ニート最強伝説の歪み
~Ⅱ~
俺も含めた全員が一斉に声の方を振り返る。
そこに居たのは一人の男だった。
目が細く線みたいで、俺と同じ黒髪でツンツンした感じの短髪だ。
黒髪はこの世界では珍しいが、全くいないわけではない。
背は生意気にも俺よりちょっと高いか? 細身だが付くとこはしっかり付いている。細マッチョって感じか。
まぁ顔で言えば俺の方がイケメンなのは間違いないだろう。
ただ雰囲気的には朗らかな感じだ。糸目だからだろうか?
「俺に何か?」
相手がにこやかな雰囲気なので、俺も一応笑顔で返しておく。男は革の鎧を装備し長剣を腰に吊るしている。
そうなると冒険者である線が有力だが、正直見たこともないような男なので、一体何のようがあるのか不審な思いもある。が、例えば英雄となった俺に何らかの逆恨みで命を狙ってきた輩だとしても、最強の俺がやられるなんて事はありえない。
そんな事を色々考えていると、糸目が口を開き、
「はぁ。あの貴方もしかして、あの有名な勇者で間違いないでしょうか?」
とか訪ねてきやがった。
俺は思わず眉を顰めた。わざわざそんな事を聞いてくるなんてな。
まさかこの国で俺の事を知らない奴がいるとは思わなかったから。
どっか地方出の田舎者だろうか?
それに今となっては誰もが俺に様を付ける。だがこいつはただ勇者としか言わなかった。
それにも正直腹が立つ。
「貴様! いきなり現れて失礼ではないか!」
女騎士が前に躍り出て吠えた。俺に惚れてる女なら、主人に対する無礼が堪えられないのは当然だろう。
「そうです! なんなのです! 貴方はです!」
「勇者様を呼び捨てにされるなど、少々礼儀にかけておりますわ」
「我を倒した勇者様を前にしてその態度、許してはおけぬ」
「我ら」「三姉妹」「お、王女として抗議するんだからね!」
女騎士を皮切りに皆も前に出て糸目を攻め立てる。フッ、哀れだな糸目。
「……これはこれは申し訳ありませんでした。皆様を怒らせるつもりだったのではないのです。どうぞお許し下さい」
糸目は後頭部を擦りながら詫びを入れてくる。だが、本来ならこんな軽い態度許してはおけないがな。土下座して俺の靴でも舐めさすとこだ。
まぁとはいえ、ここは余裕のある勇者として笑顔で接するとしよう。
「お前たち、初めてお会いする者をそこまで攻め立てるものではない。それに彼はこの俺の事を知らなかったのだろう。この国は広いからな。地方によってはそういう事もあるだろう」
どうだこの余裕の返し。フッ、女共も、素敵です! やら、流石勇者様ですわ! 等とハートマークを浮かべまくってるぜ。
「で? 君は一体この俺に何の用なのかな?」
余裕の笑みを浮かべて尋ねる。正直こんなどうでもいいモブキャラは相手にするのも面倒だがな。
「……はい。実はですね。もしよろしければこの私との決闘を受けて頂けないかなと思いまして――」
◇◆◇
この王国では冒険者同士の決闘はお互いが承諾すれば認められている。
当然この場合、例え敗北して命を落としたとして文句は言えない。
冒険者というのは血の気が多いのも沢山居て、自分の力を試したくてウズウズしてるのも腐るほど存在する。
俺もかつてはそんな身の程知らずの冒険者を数多く返り討ちにしてきたものだ。
勿論負けたことなどは一度もない。
勝負数は千を超えてからは覚えていないが、ただ魔王を倒すぐらいになってからは、流石に俺にわざわざ決闘を挑んでくるものなんていなくなっていた。
始めてしまえば例え死んでも文句は言えないわけだしな。この俺に挑むなんて赤ん坊が飢えた獅子の前に飛び出すようなものだ、
そんな馬鹿なんて普通はいない。
そう、普通は――
今オレの目の前ではあの糸目が、アップを始めていた。身体を振ったり柔軟体操をしてみせたりとだ。
「貴方はされないのですか?」
生意気にも糸目がそんな事を俺様に聞いてきた。
「あっはっは。俺は常にどんな状況にも対応できるよう気をはっているからな。そんなものは必要ない」
俺がそう返すと女共がまた、キャーキャーと騒ぎ始めた。全くマジでチョロインだぜ。
「はぁ。そうですか」
……この妙に気のない返事は腹が立つな。
まぁいい。どうせこいつは勇者と戦って名声を上げようなんて安直な考えて挑んできてるんだろう。
女共はこんな奴相手にする必要なんてない、なんて言ってたし、実査その通りとも思えたが、何せ最近は暇な日も多い。
こういう身の程知らずを相手にするのも一興だろう。
「さて、それじゃあやりましょうか」
男は最後に軽い屈伸を終わらせて、俺に向かって言ってくる。
「ところでこの勝負には何を掛けるつもりだ?」
俺は一応確認しておく。こういった決闘ではなにかしら戦利品を決めておくのが普通だ。そして決闘前に約束したことは例え命を失っても有効である、
つまりここで糸目が、女を欲しいと言って、万が一にも俺がやられ命を落としたとしても、その約束事が反故される事はない。
最も奴隷でもない限り女の同意なく勝手に掛ける事は不可能だが。
まぁ後は死んだ冒険者の持ち物は、勝者が自由に持ち帰って良いというルールもある。
とはいえどっちも俺にとっては関係ない話だが。
「貴方は万が一私に勝ったら何を求めますか?」
その質問返しに、正直オレはカチンと来た。万が一? 何を言っているんだこいつは?
「あはは。俺は特に何もいらないよ。ただ君がもし万が一にも運良く勝利を収められたのなら、俺から好きなモノを奪うといい」
これには当然女もという意味も込められていたが、俺が負けることなんてありえないからノープロブレムだ。勿論女もその条件に文句を言う奴はいない。
「そうですか、それは良かった」
……何だコイツ? 随分と余裕だな? まぁありえないと思うが、一応こいつのステータスを確認する。
が、レベルは35と出た……。
35――まぁ冒険者としてみればそれなりの高レベルだ。正直ハーレム要員の女騎士はそこそこの名声を得てる騎士だが、それでもレベルは24程度でしか無い。
30超えは冒険者で言えばSランク。実際ステータスにもそう表示されている。
装備品も、革鎧は地魔獣の革鎧にハイ・ミスリルソードとそれなりの物を装備している。
だが、それがどうした? 俺は思わず鼻で笑ってしまっていた。隠蔽での実力隠しの可能性もあるが、それも俺には無駄だ。
俺の眼は隠されたステータスも瞬時に見抜くからだ。
だが隠蔽されているような雰囲気もない。
つまりこいつはレベル35程度で、レベル1,350,000,000の俺に挑もうというのだ。
まぁ勿論オレこそ普段は能力を隠蔽しているが、それでもちょっとみればレベル100超えであるぐらいわかるだろう?
マジで馬鹿なのか?
……まぁいい。きっとSランクになって、もしかしたらいけるかも、と馬鹿な夢でもみたんだろう。
仕方ないからちょっと遊んでやるとしよう。
な~に、無謀にも俺様に挑んできた事に免じて命までは奪わないさ。
まぁ二度と冒険者としては活躍できないと思うがな。
「さて、それじゃあやりますか」
「はい。お願いします」
「……えぇ。ではどうぞ。そちらから」
相手が動こうとしないので、こっちから誘ってやる。先に俺が動いたらすぐに終わってしまうからな。
「……いえ、勇者の力というのを見てみたいので、お先に。是非その実力をこの目に焼き付けたい」
……生意気な奴だと思った。全く人が少しは気を使ってやれば調子に乗りやがって。
なら仕方無い、ちょっとビビらせてやるか。
「判った。それじゃあ――【フレイムアロー】!」
唱えて俺は自分の両腕に炎の弓矢を出現させた。詠唱短縮は異世界勇者にとっては当たりまえだ。なんなら無詠唱でもいけるけどな。
「さ、流石勇者様ですわ! あれでフレイムアローだなんて!」
女エルフが驚きの声を上げてる。まぁ当然か。通常フレイムアローというのはその名の通り、せいぜいロングボウ程度の大きさのものを出現させる程度だが、俺のは見た目にはバリスタ級の炎弓であり、当然破壊力も桁違いだ。
因みにこれ以外にも火炎弾系の魔法で、ファイヤーボール、フレイムバーストボール……ヘルフレアボール、とパワーアップしていく魔法があるが、魔王を倒す前、魔王配下の三将軍の一人、ダークネスビショップのバラゾーマを相手にした時は、
「馬鹿な! 人間風情がヘルフレアボールだと!?」
「フッ違うな。これは只のファイヤーボールだ!」
と驚かせたものだ。
「へぇ凄いですねぇ」
……何こいつ? はぁ? 何あごに指添えながら余裕ぶってんの? 馬鹿なのかマジで?
まぁいいや。もういい。こいつなんかマジムカツクわ。遊んでやろうと思ったけど……これで! 終わりだ!
俺が放った炎の矢が淀みなく糸目に迫る。巨大な矢弾は、ヘタしたらこいつの身体を貫いて、細胞の一つも残さないほど燃やし尽くすかもな。まぁいっかどうでも。
「【フレイムアロー】!」
……は? え? 何それ? いや周りの女からも驚きの声が上がってるけど……なんでお前が俺と同じような魔法を――
そう糸目もバリスタ級の炎弓をその手に創りだし、そして矢を射った! その瞬間お互いの矢が衝突し合い、激しい轟音と共に衝撃波が駆け抜ける。
「クッ!」
土煙に思わず腕で顔を覆う。だがその煙の中に人影、そう! 糸目だ! な、なんだこいつ! レベル35の動きじゃない!
俺は思わず手持ちの最強の武器である【レジェンド】を異空間から取り出し、相手の剣激を受け止める!
くそ! だが俺にこの剣をもたせたが最後だ! こいつにもう勝ち目はない!
高速の動きで背後に周り、俺は糸目の頭めがけて、刃を振り下ろす。絶対に反応の出来ない動きだ! 間違いなく殺れる!
が、ガキィイイィイン! と鋼の撃ちあう音! この糸目……反応しやがった――その長剣で俺の一撃を……だが! おかしい! 例え受け止めても、その剣で耐えられるはずがない! 粉々に粉砕されてもおかしくないはずだ。
「どうした? 余裕がなくなってきてるぞ?」
これまでの妙に緊張感の無い顔から、一気に真剣味を帯びたものに変わってやがる!
くそ! なんなんだこいつは!
俺はそれからも自分の持てる限りのスキルを使用し、相手に攻め込む。だが、その全ては防がれ、相殺された。
ムカつく! なんだこいつ! ムカつく! だったら!
「ゴットブレイズテンペスト!」
そうこれは俺の最強の技。魔王戦では力を抑えて使ったが今回はマジでやった。多分女共も只ではすまないだろう。
だがイザとなったら女なんてどうとでもなる! そう、思ったのだが――
「ゴットブレイズテンペスト!」
そ、んな、糸目まで同じ技を……これは俺だけの技のはずなのに!
ぶつかり合う技と技。だがその力が均衡しあい、最終的には小さな球となって消失した。
結果として大して被害もでなく女も生きているが……なんでだ、こいつはレベルも高が35の筈なのに――
自然と俺は地面に膝をつき項垂れていた。頭が回らない。一体どうして――
「お前、そこの娘たちも巻き添えにしようとしただろう?」
俺はハッとして顔を上げた。糸目の顔は俺を蔑むものだった。
ふと辺りを見回すと女達も驚きを隠せない様子で、しかもガタガタと震えていた。
「な、なんだよ。何なんだよお前は? 一体……」
自分でも声に余裕が感じられないのがよくわかる。
「信じられないかい?」
「え?」
「レベル1,350,000,000の自分の力が通用しないのが信じられないかい?」
「!?」
「……どうしてそれを? て顔だね。まぁ驚くのは当然か。まさか自分以外にも転生者がいるとは思いもよらなかったってことかな?」
てん、せ、い、しゃ? 転生者! こいつも、こいつも、転生者、だ、と――?




