結果。
目の前では、ミキが魔法の詠唱をしている。
まぁ、本当にそうかどうかはわからないんだけど。
アリサは俺の隣にいるが、ここに来た時からずっと下を向いたままだ。
俺は、そんなアリサに何か言ってやろうと思ったが、結局何も出てこなかった。
俺が何を言った所で、今のアリサを元気にすることは出来ないだろうと、思ってしまう。
ごめんな、アリサ。
しばらくすると、ミキの周りが光り始めた。
どうやらもう少しで詠唱が終わるみたいだ。
ミキの方を見て見ると、ミキも俺を見て軽く頷いた。
終わったらしい。
「後は、慎がこの中に入れば終わりじゃ」
ミキは、自分が立っている場所を指さしてそういった。
よく見ると何か円のようなものの中に、いろいろ書かれている。
こういうのを魔法陣って言うんだろうか。
「…わかった。それじゃアリサ、もうお別れだ」
俺はアリサの方を見ると、なるべく不安な気持ちを表に出さないようにそういった。
アリサは一瞬ビクッとしたが、それぐらいしか反応はなかった。
「短い間だったけど、凄い楽しかった。まだまだ、お前に見せてやりたい漫画とか、見せてやりたい場所とかいろいろあるけどこれで最後だ」
最後は笑顔で、
「死んだ後、しっかり俺の魂を送ってくれよ」
そう言って俺は、ミキの方へと歩いて行った。
「…ま、こと…」
アリサがやっと反応してくれた。
今振り返ったら決心が鈍りそうだったから、俺は振り返らないことにした。
多分アリサは泣いている。ああ見えて結構泣き虫だからな。
「…慎!」
アリサが俺の名前を読んでいる。
涙声だった。
やっぱり泣いている。
「ありがとな」
俺が背中越しにそう言うと、魔法陣の中へと足を踏み入れた。
「いいのかの…?」
見ると、ミキの方も深刻な顔をしている。
「あぁ、ミキもありがとな」
「礼を言われる立場じゃないわい。こんな若造に気をつかわせるとは、我もまだまだじゃの」
最後の方は笑いながら、俺に言ってきた。
いやいや、ミキがいなかったら俺はアリサに会えなかったんだ。
貴重な体験だった、本当にありがとな。
言葉にはしなかったが、もう一度ミキに礼をした。
突然ポケットの中で携帯が鳴りだしたので取り出して見て見ると、先輩からメールがきていた。
差出人:菊理先輩
件名なし
本文
まぁ、それは仕方ない。
せっかく病院にも行ったのに、もういなかったのは許さんがな!
…、次集合する時は必ず来いよ?
そんなメールだ。
病院にも来ていたのか。
もう部活に行くことも出来ない。
悪いことをしてしまったな。
「ミキ、最後にお願いがあるんだが」
俺は、最後にミキにお願いをすることにした。
「なんじゃ」
「俺が死んだ後、みんなから俺のことを忘れさせてほしいんだ。流石に無理か?」
「出来る。まぁ最初からそのつもりじゃ」
そうだったのか。
まぁ、やっぱり事故のせいで死んだってなったら、紗希さんにいろいろと迷惑がかかるからな。
よかった。
「ならいいんだ。始めてくれ」
「うぬ」
俺がそう言うと、ミキは両手を俺の方に向けて、また詠唱し始めた。
なんだか胸が凄い暖かくなってきた。
死ぬのがこんな感じなら、悪くはないな。
自分でそう思いながら笑ってしまった。
不思議と未練はなかったからだ。
まぁ、まだまだやりたいこととかいろいろあったんだけど、それはまた来世でな。
最後に、結局アリサの方を見てしまった。
目からはポロポロと涙がこぼれている。
本当に泣き虫だな。
アリサの笑顔が見たかったが、それは無理みたいだ。
しょうがないやつだ。
俺はアリサに手を振ると、目を閉じた。
じゃあな、アリサ。
俺が言葉にはしなかったその言葉を、言い終わると、まぶたを閉じていてもわかるほどの光を感じた。
温かい光だ。
俺がその光に身を任せようとした、次の瞬間。
「やっぱりそんなの嫌だ!」
ドン!
はっきりとした声がして、突然体が吹き飛ばされた。
いった!
なんだ!?
閉じていたまぶたを開けて見て見ると、さっきまで俺がいたその場所に、アリサがいた。
「こんな終わり方、私は絶対に嫌だ!もっと私に、面白い漫画見せてよ!もっといろいろな所に連れて行ってよ!…最後だなんて、いわないでよ…!」
泣きながらそう言っていた。
「お主…!早く離れるのじゃ!」
ミキがそう言った瞬間、魔法陣の中の光が大きくなり、全体が強烈な光に包まれた。
「アリサ!」
「キャー!」
そこからのことはあまり覚えていない。
次に俺の目が覚めたのは、知らない天上だった。
横を見て見ると、可愛らしい顔をした女の子が、これまた可愛い寝息を立てていた。
アリサだ。
「ここは…」
周りを見て見ると窓があったので、かかっていたカーテンを開けて外を見て見ると、外はもうすでに明るかった。
時間を確認するために携帯をみると、時間はちょうど7時を表示していた。
「おきたかの」
不意に後ろから声がしたので見て見ると、ドアの近くにミキが立っていた。
「ミキ…。ここは?」
「ここは紗希の家じゃ。それよりお主、体に何か以上はないかの?」
俺はそう言われたので、いろいろ確認してみた。結果、頭が少し痛い所を除けば、たいして以上はなかった。
「いや、大丈夫だ。そ、それより、結局どうなったんだ!?」
やっと追いついてきた思考は、今さっき起こったことのようにも感じる、魔法陣の光に包まれた二人について答えを求めた。
「我の方はなんともない。魔力の方は、また随分と消費したがの。しかし、そっちの娘の方は…」
そうミキが言った時、アリサもちょうど目を覚ましたようだ。
むくっと起きると、大きく伸びをした。
「んー、…おはよ」
「アリサ!大丈夫か!?」
俺は、眠たそうなアリサの肩をつかむと、そう聞いた。
「い、痛い、痛いって慎」
「あ、すまん。それで、大丈夫なのか?」
無意識に力を入れすぎてしまったようだ。
アリサの肩から手を離すと、俺はもう一度そう聞いた。
「ん?まぁ、別に何も…。」
「お主、前みたいに浮かべるかの?」
それを聞いたアリサが不思議な顔をしたが、顔の方はすぐに焦り顔になった。
「え、どうして…」
「どうしたんだ?」
俺は何が起こったのかわからなかったので、とりあえずアリサに聞いてみた。
「なんか、浮かべない…」
それって。
「やはりの。どうやらお主、人間になってしまったみたいじゃの」
その後、俺たちはミキの話を一緒に聞いた。
ミキの話によると、俺にかけようとした魔法は人間に戻すための魔法だったみたいで、それが突然魔法陣に入ってきたアリサに、間違えてかかってしまったと言っていた。
もう魔法が発動寸前だったことや、あまりに突然だったのでミキも途中でやめることは出来なかったらしい。
それを聞いた俺たちは、あまり長くお世話になるわけにも行かないので、とりあえず家に帰ることにした。
紗希さんはまだ寝ているみたいだったので、後でお礼の電話を入れることにする。
「すまぬのう」
ミキが俺たちに向かってそう言ってきた。
「ミキは悪くないよ。てか、こっちの方が謝らないとな。ごめんな」
「ごめん」
俺とアリサは一緒に謝った。
せっかく回復した魔力を無駄にしてしまったようなものだ。
謝るなら俺たちの方だろう。
「ありがとの」
ミキは最後に笑顔でそう言った。
「アリサ、よかったのか?」
家へと帰る途中、隣で歩きながらついてきていたアリサに向かって、聞いてみた。
「…うん。あの時私がした行動は、今でも間違ってないと思ってるから、いいの」
「そうか」
「それに、面白い漫画見せてくれたりとか、いろいろな所に連れてってくれるんでしょ?」
アリサは俺に、可愛いらしい笑顔を向けながら、そう言ってきた。
俺も、その笑顔にたいして苦笑いしながら
「任せろ」
と言った。
家もあと少しだ。
アリサのことを母さんや雫に話すのは少しためらうが、俺が頑張るしかない。
ふと立ち止まって携帯で日付を見ると、夏休みも後少しで終わることに気がついた。
隣ではアリサが、俺が立ち止まったのを不思議そうな顔をして見ていた。
アリサの方を見ながら、残りの休みをアリサと過ごすのも悪くないなと思うと、俺は携帯を閉じた。
「これからもよろしくな」
「うん!こちらこそ」
そう言いあった俺たちは再び家に向かって歩き出す。
助けてくれて、ありがとな。
そう、心の中でアリサに感謝した。
とりあえず、これで完結にしたいと思います。
リクエストがあれば書こうと思いますが 笑
見てくれた方ありがとうございます。
感想や、こうしたら良いなど、よろしくお願いします。




