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【3】ツンデレ姫は規格外

 

 半分、夢を見てるみたいな気分で客席に戻った。


「ニコラってば、どこに行ってたのっ! 心配したわよ?」

「ん、ちょっとそこまで」


 姉さまたちは顔を見合わせ、肩をすくめた。


「あら、あなた、手提げ袋の口が開いたままじゃない!」

「うん……ハンカチ出したから」

「え?」

「ちょっ、姉さま、マイラ姉さまっ」


 わあ、セアラ姉さまってば声が上ずってる。目も真ん丸で、口ぽかーんと開けちゃって。すごく珍しいもの見た。


「あれ、あれ見て!」

「あら、あら、まあまあ」


 指さす先では、『私の騎士』が誇らしげに、栗毛の馬にまたがって進み出る所だった。

 兜で顔はわからないけれど、白いサーコートの胸には、ラベンダーを掲げて羽ばたく赤い鷲頭馬の紋様がくっきりと見える。たくましい左腕には、水色のハンカチが翻っていた。

 お気に入りのドレスとおそろいの、私のハンカチが。


 あれっと思ったらマイラ姉さまに抱き寄せられて、頭をなでられていた。


「そう! そう言うことだったのね!」

「ねーさま、くすぐったいよ」

「ふふ、うふふっ」


 何だかすごく楽しそうなマイラ姉さまとは裏腹に、セアラ姉さまは眼鏡の縁に手を当てて、眉間に皴なんか寄せちゃってる。


「白地に赤のヒポグリフ……姉さま、あれって、もしかしてハンメルキン家の」

「しっ、ほら、試合が始まるわよ?」


 ラッパの音が高らかに鳴り響き、馬上槍試合が始まった。

 壇上でお父様が何か言ってるけど、もう聞こえない。居並ぶ騎士の中にレイラ姉さまがいるはずだけど、もう目に入らない。

 

 ただ一人、『私の騎士』以外は。  

 

     ※

 

 槍試合なんて、どこが面白いのかぜんぜんわからなかった。

 鎧兜で武装した騎士が、がっつんがっつんぶつかり合って。煩いだけ、ほこりくさいだけだって思ってた。


 でも、今日は違った。

『私の騎士』が戦ってる。ただ、それだけのことで夢中になって、気がついたら私、大声で応援してた。

 

 はずかしい。 はしたない!

 でも、止まらない。


「がんばって! そこだ、行けーっ!」


 槍試合のルールは単純で、荒っぽい。

 競技場の真ん中を仕切る柵の右と左に別れて、馬に乗った騎士がまっすぐに突進、ぶつかるだけ。片方が馬から落ちても。槍が折れても、立ち上がったら試合続行。


 どんな武器を使ってもいいから一対一で戦い続ける。『試合が終わった時、立っていた方が』勝ち。

 使ってる槍は競技用の木製、剣にも刃はついてないけど、叩きつける力は全部、本物。


 若い騎士の試合はさくさく進む。大抵、最初の激突で先に落馬した方が負けて、そこでおしまいになるから。


 まだまだ動けるはずなのに、わざと判定の旗が上がるまでひっくり返ったまま。

『のこのこ起き上がるのはかっこ悪いから』なんだって。

 でも年齢を重ねると、格好を気にせずみんな粘り強くなる。土にまみれて、兜が飛んで、ぐしゃぐしゃになっても戦い続ける。

 さっさと引き上げた若い騎士が『これだからおじさんは』なんてせせら笑って見てるけど……。


 動けるのに、ひっくり返ったままの方が、ずっとかっこ悪いって思うんだけどな?


(その左腕に結んだハンカチは何なの)

(あなたにとって『レディの名誉』なんてその程度の重さなの?)


 でも、これが普通らしい。

 ほとんどのレディは満足していて、文句も言わないみたいだし。

 気にする方が変なのかな。

 でも……


(だったら私、『普通』じゃなくていい)


『私の騎士』は、強かった。

 正式な騎士になってから一年ちょっとしか経ってない。自分専用の馬も持ってない下っ端の新人なのに、決してあきらめなかった。


 倒れても、剣が手から飛んでも立ち上がり、戦い続けた。時には盾を振り回し、自分の手足を武器にして。

 それは、洗練された『普通の』レディや騎士たちにとっては、みっともないこと。格好悪いことに見えるんだろう。

 でも、私は嬉しかった。


『負けたら承知しないんだからね?』


 その言葉を、しっかり受け止めてくれたんだって、わかったから。

 ディーンドルフは傷だらけになりながら、泥だらけになりながらもじわじわと勝ち進んだ。夢中になって応援し、はっと気がつくと決勝戦になっていた。

 対戦相手の紋章は、星に向かって羽ばたく青い鷲。


「レイラ姉さまっ?」

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