ニート最強伝説からの選択
~Ⅳ~
「私が声を掛けなかったら斬る気だったのかい?」
「……知るかよ」
「随分荒れてるみたいだね」
「……だれのせいだと思ってるんだ」
「相変わらずだね君は」
余裕の表情をみせるその顔が腹立つ。だけど……。
「俺を笑いに来たのかよ?」
凄く……惨めだった。
「そんな気はないよ。ただそろそろ判ってもらえたかな? と思ってね」
判る? と俺はつい顔を眇めつつ復唱していた。
「そうさ。君がこれまで手にしてきた栄光が、どれだけ脆く儚いものだったか、をね」
「……」
俺は何も言えなかった。いや、正直いえばお前のせいだろ! と怒鳴りたい気分でもあったが、何故かそれはただ虚しいだけな気もしている。
「君は私のせいだろ! とでも言いたいのかもしれないけど――」
そのとおりだよ。チッ、見透かされてるみたいで腹が立つ。
「私は教えたかっただけさ。所詮チートなんかで手に入れた力や名声は紛い物でしかないってね。随分と恨めしそうな眼をして、なんで俺だけ? て顔をしているけど、もし君の言うようなラノベそのままの世界が実際にあって、同じように何の努力もせずチートとやらを手に入れて得意顔をしているような輩がいたなら、私は同じような事をしていたと思うよ」
……こいつの眼をみてると、マジなんだろうなとは思えてくる。
「俺には正直わからない。何故そこまでする? 自分が努力してきた事がそんなに偉いと思っているのか? でもな世の中には努力したって報われないものが星の数ほどいるだろう。あんたはたまたま努力で成功を掴みかけていたのかもしれないけど、俺からしてみたら、そんなのは運がよかっただけだとしか思えないね」
全てを否定はしないよ、と糸目は言った。
「でも努力しなければ手に入れられないものはある。いや寧ろその方が多いだろう。もちろん程度は人それぞれだ。努力なんていってはいるが、ようは頑張れるかどうかなんだよ。でも君たちチート持ちはスタート時点で頑張るという事を否定してしまっている。女の子を一人口説き落とすのだってそうだ。普通なら向こうからホイホイやってくるなんてありえないだろう」
「だからそんな頑張るとか、そういうのが嫌だから俺はチートを手に入れた、他に似たようなのがいてもそうだろ。それで俺は幸せなんだ」
「じゃあ、今は幸せかい?」
「……それは――」
「君はすぐ顔に出るね。判りやすい」
……んだよ。それ――
「まぁメッキが剥がれてしまえばそんなものさ。だから私からしてみたらチートとやらで幸せだと思い込んでる君たちがとても可哀想に見える」
「……あんたはそんな事を改めて言うためにここにきたのか?」
「勿論それだけじゃないよ。私は君に選択肢を与えに来たんだ」
俺は眼を丸くさせて、選択肢? と訪ねていた。
すると糸目は、テーブルの上に小さな水晶を置き、俺の前にすべらせてきた。
「……何だよこれは?」
「それは私が神様から貰っておいた、亡失の水晶だ。それを割れば、チートで手にしてきた力は失われチートそのものも消える。そして更にこの世界の人々の記憶から君がチートを駆使してやってきた事の情報が改変される。君がやって来たことは名前も知らない誰かの行為として認識されるわけだ。つまり魔王を倒した勇者様もそういうのがいた、というだけの記憶に塗り替えられる」
「……こんなものを俺に渡してどうするつもりだ?」
「言っただろう? ただの選択だ。だけどね、これを使えば君は新たな気持でこの世界で生きていける。勿論チートはなくなるから苦労は多くなると思うけどね」
……馬鹿らしい。
「そんな事わざわざするはずが無いだろう。確かにこの国の人間に俺の事はバレてしまったが、それでもチートさえあれば楽に暮らしていけるんだ」
俺の言葉に、フッ、と糸目が笑った。その仕草も妙に腹が立つ思いではあったが……。
「それならそれで構わないよ。但しその場合は私は君の事を常に監視させてもらう。君が暴走しないようにね。そして君がどれほどのチートをもっていようが私には勝てない。そんな紛い物の力じゃね、それだけは覚えておくことだ」
そう言って奴は席を立った。俺は水晶をじ~っと見つめた。
「お前は何も判ってないよ。俺はチートがあったからこそこの世界で生きていける。あんたとは違うんだ。もしその能力を失ったら、だれも俺のことなんて構いもしなくなるだろ。そしたら俺は……また独りになるだけだ」
糸目の脚が止まった。
「君は自分の事を信用出来ないんだね」
「……信用ね。あんたが俺の事を聞いているなら判っているだろ? 前の世界でも何をしたって俺は孤独だった。俺の事を本気で考える奴なんて……」
「それは君が勝手にそう思い込んでるだけだろ」
「違う!」
俺は叫んでテーブルを叩きつけた。
「……違わないよ。その証拠に飛び降りの現場を見てつい身体が動いてしまった馬鹿な男がここにいる。少なくとも私はあの時、君を救うことしか考えていなかった。まぁ今ここで言っても真偽は掴めないだろうけどね。ただそういう人間は必ず存在するさ。だから君にだって――」
背中を向けたまま、糸目が俺にそう伝え。そして酒場を後にする。
……ふん。全く漸く帰ってくれたか。本当にうざったくてしかたないぜ。
飛び降りの時、思わず? ……何を言っているんだか。赤の他人のためにそこまでやる奴がいるはず……。
俺は目の前にある水晶をつまみ上げ、マジマジと眺める。
全く、何が亡失だ。そんなもの好き好んで使う人間がいるはずがないだろう、
そう――こんなもの……。




