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エピローグ

 俺の目の前のグレーウルフが唸りながらこちらを睨み続けている。

 だけど、俺だって負けてはいられない。

 だってようやくここまでこれたんだ。この狩りを成功させるために、何ヶ月もこの森を往復した。


 薬草採集だってまともに稼げると言えるまでにはそうとう時間が掛かった。

 そして、その次の目標としていたのがグレーウルフの狩り。


 こいつを倒して素材を手に入れるのが今の俺の目標。

 握りしめているのはショートソード。ロングソードは俺の手にあまるから、最終的に選んだのは軽くて使いやすいこの武器だった。


 毎日の筋トレだって忘れていない。地道な体力向上トレーニングの甲斐もあって、ここまで出来るようになった。


 グルルゥ、と一つ唸り、グレーウルフが俺に向かって飛びかかってくる。俺はそれになんとか反応し、鋭利な牙の一撃をなんとか避けた。


 ……いやそこまで褒められた動きじゃない。地面を転げるようにしながら肩を少し抉られた。


 でも、俺は動く! 数ヶ月前ならこの時点で泣きべそかいて逃げ出していたはずだけど、今の俺はまだ腕が動く! 剣を振れる!


 俺は向き直るグレーウルフに必死の形相を浮かべながら駆け寄り、そして剣を振るった。ギャキュン! という鳴き声が上がり、グレーウルフの身体が地面に横たわる。


「か、勝った……」

 

 俺は思わずつぶやき、その場でヘロヘロと尻もちをついた。


「よくやったな」


 森の影から見守っていたガッツが、ぱちぱちと拍手をしながら俺に近づいてきた。

 この人はあれから改めて俺が冒険者ギルドに登録したときに出会った先輩冒険者だ。

 俺に色々と手ほどきをしてくれた人物でもある。


 グレーウルフに勝てるぐらいまで身体を鍛えられたのも、この先輩のおかげといえるだろう。


「ほら。立てるか?」


 俺の腕を引っ張りながら、ガッツが言う。


「だ、大丈夫です……」


「て、フラフラじゃねぇか。全く随分と必死だったもんだ。でも、よく頑張ったな」

 

 ニカッと白い歯を覗かせてガッツがいった。それに俺も笑顔で答える。


「……でもグレーウルフを倒せるようになるまでに半年近く掛かっちゃいました。普通なら三ヶ月程度だって聞きますが、やっぱり情けないですよね」


 自虐的な笑みを織り交ぜる。


「何いってやがる。そんな事は関係ないだろうが。掛かった時間なんて気にする方がおかしいし、そんな事で馬鹿にする奴がいたなら俺がぶん殴ってやるよ」


 そう言ってガッツが力こぶを見せてきた。俺と違って逞しい腕だ。でもそんな俺も最初の頃に比べたらだいぶ身体つきもしっかりしてきていると思う。


「いいか? 重要なのはそれに見合う努力をしたかどうか、お前がこれまでどれだけ頑張れたかだ。俺はそれをしっかり見てきたつもりだぜ。そうさ。お前は頑張った」


 そう言ってガッツが屈託のない笑みを浮かべた。彼は所詮他人でしか無かった筈の俺の功績を心から喜んでくれている。


 でも……あの時の自分じゃこんな事も馬鹿らしいと思えていただろうな。

 グレーウルフ相手に情けないと鼻で笑っていたはずだ。


 ……あの土力から渡された水晶を結局俺は使った。すると言っていたとおり俺の力は全て失われ、人々の記憶からも俺の行った事が綺麗さっぱり消え去り、俺を勇者と呼ぶものはだれもいなくなっていた。

 彼の言ったとおり、俺という仮初めの勇者の取った行動は全て伝説として残るにとどまったんだ。


 でも、今の俺の心はとても晴れやかだ。確かに薬草一つ採りにいくにも苦労する身体だけど、今はとても気持ちが充実している。生きているって実感できる。


「さぁ町に戻るか。今日はお前の初の狩り成功を祝って祝杯だ! そうだお前が惚れている宿屋の娘も呼んでみるか?」


「え? あ、いやそれは」


「照れるなって! いいかあぁいう女はな、押しによわ――」


 空は澄み渡るような青空。まるで今の俺の心のように。

 俺の人生、これからも数多くの苦労が待ち構えているのかもしれない。

 いや、苦労なんて生きていれば普通は大なり小なりあるものさ。

 だけどそんな事も以前の俺は忘れていた。


 

 だけど、もう違う。


 そう、俺はチートに頼らなくても、一生懸命今を生きていく、この異世界で、例え地味でも充実した人生を――

これでこの物語は終わりです。最後までお付き合い頂きありがとうございました。

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