すてる
有田そらはだるかった。
放課後。友達と別れ、彼女はひとり校門ではなく、職員玄関のある東門にむかっている。
今日はこのままお茶の稽古に出むくため、母が迎えにくるのだ。意味がよくわからない茶席のあれこれは退屈でしょうがないのだが、母いわく「必要な教養」らしい。
歩きながら、そらは髪からヘアピンを抜こうとした。
母にはないしょのものだから、今のうちにかくしておかないとどうしたのかと問いつめられる。
「あれ?」
なにかひっかかってうまく抜けない。じれて無理にひっぱると、ぷちぷちと髪がちぎれた。
おもいがけない痛みに涙を浮かべながら、そらは手の中のヘアピンを見た。
抜けた髪がピンの先にからまっている。
それだけではない。青いガラスの花の飾りにもぐるぐると長い髪が巻きついている。
ピンに挟まった髪は、今ちぎれたそらのもの。
青い花にまつわる髪は細く長く、あきらかに別人のもの。
朝からずっと髪にさしていたヘアピンに、いつからこんなものがからんでいたのか。
考えるだけで、気持ち悪い。
そらはやみくもにヘアピンを投げ捨てた。
つつじの植えこみに飛んでいったその行方を見ることもせずに、そらはランドセルを揺らして駆け出した。