命の縮図が、命の終わりに近づき、光の波動が一気に弱くなる。

 わたしは行かねばならない。部屋を飛び出すと、階段を一気に駆け下りた。

 広場へ。


 

 駆ける。

 街を駆け抜ける。人を突きのけ、馬車を急停止させ、わたしは走り抜けた。

 外套が風をはらんで翻る。

 緑地公園に近づき、芝生の広場に禍々しい柱が立っているのが見えた。

 街の紳士淑女たちが物見高く、そちらに向かっている。ひどい人込みだ。押しのけ、かいくぐり、突き進んで、わたしは走った。

 

 「頼む、契約を、遂行してくれ――」


 決意を含んだおごそかな声は、悲鳴じみた訴えに変わる。

 人目があるにも関わらず、わたしは木のワンズを握りしめる。体を低くして疾風のように駆ける。

 公園に飛び込むと、物見高い人々の山の向こうで、今まさに、処刑が行われようとしていた。

 

 柱の高い位置にくくりつけられたツァウベラが体をよじって目を見開いている。牧師による祈りは終わったようだ。 喜びを含んだ悲鳴があちこちで上がった。

 松明が投げ込まれ、めらめらと炎が上がり始めたのである。

 ぎゃーっ、ぎゃーっ、とツァウベラは泣き叫び始めた。

 わたしは体当たりして人の中に突っ込むと、非難と叱責の声が飛び交うのにも構わず、ワンズを持つ手を振りまわし、脚を突き出しては見も知らぬ人の体を蹴飛ばした。

 ありったけの力で人々を跳ね飛ばすと、一瞬の間にできた僅かな道を突っ走り、燃え盛る炎の中に飛び込む。

 すんでの差で、役人たちがわたしを取り押さえにきたが、その時にはもう、わたしは炎の中だった。


 「西の――大魔女の――代理として」

 火の粉が飛びかかり、外套が燃え上がる。構わずわたしは上を見上げ、ワンズを掲げた。

 くくりつけられたツァウベラは足元の熱さに耐えきれず、身をよじっている。煙のために目からは滂沱と涙を流し、ひどく咳き込んでいた。

 めらめらめらっと、外套の隅が炎を上げ始める。

 「魔女の愛弟子が、契約を遂行する。ツァウベラ――」

 魔法陣を描く。黒曜石の魔法が発動し、ツァウベラの体を夜闇の輝きが包み込んだ。

 

 わたしは見た。

 ツァウベラの運命の縮図が徐々に書き直され、黄水晶の輝きを取り戻すのを。

 だが、まだだ。

 わたしは再びワンズを振るった。


 ツァウベラの体を空間移動させ、安全な場所へ。

 この街の外。彼を師事することになる、魔女の住む村へ――。


 「ツェンタ」


 一声叫ぶと、ツァウベラは空を見上げ、そしてその体はかききえる。

 愛しい者への想いを最後に吐き出し、ツァウベラの「依頼」は叶った。

 哀切な響きを残し、ツァウベラは旅立った。夢を叶えるための旅へ。


 はるか未来に、ツァウベラはまた取り戻すことができるかもしれない。

 故郷とツェンタへの想いは時間をかけるほどに積み重なり大きくなるものだ。

 今まで蓄積された分は消滅してはいるが、これから積み重なってゆくものについては、契約は関与しない。

 だがわたしには断言できない。

 その悠久なる時間に耐えうるものなのか、「愛」が。とてもわたしには、わからない。



 人々の目には何も映らなかったはずだ。炎と煙にまみれて、すでに彼の姿は見えなくなっていたのだから。


 

 わたしは自分の周囲が炎に包まれているのを見た。

 外套は燃え上がり、まもなくわたしは熱と煙で息の音が止まるだろう。

 意識を集中して魔法の異空間に逃げることができればよいのだが、こうまでも熱く、火の粉が舞い飛び、息が詰まっていては――。


 「師よ」

 

 わたしはワンズを胸に当てる。

 防御の魔法が発動し、今にも焼き尽くそうと襲い掛かってきた炎の塊は阻止できたが、一瞬の間につぎの炎が顔面に迫る。髪が焦げたらしい。

 

 熱い。


 「……師よ、師よ……ゴルデン」


 ゴルデン。

 目覚めて、再びまみえる前に、これだ。

 彼なら笑うだろうか。愚かな、と。


 わたしは「死」を見たのだと思う。

 意外なことに、それは甘美なものですらあった。

 詰まる息と燃え盛る紅蓮の炎、痛む目の向こう側に、わたしは無数の輝く粒子の世界を見たのである。

 木々の緑、太陽の光、小川のせせらぎ、空気中に散じている命の源達。

 その、仲間入りをするのだと、わたしは思った。

 (それで、いい。それでいいのだ……)


 苦痛を受け入れるために、わたしは目を閉じた。

 身体は焼け、灰になるのだろう。そして命は輝く粒子の一つになる――。

 

 ……。


 

 唐突に、わたしは体が抱き取られるのを感じた。

 横抱きにされ、目を開けられないまま、宙に浮いた。次は風を切る勢いで飛び上がり――わたしは、目を開いた。


 

 「世話の焼ける」


 一言が冷たく降ってきた。

 わたしの胴は強い腕に抱えられており、焼けこげた外套はぼろぼろの裾を宙に舞わせていた。

 そこは空中であり、我々は風を切って飛行していた。

 肉体の粒子に働きかけ、姿を消滅させて飛行する、高度な魔法――。



 わたしは視線を上に向け、そこに、傲慢な程強く輝く紫の瞳があることを知る。


 汽車は、間もなく到着する。

 それまでに、駅へ。

ゴルデンの復活です。

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