問題。
紗希さんから電話が来たその日、俺とアリサは早速紗希さんの家に向かった。
ちょうど晩御飯の方も出来上がりそうだったが、アリサがやけにそわそわしていたので、なるべく早い方がいいと思ったからだ。
お腹は減っているが、背に腹はかえられない、アリサのためだ。
母さんに晩飯は帰ってから食べることを伝えると、早速家から出た。
今日は忙しい日だ。
「これでやっと戻れるな」
俺は歩きながら、後ろで浮かびながら着いて来ているアリサに向かってそういった。
アリサは俺の方を見ると、笑顔を見せながらこくっと頷いた。
「うん!まぁまだ戻れるかどうかはわからないんだけどね…」
「まぁそうだけど、何か変わりはするだろ」
「そう願っとく」
この笑顔を見るのも、もしかしたらあと少しなのかと思うと、少し寂しい気持ちになってしまった。
まぁアリサとの時間は凄く充実していたからな。
そんなことを考えたが、そんな気持ちは胸の奥にそっとしまうことにした。
これはいい事なんだ。
だってそう思うのが普通だろ?
そんなことを思ったり、アリサと話をしていると、紗希さんの家へとついた。
早速インターフォンを押して、呼び出してみる。今回は流石にすぐ出てくると思うんだが。
しばらくすると、家の方から声がした。
「はーい」
玄関のドアが開くと、そこには紗希さんが立っていた。紗希さんは俺の顔を見ると会釈して、家の中へと入れてくれた。
紗希さんは、また前と同じ部屋へと俺たちを案内した。するとそこにはソファに寝そべりながらテレビを見ているミキの姿もあった。
「久しぶりじゃの」
ミキは俺たちの方を見ながらニコッと笑って、そう言って来た。
「久しぶり、って言ってもまだ三日もたってないぞ」
俺も笑いながらそんなことを言って、紗希さんにソファに座ることを勧められたので、座ることにした。
アリサも俺の隣に座った。さっきから黙っているが、ずっとソワソワしているのは変わらなかった。
紗希さんはというと、俺たちを案内した後、テレビの前ではなく別の机の前に座ると、参考書らしきものを広げて勉強を始めていた。
俺はミキの方を見ると、早速連絡があったことについて聞いて見ることにした。
「で、早速なんだけど、回復したのか?」
「うぬ、予定より早く回復したほうじゃ、礼はいらんぞ」
ミキは俺の方を見ながら、ない胸を張りながら、笑ってそう言った。
「そ、それじゃ、私、帰れるの?」
突然隣で黙っていたアリサが、ミキに向かっ
てそう聞いた。
「帰れる。まぁ、それには一つ問題があるんじゃがな」
問題?
俺はそう思いながら、何か儀式のようなことを考えていた。
生贄を捧げろとかだったら嫌だな。
そういうのはないことを祈りながら、俺はその条件について聞いて見ることにした。
「その問題って言うのはなんなんだ?」
ミキは、三秒ぐらいためると、さっきとは打って変わって少し深刻そうな顔をした。
「まぁ、簡単なんじゃが。お主がもう一回死ねばいいんじゃよ」
それを聞いた瞬間俺は、まるで時間が止まったような感覚と、強烈な寒気をかんじた。
今なんて言った?
「それって…」
固まってしまった俺の代わりに、アリサがミキにそう言った。
見ると、アリサの顔色は少し青ざめている。
「慎がもう一回死んだら、お主は魔界に戻れると言ったんじゃ。」
俺も話を聞いていたが、耳に入ってくるのは単語だけで、文章として入ってこなかった。
いや、たぶん自分が受け入れたくなくて拒否しているのかもしれない。
ミキの言っていることが理解できなかった。
「ふざけないでよ!」
突然、俺と一緒で黙っていたアリサが、勢いよく立ち上がりながらそう言った。
アリサ…。
「ふざけてなどおらん。我はいたって真剣じゃ」
ミキの方はしっかりとした目で、アリサを見ながらそう言った。
「お主を魔界に返すにはこれしかない、お主も少しは考えていたじゃろ?」
「そ、それは…」
アリサは今にも泣きそうな目をしながら、俺を見てきた。
アリサ、そんな顔するなよ。
お前にはそんな顔より笑顔の方がずっと似合ってる。
俺はお前のそんな顔を見たくて、手伝ったんじゃないんだぞ?
もっとしっかりしないと。
俺は最後まで、こいつが魔界に帰る手伝いをするんだ。
俺はアリサを見つめ返すと、ようやく回り始めた思考と一緒に、決意した。
アリサを、魔界に帰すんだ。
「一つ聞くが、俺の体は今不死身なんだ。それでも俺は死ぬのか?」
「死ぬ」
ミキは、すぐにそう返してきた。
たぶん、聞かれることを予想していたのだろう。
「そうか。それじゃ最後に、本当にそれしかないんだな?」
「…ない」
それを聞いた俺は、笑いながら
「そうか、なら仕方ないな」
と、言った。
「最後って…、仕方ないって…、慎!」
アリサが俺の腕を掴みながらそう言った。見ると、目の端には涙が溜まっている。
「アリサ、いいんだよ。どうせあの時に俺は死ぬはずだったんだ。俺は運がよかったんだぞ?少しだったけど、寿命が伸びたってことだし、アリサみたいな可愛い子にも会えたんだからな。」
本当は悲しいはずなのに、少しかなかったアリサとの日々を思い出しながらそう言うと、不思議と笑いながら言えた。
「ま、こと…」
アリサの目からは、ついに涙がこぼれ出してしまった。ついに泣いてしまった。
「アリサ、泣くなよ。お前にとっていい事なんだぞ?」
「そんなの、全然良くないよ!」
アリサが泣きながら、俺の胸に顔をうずめて俺を叩いてきた。
「約束しただろ?お前を魔界に帰すの手伝うって。きっとこれも運命だったんだよ。」
泣いているアリサの頭を撫でながら、そう言った。
やっぱ、サラサラだ。
この頭を撫でるのも最後になるかと思うと悲しいが、仕方ないと思えた。
アリサのためだからだ。
「うっうっ…、わぁーー」
アリサはそれからずっと泣いていた。
その間俺は、ずっと頭を撫でて、アリサが落ち着くのを待っていた。
途中、紗希さんが何かあったのか聞いてきたが、何も言わなかった。
あまり迷惑もかけたくなかったからだ。
「落ち着いたか?」
やっと泣き止んだアリサは、俺から離れると、近くに置いてあったティッシュで涙や鼻水を吹いていた。
俺の服も結構濡れている。
俺もそれを拭こうと思って、ティッシュ箱に手を伸ばそうとしすると、アリサがスッと、俺の手が届かない位置にテッシュ箱を移動させた。
「私が拭く…」
もう数枚取ると、俺の服の方も拭いてくれた。
「ありがと」
俺はそう言って、もう一度アリサの頭を撫でた。
「…バカ」
アリサはそう言って少し俯くと、再び拭き始めた。
少し顔が赤くなっている。
まぁ、目の周りはもっと真っ赤だけど。
「おさまったかの」
俺たちを心配そうに見ていたミキが、俺の方をみながらそう言った。
俺は、アリサの方を少し見ると、アリサは下を向いているが、コクっと頷くと、もといた場所に座り直した。
「大丈夫だ」
俺もミキを見てそう言った。
「そうかの、ではいくぞ」
「あぁ、頼む」
俺がそう言うと、ミキは立って、部屋から出て行った。
俺たちも立つと、ミキについて行った。
紗希さんはついてこなかった。
多分、事前にミキが何か言っていたのだろう。
心配そうな顔をしながら、俺を見送ってくれた。
しばらくついていくと、ミキは横断歩道の上に立ち止まった。
今はまだ車も通りそうな時間なのに、不思議と車は走っていない。
「人払いはしておいたから、前みたいにはねられることはないじゃろ」
思い出すとそこは、俺が紗希さんの乗っていた車にはねられた場所だった。
「では、始めるかの。」
そして、俺が死ぬための、魔法の詠唱が始まった。
自分にもっと力があれば…。
悔しいです。
昼のバイトをやめました。
これからはもっと早く投稿できると思います。頑張ります。
感想や、こうしたらもっといいなど、お願いします。