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カスミソウ

「カスミソウ」

その花を見て思い出すのは「母」だった。

私が小学生の頃、母の部屋にカスミソウが逆さまになって干されていたことがあった。

花をなぜ逆さまにして干してあるのか意味が解らなかった私を見て母は

「お母さんカスミソウが好きなの。こうやって干しておくと花は乾燥してドライフラワーになるのよ」

って教えてくれたことがあった。乾燥したカスミソウは居間に飾られ家を明るくしてくれた。

母の優しい笑顔・声・手のぬくもり・怒った顔・泣いている顔・全てが懐かしく感じる。

さっきまでは気づかなかったけれど、この手紙からかすかにカスミソウの匂いがした。

「お母さん」

私は「母」に手紙を書くことにした。


「お母さんへ」

お母さん。大好きなお母さん。どうか泣かないでください。お母さんの元に産まれ、育てられて私は心から感謝しているのだから。

「人生何が起きるかわからないもの」

そうやってよく口に出していたよね。本当にそう思います。

まさか自分が早く死んでしまうなんて思っていなかったから。

お母さん…お母さんこの手紙で何を書こうかってすごくすごく悩みます。

いっぱい伝えたいことがあるから

伝えたいことがありすぎて先に涙が出てしまうほどです。

でも伝いたいことがあるんです。

お母さんが私のお母さんであったこと心の底から

「ありがとう」

と言いたい。

私が物心つく前にはもう働いていて

私がなくなるまでずーと働きっぱなし

身体が休まる暇はあるんだろうかと心配でした。

両親が離婚して、兄2人と姉と私を引き取り一人で育ててくれたこと

本当に感謝しています。


お母さん覚えていますか?

私が小さい時に名前の事で文句を言ったことを

「お姉ちゃんの名前は「かがり」なのになんで「なおこ」は「なおこ」なの?」

と自分の名前の語尾に「子」が付いている事が嫌で聞いたことがありました。

「お姉ちゃんの名前の最後には「り」が付いているんだから「なおこ」の名前も「かおり」とかが良かった」

なんて、生意気だった。

そんな私にお母さんは

「「なおこ」って名前はお母さんが考えたのよ。1週間も考えたの。「なおこ」って意味は「素直な子になりますように」そして「正直に育ってほしい」っていう意味が含まれているの。徳が高い和尚さんの「尚」の1文字をもらって「尚子」なのよ」

って言ってくれました。

名前の意味なんて知らなかった。すごく考えて付けてくれた事さえ知らなかった。

その話を聞いて自分が「尚子」である事を嬉しく思いました。


時は過ぎて30歳になった時

お母さんがふっと

「名前通りに育ってくれてうれしいわ」

と言ってくれたことがありました。

めったに人を褒める事をしない母が、私の何を見てそう思ったかはわかりません。

でも、その時「ぽつり」と呟くように言ったのです。


迷惑かけ通しで、いつもお仕置き棒で追っかけられていた私ですが

その言葉を聞いて心が踊っていました。


自分に正直であったか聞かれると

そうではなくなってしまっていたように思います。


でも、一つだけ自信を持って言えることがあります。

お母さんが付けてくれた「尚子」という名前のおかげで

自分の夢に向かって正直に生きてこられました。


そこには挫折や苦悩が沢山ありました

でも折れる事のない「芯」が出来ていました。

「尚子」という名前の通り

自分の夢を叶えることが出来ました。


お母さんが付けてくれた私の名前

素直に正直に生きてほしいとつけてくれた名前

本当に感謝してます。


「お母さん」と声を出して呼ぶこともできず

身体に触れることもできない

だけどねお母さん…


お母さんが付けてくれたこの名前

授けてくれたこの命のおかげで

短い生涯だったけれど沢山の人たちに出会うことが出来たし

親友や友達ができました。


それはお母さんが私を産んでくれたおかげで出会えた奇跡です。


お母さん

泣かないで

お母さんの名前は「まりこ」でしょ

おばあちゃんとおじいちゃんがどんな意味を付けたかはわからないけれど

「真に強い子であってほしい」と願ってつけたのかもしれない


お母さん

泣かないで

この真実を受け止めて力強く生きてほしい

残された時間を有意義に使って長生きしてほしい


親孝行ができなくてごめん


だけどお母さんの子供でよかった

ありがとうお母さん




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