始まり。
季節は夏。
とっても暑い季節だ。
「暑い…。」
家から、数分ほど歩いた俺はつい、口からそんなことを口走っていた。
朝見たニュースでは、綺麗なアナウンサーの女子アナが最高気温31度と、言っていたような気がする。
そりゃ暑いはずだ。
今は学校へ行く最中の通学路だが、暑すぎて下ばっかり見て歩いていた。
前を見ると太陽の光がすごかったし、下を向くとちょうど良かったからだ。
しかし、いくら暑いからといって危ないからそんなことをしたら駄目だな。
ちゃんと前見て歩かないと。
例えば、信号が赤なのに、それにきずかずに横断歩道を渡っていて車にぶつかったりしたら、本当に大変だ。
まぁまさかそんわけない。
普通ならそう考える。
だって人生で車にひかれることなんて、なかなかないだろう?
確かにテレビでは、毎日ではないが、心が痛むような報道がされている。
誰だって、まさか自分がそんな事故に遭うなんて、思いもしないだろう。
しかし人生とは時に残酷なものだな。
横断歩道を、きずかずに赤で渡っていた俺に赤い車が突っ込んで来ていた。
周りには耳をつんざくような、クラクションの音が響き渡る。
車と自分の体がぶつかる瞬間は、みしみしと骨が折れるような音もした。
そして次に襲ってくるのは、痛みだ。
身体中には、今まで味わったことのない強烈な痛みが襲ってきた。
やっぱり駄目だな。
いくら暑いからといって下を向いて歩いちゃいけない。
これからは上を向いて歩こう涙がこぼれないように。
…確かそんな歌があったな。
周りで女の悲鳴や、助けを呼ぶ男の声などがする。
薄れていく意識の中、半開きの目で見た世界では、車から降りてくる女の人が見えた。
女の人は俺の近くに来ると、焦った顔をして携帯でどこかに電話を掛けていた。
可愛い人だったな…。
そして意識は、深い闇へと落ちていった…。
俺が次に起きたのは、知らない天井だった。
頭は痛むが、どうやら命だけは助かったようだ。
安心安心。
これで死んだりしたら、俺の部屋にあるエロ本やその他恥ずかしいものが、親にばれて死んだ後で後悔するところだった。
まぁ死んだ後に後悔することなんてできないんだろうけど。
てか、何をのんきなことを考えているんだろう。
馬鹿だな俺は。
まぁ何はともあれ、助かった命だ、これからも大切にして行こう。
そう心に固く違いました。
そんなことを考えながら、周りを見てみる。
ベットの横にある棚には、誰かがお見舞いの時に持ってきたのか果物が置いてあった。
うまそうだな。
果物はやっぱり、りんごが美味いよな。
あの漫画の死神も好きだし。
その他には、特に何もなかったのでナースコールで、ナースさんを呼ぶことにした。
しばらくすると、ナースさんが心配そうな顔をしてドアを開けて入って来た。
若くて綺麗な人だ。
どうせおばさんが、来るもんだと思っていた俺は一気に緊張した。
「起きましたか?よかったです。」
ふっといきを吐いて、天使のような微笑みでナースさんは言った。
胸にある名札を見ると、平井 芽伊と書いてある。
いい名前だ。
別に胸が大きいなとか思ってないぞ。
…おおきかったです、はい。
「すぐに先生を呼んできます。」
そう言って平井さんは、走って出て行った。
俺は見ました、揺れる二つの山を。
眼福です。
しばらくするとすこし年をとった老人の先生がやってくる。
すごく優しそうな顔をしている。
「えーと、自分の名前などは、わかりますか?」
「はい、一之瀬 慎です、よね?」
自信がなかったので、つい疑問系になってしまう。
「あ、大丈夫ですよ。あってます。」
安心したような顔をした後先生はそう言って、カルテ?に何か書いた。
よかった、これで自分の名前が違ってたら大変だったよ。
記憶喪失とか、マジ勘弁だ。
「まぁでもしばらくは、検査入院という形で、ここに入院してもらいますんで、そのつもりでいてください。親御さんにも、こっちから連絡しますんで。」
「ありがとうございます。」
「それにしてもあれほどの事故で、特に酷い外傷がないのは奇跡ですね。本当によかったです。それでは、何かあったらまた、ナースコールでもしてください。お大事に。」
先生はそう言うと、席を立ち病室から出て行った。
あっ、ちなみにここは一人部屋だ。
リッチだな。
今更だが気になって、自分で体を確認してみたが、本当に特に何も怪我をしていなかった。
自分でも結構酷い事故だったと思うんだがな。
骨が折れたような音もしたのに、折れてないって凄くないか。
まさに奇跡だな…。
まぁ何もないなら、とりあえずは一安心か。
てか今更だけど、事故にあったのに結構呑気だな俺。
まぁこういう性格だから仕方ないか。
それからは、特に何もすることがないので、俺は寝ることにしようとした。
いやいや、その前にやる事があるか…。
日付けを確認しなくては。
もう一度周りを見てみる。
さっき見た果物が置いてある棚の、引き出しを開けると、自分の私物らしき鞄があった。
中を探るとスマートフォンが出てきた。
「マジかよ…。」
画面を見ると、引きつった顔をした俺の顔が写っているが、その顔は見事に割れていた。
そう、スマホの液晶が割れているのだ。
多分ひかれた時に、割れてしまったのだろう。
車に当たる時、とっさに鞄を盾にしたからな…。
てかそんな暇あるなら避けろよ自分。
笑えねぇ。
一応電源を入れようと試みるが、結局入らなかった。
仕方なく、他の方法を探す。
携帯は諦めて、もう一度棚の方を見て何か使えるものがないか見てみる。
よく見ると、果物が置いてある所の奥にデジタル時計らしきものが立ててあった。
果物が邪魔で見えなかったのだ。
それを手を伸ばして取り、日付けを確認した。
時間は昼の一時を回っている。
どうやら一日近く気を失っていたらしい。
俺が事故にあった日から一日が経過していた。
結構重体だったのだろうか…、まぁでも平井さんや、先生の反応を見るとそうでもないか。
安心して寝れる。
実は夢で俺は死んでいた、なんてこともないだろう。
…ないよね?
一瞬寝るのが怖くなったが、本当にやる事が無いため寝ることにする。
家族がお見舞いに来た時に何か持ってきてもらおうかな。
そんなことを考えながら、眠りについた。
ふと、頬に風を感じて、目が覚めた。
目を開けて確認すると、あたりはすでに暗くなっていて、まだ目が暗さになれてないせいで何も見えなかった。
そしてなぜか暑いはずなのに寒気もかんじていた。
確かにクーラーは効いているおかげで涼しいのだが、この寒気はまた違う感じの寒気だ。
窓が閉まっていたはずなのに空いているということは、ナースさんか誰かが明けたのだろうか。
俺は気になって、窓の方をみてみた。
するとそこには、何か黒いものがもぞもぞ動いていた。
ようやく暗闇に慣れてきた目を凝らしてよく見てみる。
するとそこには、よく漫画やゲームで死神が持つような鎌を持って、黒いマントのようなものを身にまとった小さい少女が、窓枠を足の間に挟んで俺がいるこの病室に入ってきているところだった。
「え、誰?」
びっくりした俺は、口から震えるような声でそんなことを言っていた。
すると、全身をこの病室に侵入させることに成功したその少女は、すこし体をビクッとさせてゆっくりと、頭をこちらに向けてきた。
そしてお互いの視線がぶつかり合い、静かな時間が流れた。
実際に全然時間は立っていないのだろうが、俺にとっては、凄く長く感じた。
「キャーー!!」
突然、その少女は悲鳴をあげた。
「お、おい静かにしろ!てかなんでお前が驚いてんだよ!」
我ながら凄く落ち着いていた。
てか、本当にどうして向こうが驚いてんだよ。
すると廊下の方から、カツカツと、誰かが走ってやってくる音がした。
多分さっきの悲鳴を聞きつけてやってきたのだろう。
俺のいる病室の前で足音が止まると、素早くドアが開かれた。
「どうしましたか!?」
病室に入ってきたと同時に、電気もついた。
ちなみに、入って来たナースは平井さんだった。
俺はどうしようかと思ってしばらく固まっていた。
隣ではさっきの少女が、床にうずくまって震えていた。
「何かあったんですか!?」
平井さんは、相変わらず心配している顔でそう訪ねてきた。
「え、えっと、さっきのはそこにいる女の子が…。」
俺はとりあえず、隣でうずくまっている女の子を指差してそういった。
すると平井さんは不思議な顔をして、
「…女の子?」
といって、俺が寝ているベッドの横を確かめるように、そっと覗き込んだ。
「えっと…、誰もいませんけど…。」
またまた不思議な顔をして平井さんは言った。
えっ、と思った。
だって俺の目には今でも、そのうずくまって震えている少女が見えているのだから。
「えっと…まぁ、何もないならいいんですけど。何か、幻でも見たんでしょう。とりあえず、明日先生に報告しときますね。」
相変わらず、心配そうな顔で俺を見ながら平井さんはそう言ってくる。
「私はいますので、何かあったら呼んでくださいね。」
最後にそう言って、平井さんは出て行った。
俺は、今目の前で起きていることが不思議すぎて、何も言葉にすることはできなかった。
見えてない?
再び暗くなった病室で、俺はまたその少女を見た。
いい加減落ち着いてきたのか、うずくまったままチラチラと俺の方を見てきていた。
俺は不思議に思ってその少女に手を伸ばして頭を触ってみる。
血のように赤く、長いその髪は凄くさらさらで触っていて気持ちよかった。
ずっと触っていたいくらいだ。
「い、いつまで触ってんのよ!」
ばっ!と手で払いのけられた。
つい夢中で触っていたようだ。
「ご、ごめん。」
「ま、まぁいいわ、とりあえずは仕事よ!」
そう言って、少女は驚いた時に手放してしまったのだろ、近くに転がっていた鎌を取るとそう言った。
「ちょっと待てよ、仕事って何だ!?とりあえずその鎌を降ろせ!」
「どうせ死ぬんだから、理由なんて聞いても意味ないじゃん。覚悟!」
そう言うと女の子は、おもいっきり鎌を俺に振ってきた。
俺はとっさに避けて、ベットから飛び降りた。
自分でも凄い反応だと思った。
てか、本当に自分でびっくりした。
「お、おい危ないだろ!てか死ぬってなんだ!?」
「今のを避けるなんて…、やっぱりあなたが規則違反者ね…。」
この言ったことはことはまるで聞いてなく、女の子は驚いた顔でそんなことを言っていた。
規則違反者?
俺は何のことだろうと思った。
別に規則を破るようなことはしていないんだけど。
「とりあえず落ち着こう、話せばわかるって!」
俺は必死に説得するが、今の彼女には何を言っても、無駄なようだった。
「うるさーい!とりあえずあなたは死ぬのよ!わかったら死になさい!」
ブン!!
俺はとっさによけたが、空を切った鎌が目の前を横切った。
俺の前髪から数本髪の毛が、ぱらぱらと落ちて行った。
冗談じゃない。
せっかく助かった命だ、こんなとこで死ぬなんて絶対あえりえない!
そう思って俺は、病室を一目散に駆け出した。
「あ!こら、待てー!」
後ろの方では、さっきの女の子が叫ぶ声がしていた。
ぼちぼちやっていきます。
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