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【4】立ちなさい、「私の騎士」!

 わあ。どうしよう。

 迷っている間にもう、2人は走り出していた。

 蹄の音が轟く。地面が震え、正面から槍を抱えてぶつかり合う。


 時間が止まり、音が消える。


 色さえも失せた静寂の中、槍がまっすぐに繰り出され……盾の守りをかいくぐり、同時に2人の騎士の胸を突いた。


 どうっと地面に落ちる。青い鷲の騎士も。赤い鷲頭馬の騎士も。

 地響きとともに馬が駆け抜ける。


 2人は動かない。

 立ち上がり、拳を握って叫んでいた。

 かっこ悪いとか、目立ちたくないとか、私はお味噌だからとか、そんなの関係ない! 

 体中の声と、力を全て振り絞って叫んだ。


「立ちなさい、ディーンドルフ!」

  

    ※

 

 競技場に少女の声が響いたその刹那。


 もぞり、と騎士の手が動いた。手探りで折れた槍を掴み、肘をつき、ゆらありと起き上がる。

 落馬の衝撃で、兜がどこかに飛んでいた。顔も髪もむき出しで、歯を食いしばっているのがありありとわかった。


 そして、彼は立ち上がる。

 口元から血を滲ませ、低く唸りながらもしっかりと地面を踏みしめて。

 左腕に巻かれた水色のハンカチが、風に翻る。


 一方で青鷲の騎士もまた、よろよろと起き上がろうとしたが……

 途中でがくり、と膝を着いてしまった。

 この瞬間、勝敗は決した。

 高々と旗が上がる。


「勝者、ディーンドルフ!」


 どっと歓声が上がった。   

 

 それに続く一連の出来事を、ニコラ・ド・モレッティは半ば夢の中にいるような心地で受け入れた。


 傷だらけでぼろぼろになりながらも、誇らしげな『彼女の騎士』が跪く。

 その頭上に小さな手で月桂樹の冠を被せ、手の甲にキスを返された。

 勝利の旗を掲げる彼とともに馬の背に乗り、場内を一周した。


 勝利の行進を終え、抱き上げられて馬から降ろされた時。ありったけの勇気をふりしぼって彼の頬に触れた。


「傷、痛くないの?」

「うん、ちょっと痛いかな? でもこの程度ならどーってことない」


 ディーンドルフは白い歯を見せて、顔中をくしゃくしゃに笑みくずした。


「今日の勝利を君に捧げる。君の声が力をくれた。ありがとう、レディ・ニコラ!」 

 

     ※

 

 モレッティ家の二の姫、レイラはあいにくと、妹の晴れ姿を目にすることはできなかった。

 試合後、天幕に寝かされて、治癒術師の治療を受けていたからだ。


「見事だね。的確にして強烈だ。正に改心の一撃って奴だな」

「ああ。私が女だから。団長の娘だからと、誰しもが感じていた無意識の遠慮を軽々と振り切っていた」


 治癒術師は傷の上に手をかざし、静かに祈りの言葉を唱えた。

 手のひらに集まる柔らかな光がレイラの胸元に吸い込まれ、内側から傷を癒して行く。

 肌に浮いていた赤い痣が薄らぎ、消えた。文字通り跡形も無く。


「どう?」

「ありがとう、楽になった」


 ほっと息を吐くと、レイラは肌着に袖を通した。


「あいつは『本物』だ。最初から最後まで、一人の騎士として、私に全力で向き合った。手加減の手の字も見せずに」

「………試合が終わるまではね」


 試合後、『勝利の行進』の始まるまでのわずかな間に、ディーンドルフはこの天幕に、息急き切って駆けて来たのだ。

 レイラの無事を知らされるまで、決して動こうとはしなかった。


「惚れた?」

「そうね、貴方と出会う前なら、あるいは……ね」


 ほほ笑みながら治癒術師は上着を広げ、レイラの肩に着せかけた。

 見つめ合う瞳、求め合う唇の距離が0になる。

 相思相愛の恋人たちには、試合の結果より大事なことがあるのだ。

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